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アザランの花  作者: 神山 りお


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15/38

*15 夜盗



「僕は……アレン様は……裏口から逃げ様とした処で……待ち伏せしていた賊に斬られたんだ……ごめん……ごめんなさい」

 クリスは最後に謝ると、肩を震わせて涙を流していた。

 裏口には着いたものの、待ち伏せしていた賊達にアレンも自分も斬られ倒れた。誰も助けられなかった……と後悔の念しかなかった。

 何故助かったのが、アレンではなく自分だったのか。悔やんでも悔やみきれないのだ。



 夜だった上に豪雨で視界が悪かった事。途中で合流した使用人が先に盗賊に斬られた事。その斬られた使用人がクリスに覆い被さった事。

 その複数の偶然が重なり助かったのである。



 その後は、良く覚えていない。フラフラと誰かに助けを呼ぼうと街に向かったのは記憶にはある……だが、数日後に目を覚ました時には、惨劇の後だったのだ。



 それから、クリスは人づてにシュレミナが生きているらしいと耳にし、逢うためにゾット侯爵に頭を下げ雇われていたのであった。

 勿論、自分が侯爵家の生き残りだとは隠したまま……。





 *・*・*・*・*





「そうか……」

 それを聞き、ガイド元隊長は辛かったなと優しく声を掛け抱き締めた。

 クリスが何故そこにいたのかが、分かったからだ。クリスは何も悪くはない。彼もまた被害者なのだから。



「それから、シュレミナは……」

「ああ……ゾットに折檻されていたんだな?」

 だから、あんなに痩せていたのかと、ギリギリと唇を噛み締めたガイド。

 どうにも許せなかったのだ。あんなに可愛い幼子を……。血を分けた姪を……。

 それは皆も同じ様で、誓いの指輪をギュッと強く握りしめた。

 だが、クリスはまだすべてを伝えた訳ではない。シュレミナを虐待、折檻したという話は事実の中のたった1部である事。まだ教えていない事実がある事を……。



「あぁ。それに……まだ……続きがあるんだ」

 クリスはゴシゴシと涙を拭い、再び口を開いた。

 まだ……伝えなくてはならない事がある……と。

「続き?」

 ガイド元隊長は、顔をしかめた。これだけではないのかと。


「あの惨劇には……脚本があったんだ」

 クリスは血が滲む程、ギリギリと唇を噛みしめていた。

「脚本?」

 一同が呟いた。脚本とは何の事だとーー



「ゾットの描いた……脚本がね」

 そう言って顔を上げたクリスの冷めた視線は、皆を凍り漬かせる程だった。

「盗賊の侵入は "偶然" じゃなく "必然" だったんだよ」

 クリスの目は、強い憎悪を孕んでいたのだ。

「必然……だと?」

 ガイド元隊長はクリスの話に耳を疑い、怒りに震え始めていた。

 偶然ではなく必然とは、どういう事なのだと。そんな話がある訳ないと。


 

「兄アザラン侯爵とは違って、弟ゾットは金使いが荒かった。兄が注意しても直らず、金使いの荒いゾットは、すでに知り合いに多額の借金があったのは知ってるよね?」

「あぁ」

「たけど催促されるが、返すあてはない。たびたび兄アザラン侯爵に頼んでは見たものの、当然無視されてしまった。すでに多額の金を借りていたからね。だけど……今更贅沢三昧は止める気はなかった。だから……だからアイツは……ならず者を雇い盗賊に育て上げ、他の屋敷や人家から金を強奪し、私腹を肥やしていたんだ」



 廊下の花瓶の花を換えていたクリスは、たまたま警備隊の休憩室を通った。そして、酒に酔った警備隊達が気分良さそうに、話す姿を見て聞いてしまった。

 私腹を肥やす道具として、自分達盗賊を雇っている……という話を。

 腸が全身の血が煮え繰り返る様だった。あの男のせいで……コイツらのせいですべてを奪われたのだと。



「……まさか」

「そんな……」

 誰とは云わず、ゾットの所業に言葉が洩れていた。クリスの話に身体が震えるのを止められなかった。まさか、盗賊を育てるとは……あの日ゾットが何をしたのかを、察してしまったのだ。


「そう。あの日アザラン侯爵家に侵入したのは……ゾットの手下だった。豪雨の日、兄から警ら隊を貸して欲しいとの要請があった。その瞬間、思い付いてしまった。自分が断ればお人好しの兄アザラン侯爵なら、村の救助に屋敷の人を割くに決まっている。

 そう踏んだゾットは、屋敷の警備が手薄になる好機を狙った。そして、ガイド隊長達は思惑通り村に向かった。ゾットはその好機を逃がさなかった。

 屋敷が手薄になったその隙に、息のかかった盗賊を侯爵家に向かわせ襲わせ、兄達を殺し莫大な財産を手に入れる事にしようと。

 そしてそれは思惑通り成功した。……あの時アザラン侯爵達を襲った盗賊は、今も何食わぬ顔であの屋敷にいる警備隊達だ」



 あの時の事は、暗くて良く覚えていない。だが、ゾットの屋敷で慎重に話を聞き、集め、1つ1つ繋げすべてのピースが揃った時、おのずと答えが出ていた。

 知りたくもなかった、弟ゾットのおぞましい悪行の数々を……。



「なら……アザラン侯爵は……お館様は弟に殺されたのかよ!!」

 怒りで煮えくり返り、身体が震えたガイド元隊長は、怪我をするのも構わず、ガツンと力任せにテーブルに拳を叩きつけた。

 悔しくて情けなくて、そしてアイツに対する怒りで震えていたのだ。何かに当たらなければ、どうしても自分が抑えられなかった。



「なんてヤツなんだ!!」

「信じられねぇ!!」

「あのヤロウ……許さねぇ!!」

 皆も、同じように怒りを何処かにぶつけていた。怒りに震え上がっていたのだ。

 自分の欲望を満たすだけのために、血の繋がった兄家族達を襲い、何も知らない幼い子を折檻していたのだ。

 それを容認出来る者達は、ここにはいなかった。



「シュレミナ姫が生きていたのは、ゾットには誤算だった。世間体から仕方がなく引き取ったものの、自分には懐かない。それ処か、兄の面影さえある彼女が気に入らず、監禁し虐待していていたんだ」

 折檻をしている時、兄ファイルへの恨みつらみを言いながら、あの男は頬をひっぱだいて笑っていた。

 それを見た時には、自分のおぞましい考えにクリスは震えた。今すぐにゾットを殺したいと、沸き上がる初めての感情を抑えきれずにいた。今は堪えろと、抑えるのに拳が血で濡れたのを覚えている。

 あの男は、彼女がそれで死んだら死んだでいいのだ。惨劇による衰弱死にでもすればイイのだから。


 

「許さねぇ……絶対に許さねぇぞ……ゾット」

 ガイド元隊長達は、クリスの話を聞き、怒りに震え復讐の炎を上げ始めていた。



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