*14 真実 (後編)
すぐにシュレミナを見つかった。だが、見つけたアレン、クリス、そして使用人達2人は、その姿を見て唖然としていた。
簡単に見つかった使用人2人も、何故か鬼に加わり、あちらこちらを捜した後、最後に入った部屋は母リリースの客間だった……のだが。
「あら。いらっしゃい」
ソファに座っていたリリースは、愛娘シュレミナの頭を優しく撫でながら、笑顔で皆を迎え入れた。
4人が揃って部屋に訪ねて来るだなんて、どうしたのだろうと。
母と一緒にいる時点で、かくれんぼの意味を問いたい処だが、妹のさらなる行動に苦笑いが溢れた。
「え? レミ……ひょっとしなくても寝てない?」
アレンは母に頭を撫でられている、妹に視線を動かした。
そうなのだ。妹シュレミナはソファに座る母の膝に頭を乗せて、スヤスヤと眠っている様に見える。
"かくれんぼ" の最中だよね? とアレン。
「寝てるわよ?」
それがどうかしたのかしら? と母リリース。
まさか、かくれんぼの最中だとは思っていないらしかった。
「え~?」
アレンは隣にいたクリスと、顔を見合わせて笑っていた。
かくれんぼの最中に、寝るなんて想定外である。予想外の事をする妹には、苦笑いしか出ない。
「あら、まぁ。かくれんぼをしていたの」
事情を訊いたリリースは、少しだけ驚いた顔をすると、口を押さえてクスクスと小さく笑っていた。
この部屋に来た愛娘が、かくれんぼをしていたなんて、全く知らなかった。楽しそうだったので、良い事でもあったのかな? と思ったくらいだ。
「紅茶を飲んだら寝ちゃったわよ?」
ちょうどお茶にでもと、準備をしていたのでシュレミナと一緒に摂ったのだ。
たぶん、紅茶を飲んで身体がポカポカし……眠くなってしまったに違いない。
「かくれんぼの意味」
アレンは肩を落とし苦笑いしながら、シュレミナの脇に静かに歩み寄った。
かくれんぼの最中に、紅茶を飲んでひと休みもおかしい。だが、寝るのはもっとおかしい。呆れたらイイのか、度胸に感服すればイイのか……。
「……クスッ」
そんな事を考えていたが、妹を見ているとどうでも良くなっていた。
母の膝枕でスヤスヤと眠る、我が家の眠り姫はとても可愛いらしい。アレンはソファの前で膝を折ると、その眠り姫の頬を優しく撫でた。
「むにゃむにゃ」
「……アハハ……笑ってる」
頬を撫でればフニャッと笑う妹が、可愛いくて堪らない。
夏休みが終われば、また学園に戻らなければならない。それを今から考えると、寂しく憂鬱な気分になる程だ。
「心配のし過ぎで、疲れちゃったんじゃないかしら」
リリースは、ほつれた娘の髪を愛おしそうに撫でた。
いつも誰かが街に出れば、帰って来るまで心配そうに待っているくらいである。それが、この天候の日となれば、いつも以上に心配になるに決まっている。
「ずっと、外を見てガイド達の事を心配していましたからね?」
リリースの側にいた使用人も、優しく笑った。
食事をしながらも、外をチラチラと気にした様子だった。この小さな身体で、気疲れしていたのかもしれない。
「レミ……おやすみ。クリス、チェスの相手になってくれ」
アレンはそんな妹を起こす事はなく、シュレミナの額に軽くキスを落とした。そして、遊び相手にとクリスを呼び扉に歩き出した。
妹を見つけた時にどんな反応するか楽しみだったが、肩透かしを食らったアレン。まだ就寝するには早すぎるので、クリスに遊んで貰おうと考えたのだ。
「はい。奥様おやすみなさい」
リリースに頭を下げるとアレンの後を追った。
アレン同様に、見つかった時の反応を見たかった。だが、滅多に見られない可愛いシュレミナの寝顔を見れて、嬉しかったのだった。
少しばかり後ろ髪を惹かれるも、アレンと過ごす時間も、クリスにとって勉強にもなり有意義な時間なのだ。
「おやすみなさい。アレン。クリス」
母リリースは、そんな2人を温かい眼差しで見守るのであった。
*・*・*・*・*
ーーピカッ。
小さな雷鳴と共に、一瞬窓の外が光った。雨風だけでなく、雷まで鳴り始めていた。
雷がキライなシュレミナにとって、眠ってしまった方が怖い思いをしなくて良いのかもしれなかった。
アレンの自室でチェスをしていた2人は、開いているカーテンの隙間からチカチカと見える雷光に気が途切れた。
「雷まで鳴ってきたな」
アレンは酷くなった雨足の音と、時折激しくなる雷鳴にチェスをする手を止めた。
シュレミナが窓の外を見ていた時に、雷鳴や光がなくて良かった。怖がるだろうし、ますますバナーに向かって行ったガイド達を心配してしまう。
寝た後で良かった……と、口が自然と綻んでいた。
「姫が目を覚まさなければいいですけど……」
クリスが心配そうに窓に歩み寄った。雷鳴も雷光も酷いものだった。この季節には多いとはいえ、あまりの音に目が覚めないか心配である。
「母上の部屋は、防音のカーテンが付いているから大丈夫だろう」
バイオリンを弾く母の部屋は、防音がしっかりとされているのだ。たまたまにしろ、妹シュレミナはそこで眠っている。だから、起きる事はないだろう。
「しかし……レミではないけど、ガイド達は大丈夫だろうか?」
自分達は屋敷にいるが、こんな雨風の酷い状況に川へ向かったガイド隊長達の方が心配だった。
ーーピカッ。
その時、再び小さな雷鳴と光が窓の外を照らした。
「……っ!?」
同じ様に窓から外を見ていたクリスは、窓の外に人影を見た気がした。
「賊だ!!」
アレンがそう言った瞬間、ピカッと雷光が瞬いた。
今度の雷光でハッキリと確認出来た。この夜の闇と雨風に紛れて、数人の人影が確認出来たのだ。残った警備隊のリスト達の可能性もあったが、チラリと見えた服装にはどこか違和感を覚えた。
似てはいたが、この屋敷の警備隊の着ている制服には見えなかった。一瞬ではあるが黒ずくめで、口に布を巻いていた様に見えたのだ。
「……賊!?」
クリスが目を見張り、アレンを見た。
信じられないのではなく、指示を仰ごうと思ったのだ。
「母上の部屋に向かう。付いて来い」
アレンが指示するが早いか、扉を蹴破る様に出た。父の部屋に向かうより母の方が心配だったからだ。
防音の部屋だからというのもあるが、父は自衛が出来るが母は出来ない。シュレミナもいるのだ、気が気でなかった。
「アレン、クリス!!」
向かうその背後に父の声が掛かった。
剣を帯びている父がそこにはいた。父もただならぬその気配を察した様子である。
「父上。賊が……」
「分かっている。私はリストやサックス達と賊を迎え討つ。お前達は裏口から逃げ、至急、街の自警団に連絡を!!」
アザラン侯爵は、アレンとクリスの顔を見て一安心する。
まだ、この階層には来ていないと分かったからだ。妻リリースも娘シュレミナも大丈夫だろう。
ならば、時間稼ぎをして皆を逃がす裁断をした。アレンとクリスを先に逃がし、街の自警団に報せに向かわす。
そうすれば、時間稼ぎをしている間に自警団が来てくれるだろう……と。
「……父上!?」
アレンはその言葉に困惑した。
父を信頼していない訳ではない。だが、置いて行くには不安がよぎったのだ。自分がどこまで出来るかは分からない。
しかし、ガイド隊長達がいない中、頭数は多いに越したことはない。自分も皆と戦うと口を開けた。
「アレン……議論する余地はない。クリスを連れて、裏口から早急に街に助けを……急げ!!」
だが、父のアザラン侯爵は、息子アレンとクリスに短剣を手渡し急いで行けと指示をした。
そしてアザラン侯爵は、腰に帯びた剣を軽く握った。任せろと。
「……しかし!!」
アレンが口を開き掛けたのを、アザラン侯爵は手で制した。
「確率の問題だ。お前達の方が暗闇に紛れやすい。その上、万が一見つかっても貴族の子供だと隙が出来る。時間が惜しい、早く行け!!」
アザラン侯爵は、まだ何かを言いかける息子を黙らせ扉を指した。
議論をする程の猶予はないからだ。ここで今こうしている時間も惜しいのだ。貴族の子供なら賊も隙を作るだろうし、体力もある。街まで早く着く可能性が最もあるのだ。
自分はその間、賊を足止めし時間稼ぎさえすればいい。そのくらい出来る剣の腕はある。最悪、子供達が生きてさえくれれば……と願っていた。
「わかりました。父上、必ず戻ります!!」
アレンは拳をギュッと握り、言いたい言葉を堪えた。
父の言う通り、議論をしている時間はない。このわずかな時間さえ惜しいからだ。
「母上とシュレミナを頼みました」
アレンは言うが早いか、クリスを連れて足早に部屋を出た。
シュレミナだけでも連れて逃げたかった。だが、1秒でも時間が惜しい今、妹を抱え早くは不可能である。
アレンは苦渋すぎる選択をし、足早に街に援軍を求めに行ったのであった。
ーークリスは。
これが、アザラン侯爵達の最期となるなんて想像もしなかった。
ーーこの後。
シュレミナを使われていない暖炉の奥に隠して、賊達を迎え撃ったのだろう。
……そして。
彼らと……もう2度と逢う事はなかった。




