*13 真実 (前編)
クリスは目を瞑り、ゆっくり息を吐くと話し始めた。
ーーあの豪雨の日。
ガイド隊長達が街の自警団を連れて、バナーの村に向かっていた頃。
*・*・*・*・*
ガイド隊長達が、バナーの村に向かってから暫くして……シュレミナは1人エントランスの脇の窓から、外を見ていた。
雨は止む気配を見せる処か、酷くなる一方だった。雨足は酷くなり横殴りの雨が窓ガラスを、ガンガンと叩いている。
「たいちょーたち……だいじょうぶかな」
シュレミナは心配そうに呟いた。
雨が酷くて、外の様子など一切分からない。見えた処でどうする事も出来ないのだが、見ずにはいられなかったのだ。
「レミ。ガイド達なら大丈夫だよ? あの人達は日頃から鍛えているからね」
心配そうに窓の外を見る妹に、アレンは優しく声を掛けた。
いつも元気なシュレミナが、心配し過ぎてしょんぼりしている。アレンはそんな心根の優しい妹の頭を、優しく優しく撫でてやる。
「きっと。すぐに帰って来て、姫~って抱きついてきますよ」
使用人のサリーが隣で膝を折り、優しく言って慰めた。
ガイド達の心配のし過ぎで、シュレミナの方が先に倒れてしまいそうだった。
「あっ!! そうだ。皆でかくれんぼでも致しましょう!」
サリーの隣にいたもう1人使用人、マルカがポンと手を叩いた。
外遊びも出来ないし、晴れていないので多少使用人達も手が空く。シュレミナのために一緒に遊んであげようと、提案したのである。
気も紛れるし、少しでも元気になればと考えたのだ。
「そうだ。俺も一緒に参加するし……あっクリス! お前も参加しろ」
マルカの提案に乗ったアレン。
たまたま通りかかった庭師のクリスに、アレンは声を掛けた。雨が続いていてやる事がないのは、彼も同じだろう。
それに、彼が参加した方が妹も楽しんでくれるに違いないからだ。
「え? 参加って……?」
たまたま通り掛かっただけなのに、急に何かに参加しろと言われても、何をするのか分からない。
「皆でかくれんぼしよう……って話になった。よし、鬼はクリスに頼もう」
まだ、全く理解していたないクリスを鬼と決めたアレン。
説明も適当にドンドンと話を進め、今呼んだばかりのクリスを見つける役、鬼に決めてしまった。
「へ?」
有無を云わさず進んでいった話に、クリスは目を丸くしていた。
断るつもりもなかったが、口を挟む隙が一切なかったからだ。しかも、鬼役である。
「さぁ、シュレミナ。隠れるぞ~」
言うが早いか、アレンは妹を優しく抱き上げ、2階に向かった。
とにかく、今はシュレミナを窓際から離れさせ、心配事をさせない様にするのが大事だからだ。
「かくれるぞ~」
兄に抱き抱えられたシュレミナは、なんだか楽しくなりそう叫んでいた。いつも忙しそうにしている兄達が、遊んでくれるので嬉しくて楽しくて仕方がなかった。
「では、クリス。鬼を頑張るのよ?」
使用人マルカはクリスの肩をポンと叩くと、クスクスと笑いながら同じく2階に向かった。
可愛いシュレミナを追いかけたのだ。
「屋敷は広いから、2階限定にしましょうかクリス。50数えてからよろしくね?」
使用人サリーも50数えてから探す様に促すと、面白そうに笑い皆の後を追いかけて行った。
侯爵家ともなれば、100近い部屋がある。そのすべてを対象にしていたら、1日で見つけるのは難しい筈である。だから限定をしたのだった。
「え~っ?」
それでも大変な鬼役に、通り掛かっただけで任命されたクリス。不満というか複雑な叫びを上げるしか、なかったのであった。
*・*・*・*・*
使用人のサリー、マルカはあっという間に見つかった。
元から本気で隠れる気がないのか、柱の隅だったりクローゼットの中だったり簡単だった。
後は、シュレミナとアレンである。
アレンは全然予想がつかないが、シュレミナなら分かる。たぶんあそこでは? と予測を立て訪ねてみる事にした。
「どうした? クリス」
酷く緊張した面持ちのクリスが訪れた場所。それはシュレミナが1番隠れていそうな、アザラン侯爵の書斎であった。
普通の主なら、一介の使用人がこんなくだらない理由で訪ねたら、間違いなく叱責ものだ。ヘタをしたら、鞭で叩かれてもオカシクはない行動であった。
だが、この方は違う。そんなくだらない事で怒ったりはしない。むしろ、楽しんでさえいる寛容な人であった。
「シュレミナ姫は来ましたか?」
だから、緊張はするものの訪ねてみた。怒られても理由を言えば、分かってくれる理解がこの主にはあるからだ。
まぁ。例えいたとして、侯爵が素直に答えてくれるかは別ではあるのだが。
「来てはいないな。私の姫がどうした?」
クリスが緊張して訊いてみれば、執務中に邪魔をしたのにも関わらず、逆に優しく聞き返してくれる温かい侯爵。
「も……申し訳ありません。かくれんぼをしているので……確率的な」
と至極恐縮そうに理由を話したクリス。だが、話をしていた時に、アザラン侯爵の視線がチラリと横に動いた気がした。
よくよく見れば、実に面白そうに口端を上げている。その表情にクリスは違和感を覚え、開けた扉の裏をゆっくりと見た。
「あっ。バレた」
そこには、おどけたアレンが壁を背に、寄りかかって隠れていた。
「……アレン様」
まさかのアレンに、クリスは目を見張った。姫かと思って見てみれば、そこにいたのは兄の方、アレンであった。
シュレミナならともかく、アレンがいたのは予想外である。
「あ~あ、父上のせいだ」
降参とばかりに両手を挙げ、笑いながら出てくるアレン。
「私のせいか?」
「だって、一瞬こちらに視線を動かしたでしょう?」
しかも、わざとに見た気がしたのだ。父ファイルがクリスの話を訊いて、わざとチラリと見たからバレたのだ。
想像だが、クリスがその視線に気付くか気付かないか、洞察力を試したに違いない。
「気のせいでないのか?」
面白そうに口の端を上げ、笑う父ファイル。笑いながら言っている以上、そうだと認めたものである。
「父上に売られてしまった」
アレンは諦めた様に腰に手を充て、クスクスと楽しそうに笑っていた。
クリスがここに来るかは賭けだった。それだけの気概があるか、クリスを良く知っているアレンでもそこまでは分からない。
だから、試すという意味では父と同じだった。父は洞察力を試し、アレンは勇気と度胸を試していたのである。
「ズルイですよ? ここに隠れるのは」
苦笑いしかでないクリス。捜しに来ておいてなんだが、ここにいるのはズルイ気がしてならないと抗議する。
「シュレミナがいると思って来たくせに?」
アレンは人の悪そうな笑みを浮かべていた。
自分がいたからズルイと思う訳で、シュレミナだったらそうは思わなかったに違いない。
「そうですけど……」
その通りなので口を濁すクリス。だが、アレンがいたのは想定外だった。捜しに来ておいて、色々な事に心臓がバクバクしていた。
「後は、シュレミナだけ?」
アレンは面白そうに訊いた。
シュレミナを捜しに来たのだから、妹はまだという事だ。
「そうですね」
クリスも答えつつ、楽しそうに笑う。
後は大切な姫だけだったからだ。捜すのが楽しくて仕方がない。
「よし。俺も一緒に捜そう」
アレンは変な気合いを入れると、面白そうに鬼側に参戦する事にした。
「コラコラ。鬼に参加するな」
アザラン侯爵は苦笑いしていた。
何故、鬼の側に参加するのだと。愛娘シュレミナを逃がす手ではなく、捜す手が増えてしまった。
「レ~ミ。どこにいるのかな~」
父の意見など笑って無視し、アレンは悪そうな顔をすると、実に楽しそうに踵を返した。
尚も困った様に笑う父を背に、アレンはクリスを連れ笑いながら捜しに行くのであった。




