*12 憤り
ーーガン!!
「クソがっ!!」
ガイド元隊長は、自室に戻るなり壁を力一杯拳を打ち付ていた。
口にこそ出さなかったが、シュレミナがあんなに顔色が悪くほっそりしているのは、酷い目に遭わされていたに違いないと確信したからである。
何故あんな幼い少女を、酷い目に遭わせていたのかと想像すると、ゾット侯爵に憎悪と殺意で身体が震えた。あの惨劇で沸き上がった憎悪が、これ以上溢れる出来事は起こらないと思っていた。
だが、まだ奥底に溜まっていたのか、今すぐ八つ裂きにしたいと心が震えていたのだ。
「ガイドさん。その憎みはゾット達に向けてやりましょう」
同じく生き残っていたバイエルも、ガイド元隊長の気持ちは痛い程に分かる。何かにあたりたい気持ちも。
だが、その矛先は壁などではなく……ゾット侯爵である。
「あぁ……何十倍にして返してやる」
ギリギリと歯を食いしばっていた。
あのゾット侯爵に変わってからの悪行に、街の人達はもう限界に近付いていたのだ。だから、マリアを拐って一矢報いてやろうと企んでいたのだが……部下が間違えた。
そのおかげで、シュレミナは助かったのだから、ある意味嬉しい誤算であった。
ーーだが、別の手立てを考えてなければならない。
シュレミナを楯に、身代金の要求をした所で無視されるのは目に見えている。だが、当初の目的であった、穏便に済ませる必要はなくなった。
あの屋敷に、シュレミナがいるから実力行使に出られなかったのだから……。
護るべき者は手に入れた。なら、強行手段をしても問題はなくなったのだ。
ガイド元隊長達は、新たな作戦を立てる事にした。
*・*・*・*・*
「隊長はいる?」
作戦を立てていると、扉の向こうからノックの音と声がした。
「どうした? クリス。姫様の側にいてやれ」
ゾット侯爵の所業に苛立ちながらも、クリスに優しく声を掛けた。クリスに苛立ちをぶつけても仕方がないと、自制する。
「皆に少し……話したい事があるんだ」
クリスは周りを見渡した。ここにいるのは、あの屋敷に雇われていた警備隊の生き残り。
後は、ゾット侯爵を敵対視している同志、有志なのだと判断する。
「今でなければ駄目か?」
「今だからこそ……だよ」
クリスは、苦々しく笑った。
今ここに、皆がいるからこそ伝えたい……知って欲しい事があると。
「わかった」
何かを察したガイド元隊長は、皆に目配せし最低限の護衛をシュレミナに残し、ここより広い食堂に人を集める事にした。
*・*・*・*・*
「……で?」
人を集めたガイドは、クリスを促した。
人を集めて何を伝えたいのだと。
「1つ確認だけど……ここにいる人達は信用できる人達?」
顔を確認するかの様に、クリスは周りを見た。
ここにいるのは50人前後だ。顔見知りは半分くらいだ。後は知らない人達だ。どこまで信用できるのかは、昨日今日では分からない。
「信用できる」
とガイド元隊長は、右の手のひらをこちらに向けた。
それを合図に皆も右手をクリスに向けた。右手の中指には、皆同じく指輪がはめてある。
それは、6枚の花びらを持った花が彫ってある、銀色の指輪だった。6枚の花びらは色さえ付いてはいないが、シュレミナが大好きだった "あの花" を型どった物だった。
「アザラン侯爵を慕っていた者しかいない。皆、同志であり有志。この指輪に懸けて裏切らない」
ガイド元隊長がそう言うと、皆も指輪を握りしめ大きく頷いた。
「……わかった」
その指輪に、クリスは嘘はないと判断し信用する事にした。




