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アザランの花  作者: 神山 りお


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11/38

*11 邂逅 (後編)



 テーブルに運ばれた食事は、お世辞にも豪華とはいえない物であった。ほとんど肉は入ってはいなく、質素ではあった。だが、温かくとても美味しい食事だった。

 温かい食事など、何年振りとも言ってもいいシュレミナにとって、心と身体を芯から暖めてくれる物であったのだ。

 具なんてなくても、心がそこに籠っている。それだけで暖かく幸せな気持ちにさせてくれた。





 *・*・*・*・*





 ガイド元隊長が、食事をしながらポツポツと重い口を開いた。



 アザラン侯爵が亡くなった後、自分達警備隊は再び雇われる事はなく、知り合いや親戚を頼りチリジリになった事。

 アザラン侯爵達の葬式は身内だけで知らぬ間にされ、亡骸も弟ゾットが侯爵家の裏にある、先祖の墓に埋めてしまったという事。

 そして……弟ゾットはこの侯爵家をすべて引き継ぎ、伯爵の爵位や領地をすべて捨てた。いや、売り払って自分のモノにしていた。

 後は当然だと、アザラン侯爵を名乗ってこの領地を好き勝手に治めていたのであった。



 ……それは。

 地下室から出られなかったシュレミナには、知らない事実もあった。クリスが胸に閉じ込め、悲しませない様にと伝えてはいない事もあったからである。



 ガイド元隊長も、シュレミナに関して言えばそれは同じだ。侯爵家の使用人達は、シュレミナの事を訊いても、ただ薄笑いをするだけで大した情報は話さなかった。

 金を積んでも本当に知らないのか、話したくはないのか。或いは口止めされているのかは分からない。あれから、生きているとも死んだとも、面白がるだけで何一つとして言わないのだ。

 押し入ろうとも皆と相談した事もあったが、自分達が押し入っても断罪されるだけである。護る家族がいる者に、それは出来ない。

 それ処か、その事で生きているシュレミナに迷惑が掛かると考え、何も出来なかったのであった。

 


 シュレミナ姫も、実は亡くなってしまっているのでは? と、不吉な事ばかり考えていたガイド元隊長達は、胸を撫で下ろしていた。そして、心から今の再会を喜んでいたのである。



「とにかく。今はゆっくり休んで下さい。ここは安全ですから」

 シュレミナの頭を、ちゃんとそこにいる事を確認するかの様に、ガイド元隊長は優しく撫でると、部屋から出て行くのであった。



 部屋には、警護として女性が2人残っていた。

 勿論、部屋の窓には鉄格子などなく、外を見ようと思えばいつでも見れる。

 ベッドも小さい頃ほどではないが、あの地下室に比べたら遥かに柔らかくて寝心地は良い。カビの臭いや、汚物の臭いなどなく日だまりの様な匂いにホッとする。



「シュレミナ様。私共はいますが、ガイドさんが言われた様に、ここは安全ですからゆっくりお寛ぎ下さい」

 女性の警備の1人が、優しい眼差しで言った。

 あの屋敷では、もう見る事などなかった優しい眼差しだ。小馬鹿にした様な笑いでもなく、嘲笑う様な眼でもない。

 優しい優しい微笑みだ。心配をしている気遣いさえみえた。


 シュレミナの家族を襲った不幸を、クリスがガイド元隊長に話しているのを聞き、憐れんでいるだけなのかもしれない。だが、あの屋敷の人達に比べれば、その憐れみさえも温かい。



「ありがとうございます」

 シュレミナは、素直に口からお礼が出ていた。

 あの地下室では、言いたくなくても言わないと折檻される可能性があるから、心からのお礼は久々である。

「……あの」

 お言葉に甘えてベッドに戻ろうとした時、部屋の隅にある花を見つけた。

 小さなテーブルに乗った花瓶に、数本花が活けてあった。

 白い花びらと蒼い花びらを持った "あの花" だったのだ。

「ああ。あれね? ガイドさんがこの花が咲く季節になると、いつもああやって活けてるのよ」

「顔に似合わず乙女よね?」

 女性2人は、顔を見合わせてクスクスと笑った。

 あの体躯のいいガイド元隊長が、花を愛でるのが面白いみたいだ。でも、女性達はバカにしているのではなく、そんな優しい一面を持ったガイドも好ましいとさえ想っている様子だ。



 クリスとシュレミナも顔を見合わせて小さく笑っていた。

 自分達の事を、今までも生きていると信じ心配してくれていた。その、ガイド元隊長の温かい心が素直に嬉しかったのだった。





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