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邂逅





この世界は独りぼっちの神様が作った、と言われている。


神様はいつも独りで、とても寂しがり屋だった。


だからこそその孤独と退屈を紛らそうと作った物が我々の住む世界だったんだ。


世界を作り、自然を作ったまでは良かったんだが、神様に一つ問題が浮上した。


それは生物、物を考え自然を構築する上で何より重要な物を神様は欲した。


しかし自らの手で自由気儘に生物を作ってしまうのも物足りないな、と感じた神様は思い付いたんだ、「作る生物をクジで決めてしまおう」ってね。


水棲、陸棲、食性、翼の有無、あらゆる要素を記した大量の紙を箱の中に入れ、その中から取り出した何枚かの紙に書かれた特徴を組み合わせる事で生物を作ったんだよ。


その結果生まれたのが植物、竜や魔人などの魔物、魚、そして我々人間なんだ。


言わば、この世界は必然ではなく偶然、ほんの神の気まぐれありきで造られた物で、その中で生まれた人間も偶然の産物。


そこから転じて、人生で起こり得る事態は全て偶然によって引き起こされているから、人間にはどうする事も出来ない、という思想だ。




………というのが古代アンティグオ王朝で流行していた創世論、そして思想の一部なんだが、面白いだろう? 達観していて、神にも縋らない本物の『無常観』、運任せの極致だよ。


さて、これを聞いて君はどう思う? 正直に答えてくれよ、良いサンプルなんだからさ。


………ふーん、分からない、か。流石にそうだよな。君は全部を天命に任せる程狂信者でも博打打ちでもないし。


まぁいいよ。多分君も博打始めれば理解出来る様になるよ、きっと。


んな訳でポーカー、やろうか。200ゼルド賭けて。






~~~~~~~~~





 風化し、所々が欠けた石畳を松明の炎を揺らしながら歩く。道の奥の方から流れてくる冷たい、湿った風が頰を撫でる度に恐怖心が掻き立てられる。だがそれでもなお、暗闇を松明で照らしながら進んでいく。

 厚手の防寒具を纏っている筈なのに寒気が止まらない、それと同時に高揚感も止まらない。この先に眠る宝の存在を知っているから。


「……よし、魔物も居ないな」


 此処は大陸北部に位置する、ある辺境の森の中の遺跡。何故これが造られたのか、いつこれが造られたのか、それは考古学者達も知らない。無論、俺も知らない。

 分かる事はただ一つ、此処には凄まじく価値のある宝が秘められているという事だけだ。


 子供の頃、今は亡き祖父の家にあった古文書に記されていた、とある秘宝。俺はそれを目当てに何度も何度もこの地を訪れているのだ。

 曰く、『万の武器を召喚出来る極上の武器庫』、『武神より賜りし最強の矢筒』、『世界を統べた者共の魂が宿る箱』。その称号は様々だが、それらに共通しているのは、それが武器庫だという点。

 曖昧な事ばかりで具体的な記述こそ無かったものの、当時子供だった俺の心はひどく揺さぶられ、何物にも形容出来ない感情を抱いたのを覚えている。それから十数年もの間、それは恋煩いの様に脳裏にこびり付いて離れなかった。


 だから俺は故郷を出て、その秘宝を探す旅に出た。王都の古代研究所や国立図書館、はたまた知識の国と呼ばれるアヴェンなど、大陸中を巡り様々な書物を目に通す事によって、遂に俺はこの遺跡にその武器庫が納められている事を突き止めた。


 それからというもの、俺は毎日遺跡に入り宝物を探し続けていた。右手にはツルハシ、左手には松明、腰には魔物を追い払う為の剣、という炭鉱夫の様な出で立ちで遺跡に潜る事早数ヶ月。つい昨日、俺は遺跡最深部の宝物庫の扉に辿り着いた。

 昨日は夜遅かった事もあり、一度休眠を取る為に遺跡入り口に設置したテントに戻ったが、興奮の余り全く眠る事が出来なかった。そして今日、俺は夜が明けると同時に遺跡に入ったのだ。


 寝惚け眼を擦りながら歩いていると、不意に視界に豪華絢爛な彫刻が施された石の扉が飛び込んできた。遥か太古は金箔や宝石を埋め込まれて彩られていた筈だが、今やそれも無残に剥げ落ちており、栄華がとうの昔に過ぎ去った事を黙々と示している。


「………よし」


 俺は唾を飲み込むと、松明を通路脇の燭台に突き刺してツルハシの柄を両手で握り締めた。事前の調査で扉に罠が仕掛けられていない事は把握済み。後は扉をツルハシで強引にこじ開けるだけだ。

 頰に伝う汗の雫を舌で舐め取り、両腕を振り上げると、ツルハシの鋭利な先端を石壁に叩き付けた。ガキンッ、という金属音にも似た音と鮮烈なる火花を上げてその表面が崩れ落ちた。どうやら強度もかなり低下しているらしく、これなら破壊するのも苦労しないだろう。


 黙々とツルハシを振るい、一心不乱に扉の石材を削っていく。それはまるで化石を掘り出す発掘作業の様に丁寧に、嬉々とした表情で。この先に誰もが渇望した古代の秘宝が眠っている、それを知っていて興奮しない訳が無い。

 何十回目か、ツルハシの刃先を扉に突き刺した瞬間、それを切っ掛けに大きく削れた石の扉は轟音を立てて地面に崩れ落ちた。

 赤褐色の瓦礫の上に空いた巨大な亀裂、その向こうに新たな部屋を見たと同時に俺はツルハシを投げ捨ててその中に飛び込んだ。


「ッ、うおぉぉぉぉ!!」


 其処は此処までの道とは全く空気の異なった、厳かな空間だった。

 壁一面はかつての王や大国の威厳を知らしめるかの様に勇ましい壁画で埋め尽くされており、その中には巨大な蟲、それもクモの形をした魔物を追い払う勇者の姿が描かれている。その腰には見慣れない矢筒の様な物が提げられている。


「……これは……秘宝を持っている……?」


 きっと彼がかつての秘宝の持ち主だったのだろう。俺も秘宝を手に入れれば、この勇者の様になれるのだろうか。そう思うと高揚が止まらない。

 その時、俺は部屋の中央に鎮座する巨大な石の箱の存在に気付いた。


……これだ。


 俺はやけに落ち着いた足運びで石の箱に歩み寄り、その重厚な蓋に両手を掛けた。そして一つ息を吐くと、渾身の力を込めて蓋を横にズラした。

 その中から現れたのは、伝承の通り矢筒の様な形状をした二本の機械だった。


間違い無い、これが伝説の神具『ガシャ』だ。

 

「やった……遂に、やったんだ……!」


 大小二つの神具を箱の中から持ち上げて、胸に抱える。


「はは、はははははは!!」


 駄目だ、笑いが止まらない。十数年越しの悲願は理性という堰をいとも容易く打ち砕き、成人した筈の俺の心を少年時代のそれに若返らせたのだった。


 一頻り笑った後、それらをまじまじと観察してみる。

 触ってみるとかなり冷たく、表面もツルツルとしており鋼鉄にも似た質感だが、その山吹色から岩石を彫り出して造られた様にも見える。古代文明は今の人類には到底想像も付かない様な技術を秘めていた、という訳か。


 大きい方はそれこそ矢筒だが、中には何も入っていない空の状態だ。表面に何か文字が書かれているが、それは古代文字で現在主流のクレル文字とは異なるようだ。

 それに比べて小さい方は矢筒というより小型の箱、という表現が相応しい。少なくとも武器庫ではなく、何故これが『ガシャ』と梱包されていたのか疑問に思うが、何らかの意味があるのだろう。


 興奮が抑えられないが、まず率先すべきは『ガシャ』の鑑定。道具という物はその用途、使用方法を理解しなければ使いこなす事が出来ない。それが何なのか、先にそれを知るべきだ。

 遺跡の近隣にある町に知り合いの考古学者が居る。彼に訊けば何か判るかもしれない。


 そう考えた俺は背中のバックパックに神具を丁寧に詰め込んで、遺跡の出口へ向かったのだった。

 



【Nレア】ツルハシ


炭鉱夫などの土工業者に幅広く愛用される作業用具。その鋭利な刃先で岩壁を砕き、地表を削る。

無論武器としても使用可能だが、人を殺めるには多少の技術が必要。


たんと掘れ蒙昧に、たんと掘れ富を、ツルハシ振るえば夢が来る。

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