ペトリコール
雨が降り始めた。こんな偶然があるのだろうか。
「さっきは黙っててごめんなさい。私どうしたらいいのかわからなくて」
加藤さんの声は震えていた。雨は次第に強くなり、大粒の雨が頭から足まで伝っていく。
「本当に加藤さんがあの時助けた女の子なの?」
「はい。私、小学生の時に事故に遭いそうになったところを近くにいた男の子に助けてもらったんです。でも助けてくれた男の子は事故に巻き込まれてしまって......それなのに私は命の恩人のあなたのことを忘れようとしていて......」
このまま雨が全てを流してくれるのならばどれだけ良かっただろうか。俺はそう思いながら雨に打たれる加藤さんをただ眺めることしかできない。
「泣かないでよ。恨んでいるわけでもないし、あの時助けた君が今も生きていてくれることが嬉しいよ」
「でも私、助けてくれたあなたのこと忘れようとして......」
彼女の頬を伝っているのは涙なのか雨なのか、もうわからなかった。
「本当に、本当に大丈夫だよ。もう気にしなくていいんだ。俺は大丈夫」
俺はそう言って加藤さんの肩にそっと触れる。
雨が落ち着いてきた気がした。
「何も償わずに生きていいのでしょうか」
加藤さんはそう呟いて涙を拭う。
「別にそんなことはしなくていいよ。ただ、俺から1つだけ頼みがある」
「頼み?」
「俺と付き合ってくれないか?」
加藤さんはかなり驚いたような顔をした。涙は止まってくれたようだ。
「これから先、君の心に雨が降ったとしても必ず傘をさせるように頑張るからさ」
言った後に、恥ずかしいことを言ってしまったと猛省した。でもこんなこと言うのは後にも先にもここだけだろう。
「これから、よろしくお願いします。雨宮先輩」
雨上がりの匂いがした。独特な匂いが鼻腔をくすぐる。決していい匂いとは言えないけど、嫌いじゃなかった。
ぐちゃぐちゃでごめんなさい。最後まで読んでくれた人がいるなら心からのありがとうを言いたいです。本当にありがとう。