それは涙の雨
雨が降っている。大粒な雨。
降水確率は低かったはずだ。たしか30%とかそれくらい。だから傘なんて持ってきていないしいざという時のためにと折り畳み傘を鞄の中に入れておくほど用意周到な人間でもなかった。
学ランは大粒な雨を吸収して重くなり、眼鏡には水滴がついて視界を悪くする。
不幸中の幸いと言えることがあるとすれば今が下校中だということだ。これが登校中の出来事なら学校へ行かずサボってもいいかもしれない。
あまりにひどい雨なので雨宿りをすることにした。灰色に染まった空を見る限りでは雨は止みそうにないが待っていれば少しはマシになるだろう。
俺は近くにあった公園の東屋に駆け込んだ。
東屋に向かって走っている時は気がつかなかったがそこには既に先客がいた。近くの高校の制服を着た女子が1人で座っている。下を向いているので顔は見えなかったが恐らく知り合いではないだろう。もっとも知り合いと呼べる女子も少ないのだが。
東屋に入るとすぐに眼鏡についている水滴を拭き取った。さっきまで雨に邪魔されて見えなかった視界が回復する。学ランは冷たくなっていたので脱いで長椅子に置いた。
他人とはいえ女子と一緒だとなんだか気まずいなぁと思いながら椅子に座り外を眺める。あいも変わらず空は灰色だ。おまけに暗くなっている。まるで誰かがキャンパスの灰色に黒を足したような、どこか不安にさせる空模様だ。
5分くらい待っていたが当然天候は変わらない。あまりにやることがないので少しだけ向かい側に座っている女子に目をやる。
やはり女子は下を向いているため顔は見えなかった。しかし涙が溢れていることに気づく。
どうしたものか。声をかけるべきかそっとしておくべきか悩む。当然、声をかけた方が良いのだろう。しかし何かが自分の中で引っかかり、口を開くことを躊躇ってしまう。ポケットに入れておいたイヤホンが絡まってしまったような少し嫌な気分だ。それの原因が何なのかはわからなかった。
少しだけ悩んだ後、声をかけることを決意した。やはり見て見ぬ振りをするのは良くないだろうという単純な考えだ。もし彼女が俺を拒むのであれば俺はすぐにここから出て家に帰ろう。
「あの、大丈夫?」
雨音だけが響く空間が崩壊する。
彼女は顔を上げた。少し驚いたような表情をしている。
「すみません」
そう言いながら彼女は頰を伝う涙をハンカチで拭いた。
「いや、謝る必要はないよ。どうかしたの?」
少しだけ踏み込んだ。これで何でもないですと言われたら帰ろう。
「あなたは......」
彼女は少し躊躇うように口を開いた。
「私が雨を降らせることが出来ると言ったら信じますか?」
その言葉を聞いた時、雨音が大きくなったような気がした。