仲間募集、条件まともであること
「おい新入り、この皿洗っとけ」
「うぃっす店長!」
ホールから運ばれてくる大量の皿。喫茶店であるこの場所は、食事に関しても力を入れているらしくランチ時には食事目当ての客が結構入る。
「む……」
店長の目を盗んで皿に残されたソースを小指でひと舐めする。
「(な、なんだこの味は……!?)」
恐らくパプリカをムース状にしたものをベースにしているのだろう。味はくどくなく、しかし飽きさせないよう香りに深みを増しているんだ。この皿は確か魚介類……そうか! 貝類の旨味があっさりとしたソースと絡まることで黄金比率的な美味しさが生まれる……そして隠し味の梅! こいつがくどさを中和するのかっ!!
「お……俺だっていつか……!」
そんな俺を遠くから店長が覗いていた。俺は叱られると思い冷や汗をかいたが、店長は何も言わず自分の調理へと戻っていった。
まるでその顔は、いつか俺を越えてみろと、そう言っているように感じた。
店長……いつか……いつか俺は……
そう胸に新たな誓いを立て、俺の料理の世界への第一歩は踏みしめられた。
…………………………………………あれ?
――――――――――――――――――――――――
「おかしくね!? なんで俺こんなことやってんの!?」
ギルドの机をバンっ! と叩くとグラスのジュースが少し飛び散った。
それを迷惑そうに見ながら、ショートケーキを頬張るヒンヌー神ことミリオン。ため息をつきながらやれやれと首を振る。
「そりゃお主らが多額の借金をするからじゃろ?」
「そうだけども!!」
マッシュルーマンを捕獲する依頼を受けた俺たちは、度重なる不幸や災難により借りていた檻を誤って壊してしまった。
一応温情があったのか、いくらかまけてはくれたものの総額なんと10万ミリオン。
「コホっコホ、すまないねぇ、苦労ばっかりかけて……」
「勇者さん……それは言わない約束でしょ……」
「どうすんだよ 2人とも頭おかしくなってんじゃねえか! 勇者と姫が貧乏物語ってどんな組み合わせだよ! 華やかさのカケラもねぇ!!」
また魔力が底を尽き、ユウトは一歩も動けない体へと戻ってしまった。少量のもやしではギリギリ生きていくくらいの魔力しか回復しないため、寝たきり生活を送っている。
「そう言われてもゲフ、我にも出来ることとできないことがあるん、あ、お姉さんおかわり……じゃよ」
「まずはその唯我独尊なランチをやめろ」
どこから出したのか指に硬貨を挟むミリオン。お姉さんはまだ食べるの!? と仰天しつつ厨房へと走っていった。
「くそ、勇者様はなんの役にもたたないしアホはアホだしどうしたらいいんだ……」
「あ! 今ミリオンのことアホって言った! いーけないんだ、幼女に暴言」
「アホはてめーだアホイン」
「我は幼女などではないのじゃ!」
机に腰掛けてだらんとうなだれるユウトが、やり取りを見て苦笑していた。
「そうですね、あなたは幼女などではありません」
「うむ、その通り。お主わかっておるな」
ミリオンが、やっと分かるやつが来た、と腕組みをして鼻息を荒くしている後ろで、ひとりの女性が声を落とす。
「そうです、大人です。そして大人はしっかりと自分の責務を全うし、ましてやサボりなんてもってのほかですよね」
「うむ、もちろんその……………………む?」
俺にも能力が宿ったかもしれない。だってオーラがはっきりと目に見えるもの、とてもどす黒いオーラ的な物が。
「ようするに責務をサボタージュされたミリオン様は私ことミューリアにどんな制裁を受けても文句は言えませんね」
ああ、もうだめだ。目に見えてだめなやつだ。
ヤツはもう、助からない。
「ふぇ…………ミューリアたん? わ、わわわわれは別にサボタージュなんてしてなーじゅよ? ほ、ほほほらこれじゃってハジメたちに渡しそびれた軍資金を」
「お待たせしましたー! 『こんな物は暇人しか注文しない! 完食目安3時間超巨大パフェ』でございます」
「…………………………………………………………………………………。」
その時、俺は確かに聞いた。人体からは決してなるはずのない音のオーケストラを。主に打楽器系で攻めたような心地よく刻まれたリズムを。
とりあえずしばらく肉は食えない。
――――――――――――――――――――――――
「と、言うことでだ。俺たちもパーティを増やそうじゃないか」
「「さんせーい」」
お荷物2人組が間の抜けた声で返事する。
「今のところパーティの役割分担は、指揮官と要介護者とアホだな」
「「指揮官だなんて照れるよ」」
「おいこら自覚なしかこの役立たず共」
のほほんとした2人の顔の頬を思いっきりビンタしたい、グーで。
「はいはい! 人を檻に閉じ込めてモンスターを釣ろうとするクズ野郎が指揮官は納得いきませーん。檻の扱い方だけならまだブルドッフの方が上手でしたあ」
「あーあー聞こえないなー。なんだって? 完璧な作戦でした? 一生ハジメさんについていきます?」
「良い耳鼻科を紹介するわ。脳を見てもらいなさい」
「耳鼻科で!?」
アインが本気の冷たい目で俺を見るが、いかんせん女子の絶対零度光線は慣れているから平気だ。いや、普通に辛いわ。
「冗談はともかくだ、実際ユウトが近接、アインが遠距離、俺が後方で指示という形を取っているが、あとは何が必要だと思う?」
「はい!」
ユウトが珍しく積極的に手を挙げた。
そうだよな、いつもはほわほわしているけど、よく考えてみればこいつはなんでも出来る出木杉くんだ。
テストの回答だっていつも満点だった、そんなユウトが間違えるはずがない。
「はい、ユウト」
「配給係」
「帰れ」
間違えだらけだった。一部分のび太くんだったわ。
「はい!」
今度はアインが元気よく手を挙げる。もうこいつには期待していない。
「はい、アホイン」
「音楽家」
「土へ帰れ」
「なんで私だけ罵倒がランクアップしてるのよ!?」
だいたいなんだこいつら、海賊王でも目指してる船長みたいな発想しやがって。
「ちげえよ、まずは特攻系、素早く敵を撹乱しつつおとりとなれるやつだ」
ユウトを軸に連携するなら、先のキノコ狩りでいう餌役が必要だ。ついでに各役割のサポートに入れると好ましい。
「そして後はプリースト、つまり回復役だ」
何よりも大事な回復役。俺の撒き散らした五臓六腑をどうにかできるあたり、この世界の薬学的魔法はかなり進歩していると見る。
一応アインが治せる可能性はあるが、毎度毎度ロシアンルーレットもびっくりな運試しを行うつもりはない。
「と、最低限こんなところだろ」
「さすがハジメ!」
「やめろやい、照れるだろ?」
キラキラした瞳で俺を敬うユウト。すごく気分がいいが、ヒキニートで鍛えられたゲーム知識なのが残念だ。とてもじゃないが言えない。
「まあ、つーわけで、ギルドの掲示板に既に募集をかけておいた」
「この会議の意味とは?」
アインが珍しく確信をつくが……無視だ。
「ちなみにどんな募集要件にしたの?」
「ああ、それは……」
とそこで、コンコンと扉をノックする音がする。
「お、早速誰か来たみたいだな、話は後でな……空いてるからどうぞー!」
幼げな、失礼するぞという言葉とともにガチャりとドアノブが回る。声からしてどうやら女のようだ。
これからともに冒険をする仲間。正直ワクワクが止まらない。むしろ今までの出会いが奇抜過ぎたのだ。
心臓がドキドキと鼓動のリズムを打ち、心地よい高揚のメロディが顔を火照らす。
徐々に扉から現れる金髪の髪がなびいた。
さあ、ご対面だ。
「どうも、世界一の美少女です」
「そうですか、お帰りはこちらです」
…………なんかヤベエのキタ!
てか聞き覚えのある声だけど…………やっぱりなんかヤベエのキタ!!
「ちょっとハジメあんたせっかく来てくれたのになんてこと言うのよ!! 私の代わりとなる餌役なのよ!? ………えへへ、世界一の美少女さんこちらへどうぞでゲス」
「おいこら姫様、三下感すげえぞ?」
「てかおまえら私を入れる気ないだろ」
世界一の美少女様がジト目で見るが、全くもってその通りなので否定はしない。
「とにかくおまえはダメだ、2人ともでていきなさい、次の方どーぞー!!」
「あれ? さりげなく私もついでに追い出されてるんだけど?」
目を点にするアインを隅においやりさっさと次の面接に移る。
「失礼します。あの、私アンと言います。今日は面接の方よろしくお願いし」
「採用!!」
「え、えー!?」
私のときと対応が違うぞおい、と俺の肩を掴む世界一の美少女様。知ったこっちゃない。
「すみません取り乱してしまいました。お掛けください」
「は、はぁ」
にこやかな笑顔で椅子を引くと、アインが笑い転がりだした。
「ではまず自己PRの方をお願いします」
「えと、回復役です」
「採用します」
「たまにドジを踏んでしまいますが」
「採用します」
「精一杯頑張りたいと」
「採用します」
「思います」
「採用します」
「え、えと、あの」
「採用します?」
「そんなどうしました? みたいに聞かれても……」
おっといけない、内容をほぼ聞かずに採用してしまっていた。まあしょうがないよな、金髪巨乳の美少女で常識人とかたぶんSキャラだし。
「というか、私たちのこと覚えています!? ど、どうしようアル……忘れられちゃってたら!」
「アン……ねえね、ねえさ……お姉ちゃん落ち着け」
「おまえが落ち着け、呼び方定まってねえじゃねえか」
というか、忘れるわけがない。いきなり来て胸ぐら掴んだと思ったら喫茶店でお茶させる自称世界一の美少女さんと、金髪巨乳とか忘れるわけがない。金髪巨乳とか忘れるわけがない。
というか、その……おっぱ
「ど、どうしたんですか? 顔が赤いですけど……まさか体調が優れないのですか!?」
「ふぁ!? い、いやなんでもございませんで候!!」
「なぜ武士語!?」
やっぱり体調が、と本気で心配してくれるアン。
どうしよう、自分が情けなくてしょうがない。
「えと、ハジメ? この人たちはえっと……」
ユウトがおずおずと手を挙げて質問する。
「ああ、すまなかった。この2人はアンさんとアル、双子でこれからは生き別れになる予定」
「さてはおまえ私を採用する気ないな?」
「これからは3人で頑張っていこうなっ」
「あれ? 私ほんとに追い出されてる? ハジメさーん!? 冗談だよね? 冗談だと言ってよ!!」
ねえ! ねえ!? と俺の肩をブルンブルン揺らすアホインは放っておく。
「あ、あの……アルは不採用なんですか?」
「え、いやそれはその……」
アンさんがかなり顔を曇らせていく。まずい、俺の、女の子泣かせてしまう記録が2つ目に更新されてしまう。ちなみに1度目は隣の席の女の子に、落ちた消しゴムを拾ってあげたときに泣かれた。
あとアインはカウントしない。
「ごめんなさい……わ、私アルがいないとやっていけな」
「よし、アルも採用!!」
わーいわーいと手を繋いでくるくる回る2人。
ま、まあ4人もいればアルの相手なんか誰かやるだろうし、めんどくさいことにはならないだろう、うん。
そう自分に言い聞かせて2人にユウトの紹介をする。
「んで、こっちの要介護者が勇者のユウ……ハっ!」
そういえばアンさんはユウトのことが好きだとかなんとか……つまり。
「ユウトを穴に埋めるか」
「ちょっとハジメ!? どうしたのいきなり僕なんかしたかな!?」
じゃない、今更嫉妬に燃えてもしょうがない。というかこいつなら埋めても生きてそうだし……
そうじゃなくて、問題はユウトとアンがくっついたときだ……つまりそれは俺がずっとアルの相手をしなくちゃいけないということでつまり……
「アイン、俺たちには君が必要だ」
「ふぇ…………?」
隅っこで体育座りをしていたアインが涙目でこっちを向く。
「君のその知性溢れる気品と清楚極まるなんちゃらと、あとなんかすごい秘められたなんかが必要なんだ!」
「は、ハジメっ!」
チョロいな。
目を輝かせて胸を張るアイン。火つけはいいが、天狗になったこいつを戻す後片付けがめんどくさそうだ。友達と行くBBQみたい。
というか。
「募集条件、まともであることなのに変なやつしかいねえぇぇぇエエエエ!!!」
俺の魂の叫びはギルド中に響いたという。
「はあ、俺の仲間が要介護者とアホとヒンヌーナルシストと天使になっちまった……」
「「「天使なんて照れる」」」
「…………はぁ」「あはは…………」
アイン、アン、アル
ヒロイン名前分かりづら!?