冒険者ギルドへの訪問
『コケコッコリアー!!』
朝、それは1日の始まりである。また、この時間をどう過ごすかで、その日一日の質が決まると言っても過言ではない。
俺は漏れた朝日に目を細め、んんーと背を伸ばす。
隣を見れば、腐れ縁のイケメン優男な幼馴染が気持ち良さそうに寝ていて、時折もう食べられないと寝言を吐く。
そして逆隣を見れば、桃色の髪の姫様が鼻ちょうちんを膨らませてグースカと寝ていた。姫どころか普通の女の子でもこんなだらしなくないと思う。
そして前を見て見れば
「バルン?」
立派な大きさの馬が藁を食んでいた。
「……………………」
とりあえず、何見てんだコラと言いたげなその目は置いといて、
「なんで馬小屋なんだああぁぁぁああ!!?」
俺の絶叫が馬小屋を揺らした。
アインの鼻ちょうちんが割れ、ユウトがしかめっ面をする。
「なによーうるっさいわねぇ。もうちょっと寝かせてよ」
「むにゃむにゃ、あと5時間……」
2人とも起きる気は無いようで、布団代わりの藁にくるまる。
「いや起きろアホども! ユウトに関しちゃ昼過ぎるぞそれ!」
まあ俺もニート時代は昼過ぎに起きるなんざ当たり前だったのだが。
俺が2人の頭を連続ではたくと、やっとという感じで起きる。
「んでなによ」
「いや、なんで馬小屋なんだよ! なんで馬と一緒にワンナイト過ごしてんだよ!!」
「なんでもなにもお金がないからでしょ?」
「チクショウそうでしたね!」
昨晩クタクタになって宿を探したところ、看板の料金表を見てふと気づいてしまった。
あれ、お金は?
当然ながら俺とユウトはお金など持ってなく、アインならと期待の目を向けたところ、「使っちゃった☆」とか言って最後の希望を屋台の焼き鳥に変えていた。
「姫様なら宿代の一泊や二泊分持ってろよ! てか家出するとき持ってこいよ!!」
「しょうがないでしょ! 物を買うなんて概念知りもしなかったんだから!!」
「ちっ! いらねえとこだけお嬢様ぶりやがって!」
道中、アインが優しい人たちに貰ったとかいうお金も、焼き鳥へと換金されてしまい、俺たちはしょうがなく馬小屋を借りた。
「くそ! なんでこう波乱万丈なんだ……流石に一文無しじゃ生きてけねえ」
というか今更ながら、能力以外なにも与えなかったアホ神を恨まずにいられない。
というか俺に関しては能力ですら役に立たない。
「とにかく金だ金! 金がなければ始まらない!」
「じゃあギルドに行きましょーよ! クエストを受ければお金が貰えて美味しいものがうへへへへ」
口からよだれが溢れるアインに、珍しく同意見だ。
魔王軍を倒すためにも、明日を生きるためにも、まずはギルドに加盟してからだ。
「んじゃとっととギルドに行くぞ!ー
「おおー!!」
俺たちの最初の目標が決まった。
お金を稼ぐこと……いきなり現実的だが、そんなこと気にしてはいけないのだ。
あと、嫌だとかほざくユウトをゲンコツで殴って無理矢理引っ張って行く。
――――――――――――――――――――――――
「ったく、まだ回復できてないとか燃費悪くないですか勇者さまぁ?」
「うぅ、痛いよぉ……」
頭にタンコブが出来てフシューと煙が立ち昇るユウトは、俺におぶわれながら涙目で頭をさすっている。
どうやら魔力がゼロの時は、異常な防御力も無くなるようで、俺の凡人パンチでも簡単に倒すことができた。
「しょーがないわよ、だってご飯とか食べないと元気でないもの」
「そういうもんかー?」
底なしの魔力の持ち主であるアインが、食欲に貪欲なのはもしかしたらそういう理由なのかもしれない。
と、そんな話をしていたらぐきゅるるるとアインのお腹が鳴った。
「しっかし、腹減ったな……思えば昨日から何も食べてないのか……」
盗賊の件もあってすっかり食べそびれていたのだ。
「あ、2人とも! あれがそうじゃない?」
背中のユウトが身を乗り出すので危うく転びかける。
バランスを保ちながらユウトの指さす方向を見ると
「あ? いやこれ酒場かなんかの間違いじゃねえのか……」
見た目だけはギルドっぽいが、中からは、朝から叫ぶ声や酒の匂いが漂ってくる。
「でもギルドって書いてあるよ」
「よく読めんな」
日本語ではない何かが看板に書いてあるが、どうやらギルドと書いてあるらしい。
これも勇者の力のひとつということだろうか。
「こういうもんでしょ? さっさと入るわよー!」
「おい!」
ピューっと勝手に中に入っていくアインを、俺はよっこらせっと追いかける。
中に入るといよいよ酒の匂いが鼻を刺激した。
周りを見てみると、ごつそうなガタイのおじさん達がオールしたらしく机に突っ伏している。
「新規の方ですか?」
受付らしいところに行くと、こちらには戦場の一輪の花、受付の美人お姉さんがいた。
「あ、はい新規でしゅ」
「ブハ!」
少し緊張して噛んでしまったのをアインが大爆笑する。あとで埋めよう。
「そ、そうですか。ではこちらにサインしてください」
ヒーヒー言うアインを放っておいて、俺とユウトは名前と必要事項を記入していく。
「私も加入する!」
「おまえもうスキルカード持ってんだろ」
「私の場合特別な事情で生まれた時から持ってんの! でも加入はしてないわ」
姫様事情というやつだろうか。
「では新規ギルド加入費として10000ミリオン……3人で30000ミリオンお払いください」
「ふぇ…………?」
ミリオン……というのは恐らく日本でいう円というやつだろう。でもそれってつまり……
「金かかるの?」
「当然です」
にっこり笑顔のお姉さんに引きつった顔しか返せない。
「えっとローンとか」
「ありません」
詰んだ。
お姉さんに待っててもらい、俺たちは少し離れたギルド内のテーブル席について相談を始める。
「第1回、お金どうしよう会議を始める」
「第1回ってことは第2回がありそうだね」
ユウトの苦笑は無視だ。
「はい!」
「はいアインさん!」
「臓器を売る!」
いきなりのバイオレンス発言。
「出来ればそれは最後の手段にしよう! 本当の本当に最後の!!」
いい考えだと思ったのにとかボヤくアイン。そうなったらまずはこいつを売ってやる。
「はい!」
「はいユウトさん!」
「誰かに借りる!」
「おうやってみろよ、とりあえずあそこの今日もツケでとかボヤいてるおじさんはどうだ?」
借りるどころか全員借金がありそうだ。
「はい!」
「はいアインさん!」
「ハジメを奴隷にして売る!」
「いい度胸だまずは貴様を娼婦にしてくれるわ!」
こいつは身体を売ることしか脳がないのだろうか。いや、エロい意味ではなく。
「ったく拉致があかないな……叫んだら余計お腹すいた……」
椅子にもたれかかってため息を吐くと、なんとなく後ろを見る。そこには『アインス・ツェーン・フンデルト第3王女を見つけたら衛兵へ。賞金300万ミリオン!!』と、書かれた例のアレがある。
「もうアインを衛兵に突き出して300万ミリオン貰おうぜ、んでパーティしよう」
「ちょっとハジメさあん!? それは勘弁してください!!」
本気で泣きだすアホイン、しょうがなく別の手段を探す。
「はい!」
するとユウトが元気よく手を挙げる。
「ん、一応聞くよ」
「誰かに貰う!」
「はぁ……そんなことできたらそもそも苦労しな…………いや待てよ?」
あながちユウトの言うことも的を外していない。
そうだ、この方法ならいけるかもしれない。
どうしたの、とキョトンとするバカどもに向き直って俺はこう言う。
「いけるかもしれない。俺についてこい!」
――――――――――――――――――――――――
「んで、これがアンタの作戦ってわけ?」
「ああ、この方法なら……いける!」
場所は移って大通り。段々と街も活気付いてきており、様々な店が他には負けじと大声で客引きをしていた。
そんな中、四角い箱の中に座ってじっとしているユウト。
箱には『ご飯が欲しいのでお金をください』と書かれた紙が貼ってある。
「名付けて『イケメンで、婚期を逃した独身女性を釣る作戦』!!」
「うまくいくの…………? というかいいのかしら……」
「嘘は言ってないだろ? SNSの可愛い自撮りよりよっぽど信頼があるさ」
「何言ってるかよく分からないけど、ハジメあんた今、ブルドッフぐらいゲスい顔してるわよ」
ちなみにユウトには何も伝えず、ただここに座ってろと言ってある。
「……………………」
すると、街を歩く、婚期を逃したっぽい雰囲気のお姉さんがユウトの前で止まった。
「本当にきたわ……」
ジッと見られて、お姉さんどうしたの? とキョトンと顔を傾けるユウト。
お姉さん(?)はスッと手を伸ばす。
さあ、後は目の前の缶にお金さえ入れてくれれば……
「……………………養うわ」
まさかの事態。
「ま、まずいわよ! ユウトが婚期を逃した独身お姉さんに連れていかれそう!!」
「どちくしょおぉぉ!!」
――――――――――――――――――――――――
「はぁ……はぁ……はぁ」
なんとかお姉さん(?)からユウトを奪還してギルドへと戻る。
「なんで、あんなに……力が強いんだっ!!?」
ニートとは言え、青年男性である俺が全く歯が立たなかった。もう本当、婚期を逃したお姉さんの力は凄まじかった。
アインがヒールを叫んで炎を出していなかったら連れてかれていたと思う。
ギルドの中は先程と違い、酒の匂いはするものの酔っ払いだけではなくなっていた。
色んな鎧を纏った者や、ローブを羽織った者、色んな冒険者がいる。
するとグギュルルと限界に近いレベルでお腹が鳴る。
「ああ、もうだめだちくしょう……」
遠くの席をみると、山盛りの料理をおいしそうに頬張る少女の姿が見える。羨ましさで自然と近づくと、段々と顔が分かるようになる。
「あ……ハジメあれって」
そして、その顔には見覚えがある。
そう、それは白い髪のヒンヌーだった。
「ゲプ……うむ、なかなか、美味であったぞ」
「おい……よく一文無しで放りだした俺たちの前でおいしそうに飯が食えるな!!」
「ギャン!!」
上品に口を拭うミリオンをゲンコツで殴る。
「いきなりなにをするのじゃ、お主! 我を誰と心得る……ってハジメとユウトではないか」
頬にご飯粒をくっつけたミリオンが、、ようやく見つけたとボヤく。
「誰?」
アインが、知り合い? と聞いてくる。
「ああ、こいつは……」
…………なんて言おう。
まさか神と言って信じるとは思えないし、いやアホインならひょっとしたら。というか信じられて騒がれたら面倒なことに……
「よくぞ聞いたの! 我こそはミリオン、お主たちの言うところの神じゃな!」
「っておいこらなに勝手に名乗ってんだ!」
まずい、騒ぎになるんじゃ。
「へー」
あれ、思ったよりも薄い反応だ。
するとアインは、半目で俺の耳に口を近づける。
「(イタイ子なんだね)」
「え? あ、うーん……そうなんだよ!」
もう面倒くさいからそういうことでいいや。
「おいこら誰がイタイ子じゃ!!」
聞こえてんのかよ。
「ところでミリオン様はどうしてここに来たんですか?」
ユウトが俺の背中でそう聞くと、ミリオンはムフーと鼻で息を吐いた。
「その前にそれどういう状況なのじゃ!? ハジメの背中にユウトがムッフー!」
腐ったヒンヌーなぞもはや価値がない。
「上級魔法? とやらをぶっ放してこのザマだよ」
「ぶっぱなっ!? そこもうちょっと詳しく!!」
「ああもううるせえな!!」
ハーハーと息の荒いミリオンを遠ざける。
すると、落ち着いたらしいミリオンが、わざとらしく咳き込む。
「おほん、そうじゃった、お主たちギルドへ入るのにお金が必要じゃろ?」
むしろ普段から必要だ。
「流石に初期費用くらいはと思っての」
「え、何? くれんの」
うむ、と頷くと、ない胸を張ってミリオンがドヤ顔をする。
「そりゃな、この我を何の神じゃと思うとるんじゃ」
「え、ヒンヌーだろ?」
「違うわい!!」
え、いやでもミューリアさんはそう言ってたし。ミューリアさん絶対だし。
「我は富の象徴、お金の神じゃ」
「嘘だ! そんな幸福そうなもんじゃねえよ! ヒンヌー神か禍ツ神以外認めねえぞ!」
「なぜそこまで頑ななのじゃ!?」
それはミューリアさん絶対、だからだ。
というか
「そういえばマイビーナス、ミューリアさんは?」
「あれは天使じゃと言うとろうが……ミューリアはお留守番じゃ」
「オーマイゴッド!!」
「神を前にしてそれ叫ぶかの……」
愛しのミューリアさんが来ないなんてもうだめだ。
「というか、金なんて持ってるように見えないけど?」
「ああ、それはの……ほれ」
ミリオンが手をかざすと、何もないところからチャリンとお金が出てくる。
「なんだそれ!?」
「ほれ、これで3万ミリオンじゃ、アイン、じゃったかの? の分も色をつけてやったわい」
何故か紙幣ではなく硬貨だが、そんなことはどうでもよくて、机に山盛りの硬貨が出来る。
「いくらでも出せるんだろ!? もっとくれよ!」
「ダメじゃ」
ノンノンと指を振るミリオン。
「そんなことしたらお主、引きニートに戻るじゃろ」
うぐ、言い返せない。
「それにじゃ、あんまり我が世の中を変えてしまうのもちとまずいからの」
お金じゃって世の中の一部じゃ、とミリオンは言う。
「ちっ……まあそれはしょうがないとして……おいミリオン」
そう、俺はずっと気になっていることがある。
「なんじゃ?」
「これ、通貨のミリオンってお前と同じ名前だが、もしかして」
「おおそうじゃそうじゃ! これはお金の神である我を敬い名付けられたのじゃよ!」
硬貨の裏は我の顔じゃ、と言われひっくり返すが、そこには似てもにつかない凛々しい女神が載ってた。
が、そこじゃない、俺が言いたいのは。
「…………お前、ここは知人の神が管理してるとかって言ってたよな?」
「あ……………………」
神ですら手を焼く、この世界の魔王軍を撃退する。俺たちはある意味、どっかの誰かさんの尻拭いをしている訳だが。
「なんで管理者でもないお前の名前が信仰されているんだろうなぁあ?」
「…………………………………………テヘ」
可愛子ぶってごめんぴょんとか抜かすミリオン。
俺の血管はブチ切れた。
「てめえ! 自分の管理不足の後始末を俺たちにさせてんじゃねえか!!」
「ぎゃやああぁぁぁああ!!」
俺の拳がミリオンのこめかみにグリグリとねじりこまれる。
周りが、なんて外道な……愛すべきヒンヌーロリが! とか騒いでいるが知ったこっちゃない。
「うぅ……とにかく、金は渡したんじゃからさっさとスキルカード貰ってこい!」
「ああ、そうだった」
受付のお姉さんをかなり待たせてしまったが、これで晴れて冒険者になれる。
「お姉さん、これ3万ミリオンです。」
「はい、お待ちしておりました。ハジメ様、ユウト様、えーと……アインス・ツェ」
「あははやだなあ、アインだよ!!」
すごく必至に誤魔化すアイン、多分普通にバレているだろうけど。
「……アイン様、ギルド加盟おめでとうございます。お二人にはこちらを、スキルカードになります」
「うおぉ! これがスキルカードか、やっと異世界転生物語っぽくなってきたな!!」
「……!!」
手に持ったスキルカードを頭上にかざすと、なんだかテンションが上がる。
ユウトも興味津々に自分のそれを眺めている。
「はいはーい、ちょっと君たちいいかな?」
すると良いところで突然キメ顔の男が乱入してきた。
何故か無理やり俺とアインを遮るように。
「ちょっときみぃ、さっき見ていたよ? こんな可愛らしいお嬢さんに暴力を振るうなんて最低じゃないかな?」
キメ顔男はチラチラと、ミリオンとアインの方を交互に見ている。
ははぁ、なるほど。
「おいおい可愛らしいお嬢さんって、そこで第三の男キターとか叫んでる変態のことか?」
「レディを変態扱いなんて感心しないね。彼女がそんなこと言う訳ないじゃないか、妄言はやめたまえ」
「れでぃぃい?」
俺は多分ものすごく渋い顔をしているのだろう。なぜなら、アインがキメ顔の後ろで大爆笑しているからだ。
どうやらこのキメ顔、俺が女の子2人をはべらしていると勘違いしているらしい。アインに関しては俺がはべらされているぐらいなのに。
「残念だったな、こっちには俺だけじゃなくてこいつもいる」
近くで座っているユウトの肩を叩く。
「うぅ!? ……別にそんなことはどうでもいいのさ」
あ、今完全にユウトのイケメン性に圧されたな。
「とにかく、君は彼女達と一緒にいるべきではない! 僕ならもっと華麗にエスコートして差し上げるさ」
こいつ姫様と神様を同時にエスコートするなんて、なんてプレイボーイだよ。
「はぁ、だってよアイン、ミリオン」
「「うえぇぇ」」
2人の手を取り軽く口づけするキメ顔。2人は心底嫌そうな顔をする。
「それが答えだろ」
「ならば、君たちのスキルカードで決めようじゃないか! 僕のレベルは10、はは、まあまあといったところだろう」
いまいちレベルの感覚が分からないが、多分キメ顔しているしある程度上のレベルなのだろう。
いつのまにか騒ぎに人が集まってきて、やるじゃねえか、とかざわついているし。
「まあ、僕は初期ステータスでもかなり才能に恵まれていてね。ここに僕の初期ステータスが記された紙があるのだが、これと2人の合計を比べて、僕が勝ったら彼女達を解放して差し上げるんだ」
なんでこいつそんなもの持ち歩いてんだ、とも思ったがめんどくさそうだからスルーする。
「はいはい分かったよ」
「待っててね天使たち、今僕が助けてあげるから」
「うえぇぇ」
「我は神じゃぞ」
2人が本気で嫌そうな顔をする。
この男もしかしたら大物かもしれない。
「で、では早速初期登録の方を行いましょう。まずはカードに手をかざし、それから魔法を放つ感覚で念を込めてください」
「こんな感じかな……ふん」
すると突然スキルカードが光り出し、あぶり出されるようにカードに文字が浮き出てくる。
「えーと、読めねえ」
「うぬ、ほれこれで読めるじゃろ」
おお、なんか魔法がかけられたら読めるようになった。
「はん! 文字も読めないとは家の出も大したことないな」
イラつくがここはスルーだ、我慢だ。
「えーと、『STR 5、DEX 7、VID 1、AGI 5、INT 2、MND 2、LUK #○*%』」
なんだ、このラックの文字化けは。
「はは、残念ながら僕の初期値の半分以下だ。まあ凡人といった感じかな?」
「あと固有能力が……」
「な!?」
「「「!!?」」」
なんだか急に周りがざわめきだした。
「す、すごいです! 固有スキルなんて滅多に現れないんですよ!!」
「へ? そうなの?」
受付のお姉さんが目を輝かせてまくしたてる。
「はい! これはもしかしたら《ファースト》初めての偉人が誕生したかもしれません!」
周りからも、うおぉ! すげー! と賛辞の嵐が巻き起こる。やばい、すごく照れる。
「で! 能力は一体!?」
「えーと……固有スキル……………………《ハズレ》」
「「「……………………は?」」」
うわ、分かっちゃいたけどすごく空気が冷めていく。
「え、それってアタリなの? ハズレなの?」
「固有スキルはすごいんだけど……」
「でもハズレ?」
先程と違った意味でざわめきだす。さようなら俺の栄光。
「ふ、まあそんなとこだろうと思ったよ」
キメ顔が額の汗を拭き取りながら、残念だったなと叫ぶ。
「さあ、君は終わりだな、次はそっちのイケメンくんの番だ」
ユウトもまた、えいやっと念を込める。
「えーと……」
「まあ顔とステータスは一致しないし、立つことすらできない君じゃあ残念だが」
「『STR 110、DEX 140、VID 150、AGI 145、INT 130、MND 125、LUK 56』だね」
「……………………え?」
キメ顔が驚きに固まり、紙をポトリと落とす。
それをミリオンはさっと拾うと読み上げた。
「ふむ、お主の5倍は優に超えとるの」
「「「えええええ!?」」」
周りがまたもざわめき出す。それもそうか、だって
「固有能力は、《勇者》だよ?」
「「「はああぁぁああ!!?」」」
勇者なんだし。
「ふふ、流石我の与えたSSR能力じゃ。レベル1からこの強さとはの」
「おい、俺の《ハズレ》もおまえの与えた能力だからな?」
「どういうこと!?」「奇跡の子……神に愛された子!?」「伝説だ、伝説の始まりだ!!」だのとギルド内が騒ぎだす。
キメ顔は信じられないといった様子で座り込む。
「おいおいおい? もしかしてこれ、おまえの今のレベルのステータスも余裕に超えちゃったんじゃねえの??」
ブルドッフさんに習った、これ以上ない程のゲス顔をお見せすると、受付のお姉さんがドン引きしていた。
泣きたい。
「くっ……! 覚えておけよ!!」
そしてそのまま捨て台詞を吐いて、ギルドを走り去っていくキメ顔くん。
「やっと吐き気が収まったわ」
アインは、深呼吸をしてため息を吐いた。
ユウトはというと、質問の嵐に巻き込まれてものすごくオロオロしている。ちなみに、私と付き合ってという声がものすごく多くて、思わずヒールと叫びそうになる。
「さてと、じゃあ冒険者になったことだし、クエストを……」
「ちょっと待ちなさい!!」
「今度は何!?」
誰かが、バンっ! とギルドの扉を開け放ち、その瞬間騒がしかったギルド内が静かになる。
そして、その誰かはズカズカとギルド内に入ってきた。
「やべえ、アルだ……アルが来た」
「どうする? 逃げる?」
ギルド内がヒソヒソとしだす。みんながみんなできるだけ目立たないようにと気配を消す。
なんだかめんどくさいやつのようだが、まあ俺たちは面識もないから関係な
「あなた、ちょっと面貸しなさい」
「ぐえ!」
そしてその金髪ロリは俺の胸ぐらを掴んでそういったのだった。