アホの子は姫さまでした
『敵襲!! 敵襲!!』
早朝、俺の体内時計では6時頃、カンカンという鐘の音が響いた。
「うおあ!?」
飛び起きて周りを確認すると、バタバタと外の様子が騒がしい。
「ハジメ! 起きなさい!」
するともうすでに起きていたらしいアインが、俺のテントに入ってくる。
「ちょ! 勝手に入ってくんなよ、男にだってエチケットというものがだな?」
ごそごそと俺の俺を隠す。
「さっさとその粗末なものを隠して外に来なさいよ!」
「……………………粗末じゃないもん!」
涙を飲みながら急いでベッドから起き上がる。隣で寝ていたはずのユウトを起こそうとしたが
「あれ、あいつどこ行ったんだ?」
基本寝坊助なユウトが珍しくもう起きていたのか、その姿はなかった。
しょうがなく靴を履いて外に出ると、日の光が俺の目を刺した。眩しさに目を細めると、徐々にその光に慣れてきて視界が露わになる。
「うお、改めて見ると異世界……なのか?」
走り回る山猫族は確かにファンタジーなのだが、どうにも殺風景で田舎への道中と言われても違和感がない。
「あ、起きたハジメ! 大変なの!」
「アイン、どうしたんだこの騒ぎは……」
カンカンと鳴る鐘の音は今もなお続いており、正直頭に響いて心地のいいものではない。
走り回る山猫族はよく見たら荷物をまとめて、更に武具の用意をしていた。
「おいおいこれじゃまるで戦争だ」
「その通りにゃのじゃ」
俺がボソッと呟くと、ネコのおじいちゃんが真剣な表情で話しかけてきた。
「今朝、子供達が盗賊に誘拐されたと見張りが知らせての。今までは逃げることで、一族を絶やさにゃいことを優先していたんじゃが」
ネコのおじいちゃんは、目を瞑ってヒゲを指でつまむと目をカッと見開いた。
「もう限界にゃ! 未来ある子供達を連れ去られて黙っておることはできん!」
おじいちゃんの叫びに族中がうおおお! と雄叫びをあげる。
「お主らは逃げるのじゃ、これは山猫族の問題」
とは言われても、ユウトがどこかへ行ってしまったため逃げるに逃げられない。
「しゃーない、おじいちゃん、俺らも付いていくぜ」
「え?」
アインが私も? みたいな顔をするが知ったこっちゃない。
「にゃぅ……しかし……」
「一宿一飯の恩だ、正直役に立つかは微妙だけど」
もしかしたら知識面で何か役に立てるかも知れない。
それにここは、俺の眠る真の力が解放するパターンだ。
「かたじけない……準備が出来次第出発する」
ありがたいとだけ残して、ネコのおじいちゃんは準備へと戻った。
「ところでユウトを見なかったか?」
勝手に巻き込まれたことにむくれるアインは、、ツンとしている。
「……薪を頼まれて山の方まで取りに行ってる」
「はぁ!? 山ってあの微かに見えるあの!?」
周りを見ても木一本生えてないため、しょうがないっちゃしょうがないが。
確かに薪は旅において必須だとしてもだ、だからって霞むほど遠くに見える山に取りに行くって……
「やっぱあいつ頭ん中空っぽなんじゃ……」
「なんか『僕あれくらいの距離なら走ってすぐだよ! なんでか疲れないんだよねえ、えへへ』って言ってた」
流石勇者様、レベル認定されていなくてこの強さよ。
「でもまだ帰ってこないと思う。昨日は1時間はかかってたから」
「なるほど、ネコのおじいちゃんが言ってた助かるってこのことか。確かに助かるよな」
するとそこで鐘の音が止んだ。そして今度は角笛が鳴り響く。
どうやら出発の準備が出来たようだ。
「さあ、行くかアイン」
「…………うん」
俺とアインは、ネコのおじいちゃん達が集まる場所へと早足で向かった。
―――――――――――――――――――――――
盗賊の根城は案外近くにあった。
少し移動したところで辺りは岩山に包まれ、そして行き止まりには大きな洞窟が空いていた。
「ケヒヒ! 正面から来るなんて、てめえらバカなんじゃねえの!!」
目の前には、盗賊の集団10数人が武器を片手にゲヒゲヒと下品に笑っている。
「なんて下品な笑いなのかしら! 私が成敗してあげる!」
「お前も笑うときあんな感じだけどな」
そんなバカな、という顔をするアインを放っておく。
「と言われてもこれ正面以外道がないでしょ、よく考えれば分かるじゃない、バカなの!?」
「ちょ、アホアイン! 敵を煽るんじゃねえ!!」
ブフォ! っと吹き出すアインのせいで、盗賊集団に黒いオーラが吹き荒れる。まずいと思ってゴマスリモードに移行しようとすると
「ゲヒっ! そう言われてみればそうだ」
「納得すんの!?」
やっぱりバカのようだ。
「さあ、この人数相手じゃ歯がたたにゃいじゃろう! さっさと観念して子供達を返すのじゃ!」
こちらは女子など、戦力にならない者を除いた30人規模の戦力。武器もあるため、今のところ優位はこちらにあるだろう。
「ケヒヒ! 返して欲しいってのはこいつらのことかい!」
盗賊の髭男爵みたいなやつが合図すると、でっかい檻が引きずられてくる。
「子供達!!」
中には、助けてと叫ぶ山猫族の子供たちと他にも数人人間が監禁されていた。金色に光る髪の少女にその他山男みたいなやつら。
「おい、アインあれ……」
「うん、他にも捕まった人たちが……」
「めっちゃ美人じゃないか?」
「……………………」
アインの超絶ド級のうわーを頂いたが、気にしてはいない。
「大人しく降参はしないようじゃにゃ……行くぞ! 皆の衆!」
「「「うおぉぉぉぉおお!!」」」
山猫族が突撃を開始する。
たぶんこの数なら勝てるだろうと傍観していたら、洞窟の奥からもう1人が現れて
「ファイアーボム!!」
「「うみゃー!!」」
突然の爆発に山猫族の半分が吹き飛んだ。
「うわ! おいなんだこれ! みんな大丈夫か!?」
どうやら直撃はしなかったようでみんな息がある。
「おいおい、舐められたもんだなあ! その程度でこのブルドッフ様に楯突こうってか!」
先程出てきた巨漢の、育毛大サービスみたいな髭男爵が現れる。
「魔法…………?」
俺は確かにスペルを聞いた。
しかし、魔法はギルドに加盟しないと使えないはずじゃ……
「ブル……ドッフじゃと?」
「なんだ、おじいちゃんなんか知ってんのか!?」
爆風に煽られて、ケホケホと咳をするネコのおじいちゃんが驚愕に顔を染める。
「にゃあ……やつはお尋ね者じゃ。日々の素行が原因でギルドから除籍された。しかし怒り狂って暴れ、スキルカードを没収される前に町から姿を消したにゃ」
「おいおいじいさん、俺はただ借りてるだけなんだぜ、ゲヒャヒャヒャ!」
満面のゲス顔で唾を大量に吐き出すブルドッフ。
流石ボス、笑い方の下品さも格が違う。
「まさか盗賊に成り下がっておるとはにゃ……」
「おっとぉ、そろそろさようならの時間だぜぇ? もういっちょ威力増し増しファイアーボオォォム!!」
今度は容赦しないと正確に狙いを定めるブルドッフ。
もうダメだ、と俺が目を瞑ると
「ヒール!!」
『ザパアァァア!!』
爆発する筈の魔法は、大量の水にかき消されて不発に終わる。
「な、なんだと!?」
「ふふ、こっちこそ舐められたものね!」
ピンク色の髪をなびかせたアインが、ドヤ顔でキメポーズを取る。
「このアイン様がいる限り、あなたたちの敗北は必須なのよ!ふふ、えへひゃ」
「……………………」
普通に決めてればかっこいいのだが、節々からキマッタ感が溢れてて残念すぎる。
「ふはは、どうだこれ以上アイン様に蹂躙されたくなければ降参するんだな!」
しかしラッキーだ、たまたま相性の良い魔法が炸裂して相手を怯ませることができた。
もうハッタリでもなんでもいいから、アインに乗っかってお引き取り願おう……アイン、ついに認めたかみたいな顔でこっち見んじゃねえ!
「な、なんだ今の!?」
「ボスのファイアーボムを打ち消すだと!?」
「なんて威力の魔法だ……」
「え、でもヒールって叫んでなかった?」
盗賊下っ端の、ちょび髭男爵達が驚愕にざわめく。
まずい、アホのアインの本質が見極められたらもうハッタリが通じなくなる。
「「「ヒールって攻撃技だったんだ!!」」」
よかった全員アホだった。(ユウト含め)
「ゲヒャヒャヒャ、そんなんでこの俺様がビビると思ってんのか!」
「そうならアイン様の力をぶち込んであげる!」
「俺様にはまだ隠された力が……」
「このアイン様にかかれば」
なんでもいいけどこいつら自己主張が激しすぎる。
様って……
「ふ、こうなったらあの力を解放するしかないようね」
するとアインが両手を構えて静かに目を閉じた。
その瞬間身体が光に覆われ始め、風がアインを中心に吹き乱れる。
「黒き混沌の世界を統べる、闇の王よここに現れ、その血と血で洗う呪われた力を我に与えよ……!!」
「おお、もしかしてアインの隠された力が! ただのアホじゃなかったんだな!」
闇の力……なんとも俺の厨二心をくすぐるのだろうか。いつか俺もこんな魔法を
「ホーリー・レイ・ストリーム!!」
「それ絶対光魔法じゃねえか!!」
血と血で洗うホーリーってなんだよ! 呪われるどころか祝福受けてんじゃねえか!!
いやでも強そうなのには変わりない。きっとこれなら髭男爵のヒゲを丸刈りにでき
『ポンっ』
花が咲いた。
それはとても、とても綺麗な花が。
「イヤアァァアアア!! 助けてエエェェエエ!!?」
「本当バカなの!? このくそアホインがあぁあ!!」
あっさりと捕まって檻にぶち込まれたアインが、本気で泣きわめく。そのまま奴隷として売られてしまえばいい。
「くっそ、どうする!?」
戦況は最悪だ。敵は広範囲に爆撃できる魔法を持つハイパー髭男爵とチョビ髭が10数人。
対してこちらは、満足に動けるのが10人ほどとまだ結局何の力を持ったか分からない凡人1人。
「さぁさぁ、これで今度こそさよならの時間だぜえあぁ!」
ウルトラ髭男爵が手を振り上げて魔法を詠唱する。
くそ、もうどうにでもなれ!
「ちょっとまったあぁぁ!」
「あ? 誰だてめえ」
普通にいっしょにいたのになんて仕打ちだろう。
「ふふ、あのアイン如きを捉えたくらいで調子に乗ってもらっては困る」
はい来ました二度目のハッタリ。
「あいつさっきアイン様とか言ってなかっけ?」
「ああ、アイン様に蹂躙されたくなければとか言ってた」
「お黙りチョビ髭ボーイ!! ……言い忘れてたけど俺…………」
ここでキメポーズ。片手で顔を抑えて煽りのポーズ。
「めっちゃ強いから」
これは完全にアレである。最初に出しゃばって速攻退場する雑魚キャラのアレである。
空気が重くなったようにシーンとなる。
やばい、流石にまずいだろうか。
「「「なんだ……と!?」」」
おっしゃああぁぁ! 全員バカで助かった!!
「き、貴様の能力はなんだ!?」
おおっとここでまさかの返し。
ええいままよ、もうどうにでもなれ!
光れ俺の隠された才能。
「ならば教えてやろう。俺の能力は…………」
「「「能力は」」」
「《ハズレ》……だ」
「イヤアァァアアア!! ごめんなさい調子乗りました助けてエエェェエエ!!!」
「本当アンタバカね! 何がハズレよ、ハズレてんのはアンタの頭のネジよ!!!」
だってバカだからノリでいけると思ったんだもん。
「ゲヒャヒャヒャ! せっかくの助っ人もバカばっかりで散々だなぁ山猫族!!」
くそ、バカにバカって言われた。
「誰がバカよこのまぬけ!」
「そうだそうだ! アインはバカじゃなくてアホだ!」
「あんたこの状態でも喧嘩ふっかけてくるの!?」
そこだけは譲れないのだ。
「ああ? 今なんつった!?」
クルティカル髭男爵がブチ切れ寸前の顔でアインを睨む。アインも負けずにアホヅラをお見舞い……おっと素の顔だった。
「んん? てかお前どっかで見たこと……ああ!」
パーフェクト髭男爵がアインの顔を見て驚愕の声をあげる。どうやら本当にアホすぎて有名らしい。
「てめえ……アインス・ツェーン・フンデルト…………行方不明の第3王女じゃねえか!!」
「はああぁぁぁあああ!? こんなアホが第3王女……お姫様だぁ!?」
俺の絶叫が山彦になって響く中、山猫族達も「あぁ!? そういにゃあ見たことある!」と口々に叫ぶ。
「ふふふ、どうやら私の本当の姿を知ってしまったようね」
そうアイン、この姿は仮のもの……とかボソボソ言ってるアホイン、やはりこれは何かの間違いじゃなかろうか。
俺に向かって、「全くしょうがないから私のおこぼれで助けてあげる」と囁く。
「あ? どうすんだよ」
「まあ見てなさいって」
自信たっぷりに大船に乗った気になれと胸を叩くアイン。どうやら何か考えがあるらしい。
勢いよく立ち上がって、私を見なさいとばかりに声を張る。
「さあ、分かったでしょう! そう、私は姫……だからただちに開放しないと……」
「やべえ見ろよこれ、とっ捕まえたら賞金たんまり出るらしいぞ!!」
「……………………」
そっと静かにお縄に戻るアイン。
「無理だった……テヘ」
「アホなのか!? このどぐされアホインが!!」
というかよく見ると、手配書にフォンテッドと書いてある。何をやらかしたんだろう、姫さま。
するといよいよ興奮が最高潮に高まったらしいエクスプロージョン髭男爵は、山猫族たちに向き直る。
「これで一生何不自由ない生活ができるぜ!! ゲヒャヒャヒャ、さあチリとなれ山猫族、もうてめえらの皮なんざ要らねえよ!!」
手を振り上げ、ネコのおじいちゃんに狙いを定める。
まずい! 怪我して動けなさそうだ!
「やべえ! 逃げろおじいちゃん!!」
「まずはてめえだ、ジジイ! さようならああぁぁ! ファイアーボっ」
「そこまでだ!」
「おいぃ!? 何回止めさせりゃあ気が済まんだよ!?」
空から突然何か、いや人が降ってきた。
突然現れておじいちゃんとファイナルアタッチメント髭男爵の間に立つその姿は、見覚えがある。
そうだ、忘れるわけがない。
「ユウト!!」
「よかった、ハジメにアイン! みんな無事だったんだね!!」
俺たちを見つけると、いつものホワンホワンな笑顔で手を振ってくるユウト。
「おい、ユウト」
「なに? ハジメ!」
そう、最高にかっこいいシーンなのだ。お茶をさすのはやめようかなとも思う。でも言わずにはいられない。
「おまえ薪いっぱいの風呂敷背負って登場すると、その……すげえ残念なんだけど!!」
「えへへ、いっぱい取れたよ!」
確かに薪の量はユウトのふた周りはでかいのだけども。
ユウト薪を置いて周りを見回すと、何かに気がついたようにそこへ駆け寄る。
「!? ……ネコのおじいちゃん大丈夫!!」
「にゃあ、にゃんとか無事じゃよ……」
腕から血を流すおじいちゃんに泣きそうになるユウト。
「誰だてめえはよぉ……いきなりきてししゃりでてんじゃねえよ! 我慢の限界! ファイアーボオオォム!!」
ユウトが後ろを向いておじいちゃんを見つめているときに、魔法をぶちかますクズ野郎。
「ユウト危ねえ!!」
「ゲヒャヒャ、チリとなれ!!」
球状の炎は、ユウトの側まで近づくと爆音をぶちまけて爆発した。あれじゃあ普通は生きていられない。
「君が……ネコのおじいちゃんをこんな目に合わせたの?」
そう、普通なら。
「あぁ!? てめえ、直撃で受けてなんで生きてやがる!!」
残念ながらユウトは普通じゃない。
「絶対に……許さない!!」
その瞬間、ユウトの気迫が本物の圧となって押し寄せる。
「きゃ! なにあれ……本当に何者なの!?」
「勇者様さ」
俺がニヤリと笑うと、アインは訳がわからないというような顔をする。
「野郎ども! 所詮はガキ一匹だ……やっちまえ!!」
「「「ゲヒ!」」」
「それ号令なの!?」
ちょび髭集団がユウトを囲む。
そして全員で一斉に襲いかかった。
「よっと、ほっと、こんな感じかな? おりゃ!」
「ゲヒ! そんなへなちょこパンチ痛くなんて…………ブロマテウス!!」
しかしユウトは剣の先を見切って華麗に避けると、今度はへなちょこなパンチを食らわせた。それで何故か吹っ飛ぶ髭。
「なんだこいつ……パワーがデタラメガブリチュウ!?」
「やべえ殺されビッグカツ!!」
「逃げろ、うわああよっちゃんイカ!!?」
あっという間に全滅させた。
正直、化け物である。
「ちっ……油断しやがって」
「大人しく降参してくれないかな?」
両の手をギュッと握ってユウトが提案する。しかし
「あぁ? んな訳ねえだろろうが……じゃあよ、これならどうだ! 最大出力ファイアーボム!! あたり一帯吹き飛ばしてやるぜ!!」
「ちょっそれ俺もやばい! タンマ!!!」
いつもとは違い、詠唱して炎が渦になって大きくなる。それはまるで溶岩のように表面から泡が吹いていた。
「う、みんなを守りきれない……」
ユウトが額に汗をかく。
何か……何か良い手はないか……
「そうだ! アイン、さっきのエセ闇魔法なんていった!?」
「エセって失礼な……ホーリー・レイ・ストリームのこと? でもアレ上級魔法よ? そう簡単に使えな」
「それだ! ホーリー・レイ・ストリームだ! おまえならできる」
「ちょっと無視しないでよ!」
そうだ、あいつならきっとできる。だってあいつは
「うん、やってみる! ホーリー……レイ、ストリーム!!」
勇者だから。
その瞬間、溜めに溜められたファイアーボムが開放された。吹き溢れる蒸気に、ここまで届く熱量。周りは焼け野原になる筈だった、がしかし、そうはならなかった。
それを上回る質量の白い閃光が一直線に放たれる。
世界は白に染まる。
「うあぁぁ!? 嘘だろ……うそだああぁぁあああ!?」
―――――――――――――――――――――――
「ここでいいのかにゃ?」
「ああ、送ってくれてありがとう」
時刻は夕方。
俺たちは始まりの町 《ファースト》の門前にいた。
「うぅ……ネコのおじいちゃんたち……絶対また会おうねぇ!」
「おいこら! 鼻水たらすんじゃねえ!」
俺の背中のユウトが本気で泣きじゃくる。
白い閃光に包まれた後、黒焦げになるブルドッフは自慢の髭がチリチリになって倒れていた。
そしてユウトもまた、力を使い切ったとかなんとかでぶっ倒れていた。
「しっかし情けねえなあ勇者様?」
「えへへ、あんまり魔法は得意じゃないみたいだね」
魔法は使い過ぎると倒れて動けなくなるらしい。まさに今のこいつのように。
「あいつら、もう戦意喪失して何もできないと思うけど……一応気をつけろよ?」
「にゃ、そうするわい。ちゃっちゃと町の衛兵さんに渡すとするかのう」
にゃははと笑うネコのおじいちゃん。傷はどうやら大丈夫そうだ。
「しかし、にゃん度言っても足りぬ。本当にありがとう!」
「いいって、それくらい。お互い様だろ」
「うん! みんなのためだったらなんでもするよ!」
かたじけないと頭を下げるネコのおじいちゃん。
「「「お兄ちゃんたち、本当にありがとう!」」」
「ああ、あんまりみんなに迷惑かけんなよ」
頭を撫でてやると気持ち良さそうにゴロゴロ鳴く子供達。あぁ、もふりたい。
「んじゃ俺たち行くよ」
「びゃいびゃい!!」
「達者で!!」
大きく手を振って門へと歩む俺たち。夕日が俺たちを祝福するかのように、赤く、紅く輝いていた。
さあ、いよいよここからが始まるのだ。俺たちの物語が。
「…………んで、なんでおまえも付いてきてる訳?」
「ふぇ?」
当然のように隣を歩くアホアイン。
「だって、行く当てないし? あんたたちが寂しそうな顔するから」
「全く持って心配ございません」
「(それにそこの勇者様と一緒にいたら楽できそうだし)ボソっ」
「てめえ! それが本音だろう!!」
なんのことかなー、と明後日の方向を向いて口笛を吹くアイン。こいつは人をイラつかせる天才だ。
「だいたいてめえ姫様なんだろうが! さっさと城へ帰れよ!」
「まあまあ、ハジメ……賑やかな方が楽しいんだよ」
「そうそうユウトの言う通り……あ、そういえば私素性隠してるからね! みんなには内緒にしてよ?」
それだけ勝手に告げてピャーっと走って行くアイン。
門番を放っておいていって勝手に入ってしまったため、さっさく追われている。賑やかなぎゃああという叫び声が聞こえる。
……どうやら本当についてくるらしい。
「ったくしょーがねえなあ…………ん? おいユウトこれ」
「あれ? これもしかして……」
ここ、門の壁には先程の手配書が何枚も貼られていた。
「はぁ、何が素性隠してるだよ。 普通にバレてんじゃねえかあのアホイン……」
「あははは……」
ここからが、本当の本当に、物語の始まりだ。
ちなみに、あいつら連れです! とか言ったアインのせいで俺たちまで怒られる羽目になる。
「絶対に追い出してやる!! このアホインがああぁ!!」