死んでヒンヌーの神様に出会いました
「うわ、雨降りそう」
本屋から出て最初に出た言葉はそんなことだった。
空が灰色に覆われて、吹く風が少し湿っている。心なしかよれた黒いTシャツも湿っているような気がする。
「いや、これは生乾きのせいか。こんな時間なのにまだ乾かねえのかよ」
時間にして夕方の5時、本来なら俺が最も避ける時間帯に外出したのには理由があった。
「ふ、空が泣く前に我も帰るとするかの…………さっさと帰ろ」
そう、俺ともあろうものが今日発売の新刊ラノベ『授業中に襲ってきたテロをフルボッコにする妄想してたら隣の子がテロ組織のリーダーだった件について』を買い忘れていたのだ。
「楽しみだ、俺TUEEE期待の新作……っと」
通りに出るところでさっと電柱の影に隠れる。
――あれは、クラスメイトっぽいなぁ。
学校帰りの集団の中に見知った顔が何個かある。
そう、この時間に外出しないのは、やつらに出くわさないためだ。引きこもりの俺としては、できれば奴らには出会いたくない。
「行ったかな?」
念の為にとやつらと逆方向に進む。
しばらく歩いていると、遠くの方から何か奇妙な音が聞こえてくる。
「なんじゃこりゃ……誰か川遊びでもしてんのか? こんな時間に?」
少し気になってバシャバシャと音のなる方に行くと、段々と喧騒が耳についてくる。
「大変だ! 誰か溺れてる!!」
そんな声が聞こえてきたときには俺は走り出していた。
人盛りを掻き分けていくと橋の下で美女が溺れているのが見える。周りが助けを呼ぼうとしているが、美女の体力は限界そうであった。
「だ、だれか……ゴプ…………たすけっ!」
――こんなとき、俺TUEEEの主人公なら!
何かが始まる気がした。物語の主人公になれる気がした。
だから行動は早かった。
「今助けるぜ!」
周りが止めに入る間も無く、俺は橋から飛び降りる。
自慢じゃないが、俺は子供の頃よくこうやって川に飛び込んで遊んでいたのだ。問題は川の深さだが、それも問題ない。
彼女の慌て方を見て、俺は相当深い川だと読んだのだ。
『ガン!』
……思ったより浅かった。
足に激痛が走る。泣きそうになるのをグッと堪えたが、無理だった。目から涙を流しながらそれでも気高く振る舞った。だってそう、俺は主人公なのだかr
「はいカットおぉぉぉぉ!!! ちょっと何してんの君?」
サングラスを掛けた偉そうなおっさんが俺を睨む。
呆然となる俺の差し伸べた手を、先ほどまで溺れていた美女がパシンと払いのけた。
「君、今撮影中なんですけど」
よく見ると、その顔はテレビでよく見る有名な女優のそれだった。
周りを見るとカメラマンらしき人が高級そうな機材を片手にこっちを見ている。橋の側には撮影中という看板があり、エキストラは苦笑していた。
――これは、やばい、死にそう。
恥ずかしさで一杯の中、さらに雨まで降ってくる。
しかし、ちょうどいいように顔の熱を吸収してくた。
「ああ、気持ちいい…………いやまってちょっと激しくない?」
顔にあたる雨粒の威力がでかくなる。
気づけば周りは混乱していて「嵐だ! 逃げろ」と叫んでいた。
「いやいや嵐って急すぎない!?」
「ちょっと君も早く避難しなさい!」
とっくに岸へと避難した女優の声にハッとなると、俺も急いで歩こうとする。
「うぐ…………!?」
しかし、足に力を込めると、ピキっと激痛が走った。
――くそ、ヒビが入ってやがる!
痛みに蹲ると、先ほどまで浅かった川がどんどん増水しているのが分かった。
まずい、とは思うのだが足が言うことを聞かない。
「危ない!」
誰かの叫びに前を向くと、大きな波が俺を飲んだ。
「グパ! おえ……!」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
それだけが頭をしめた。
「ちょ……君…………危な……!」
「……です! …………僕が助け…………」
もうダメかと思ったとき、それはかすかに聞こえた。
水に沈む俺の手を誰かが引っ張った。
「ぶは! …………っておまえ!?」
「しっかり、僕に捕まって」
俺はその顔に覚えがあった。いや、忘れるわけがない。俺の唯一の友達だった、幼馴染のことを。
「なんでおまえここに……」
「ハジメ、今はそれどころじゃ……」
「危ない!!」
その瞬間、さらに大きな波に今度は2人で飲まれる。
沈む身体が言うことを聞かず、意識が遠のいていく。
――いよいよ、やばいな。
自分の肺から出た気泡の先に、あいつの顔が見えた。
どんなに流れが早くとも、あいつは俺の手を離さないようギュッと握っている。
――野郎と手を繋ぐ趣味はないんだけどな……
そうして俺の意識は完全に消えた。
――――――――――――――――――――――――
気がつくとそこは暗い闇だった。
しかし闇を闇と認識するためには、必要なものがある。それは光だ。
俺の目の前に光は座っていた。
白い丸いテーブルに白いオシャレな椅子。
白い髪に白い肌、華奢な身体は白い衣装に包まれていて、何もかも白い中、瞳だけが炎のような赤さを灯していた。
その明らかに人間じゃない人間のような者は、スッと静かに立つとこう言ったのだ。
「あなたたちは死にました」と。
最初は冗談だと思った。
しかし、この異様な光景のせいで、それを冗談とする材料が見当たらない。
しょうがなく、俺は口を開いた。
「あんたは誰なんだ?」
するとそのガラス人形のような少女は、俺だけを見てこう言った。
「うぬ、その前に……………………お主らそういう趣味があるのかの?」
想像の斜め上を行く言葉遣いに肩透かしを食らいながら、俺はその言葉の意図を探る。
少女の目線を辿ると、俺と野郎の熱く結ばれた手と手が……
「断じて違う!」
手を振り払い、少女に間違いを言及するが、少女はその綺麗な顔を下品に歪めてニマニマと笑っていた。
「おーおー分かっておるわい。あれじゃろ? ただの腐れ縁じゃもんな〜?」
「んだとこのヒンヌーロリッ子め! 腐ってんのはてめえの頭だろ!!」
「うな!? 誰がヒンヌーロリッ子じゃ、この罰当たりめ! 我を誰と心得えている、我こそは神さ」
「ユウト……………………すまなかった!」
「無視じゃと!?」
神様(自称)がガーンと口を開けているが、先生僕寝てませんアッパーを食らった俺はそれどころではない。
「ってあれ? ここはどこ?」
「このタイミングで謝るお主もお主だが、そっちのお主もマイペースじゃの……」
神様を呆れさせるなんて流石ユウトだ。俺は、違うがな。
話が逸れた、とコホンと軽く咳払いして少女は改めて名乗る。
「改めて、我の名前はミリオン。お主たちの言うところの神様じゃ」
ミリオンと名乗る少女は、えっへんとそのない胸を強調させて絶壁を露わにした。
「か・み・さ・ま(笑)だってよユウト! 言葉遣いだけ年寄りくさいな、ロリババアの間違いじゃねえのか? この厨二病め!」
「え、ええと……ええ?」
ユウトは訳が分からないというように両の手を握ってオロオロしている。
その前でピキリ、と青筋を立ててミリオンは頬をピクピクさせた。
「なんじゃとこの引きこもりが!!」
「うぎゃ! ……な、なぜそれを…………」
俺の汚点トップレベルに入るシークレットが!
「神様じゃからな」
ドヤ顔を決めるミリオン。どうやらバカにされたのを根に持っているらしい。
「他にも知っておるぞ、鈴木一。高校1年の夏休みをきっかけに不登校になった社会のゴミ。しかも不登校の原因となったいじめの理由が厨二病じゃと、よく人のことが言えたのう」
「うぎゃーそれを言うな!」
「なになに? 毎日右腕に包帯を巻いてくる。授業中『奴ら、また現れやがった』とか叫んで教室を飛び出す。さらに好きなおなごに『俺と契りを交わしてくれ、絶対に守るから』とかほざいてい」
「神様本当すみませんでした! もう勘弁してやってくださいこのとおぉぉり!?」
大変だ、俺の汚点トップファイブぐらいまでが羅列されてしまった。
神様は敵に回さないと当たり前のことを誓う。
「ふむ、んでお主が円城寺勇刀じゃの。イケメンで天然ホワホワの優男。女子にもすごく人気で名前といい性格といいラノベの主人公みたいなやつじゃの……ほれ、見てみいこの葬式の人の並びよう」
ミリオンがパチンと指を鳴らすと、何もない空間にスクリーンが現れる。
そこに映るのはユウトの葬式であり、大量の女子どもが涙で目を腫らしていた。同じ死人としてなんとも憎たらしい。
「ちなみにこっちがお主の方じゃの、ぷくく」
一方俺の方は閑古鳥が鳴いていた。
いや、クラスメイトとか来ないのわかるけど親族ですらほとんどいないんですけど!?
「どうやら、死んだ理由が、カッコつけて撮影中の女優を助けに行ったあげく足を骨折して逃げられなかった、というので恥ずかしくてひっそり行ったみたいじゃの」
「いやまあ確かにそうだけど、それにしてもあんまりじゃないかこれ!?」
こっちのお坊さんが少しショボショボしてるのにも悪意が感じられる。
「え、えーと、それで神様……僕たちは、その、どうなるんでしょうか……?」
ユウトがおずおずと手を挙げると、ミリオンは神様と言われたことが嬉しいのか、ムフンと鼻息をした。
「うむ、ユウトお主いい奴じゃな、よし生き返らせてやろう」
「いやいや神様、流石ですね。俺は常々思ってましたよ、あなた様はとてもお美しい威厳のある方とね」
「お主の方は手のひら返しがすごいの……」
生き返らせてもらえるのならゴマでもなんでも擦りましょう。
「残念じゃったな、ユウトはハジメ、お主を助けようとしたという功績で蘇らせるのじゃ。時間軸を少し戻しての」
「はぁ!? なんだよそれ! 俺だって女優助けようとしただろ!」
「お主の場合は、他にも手段があったのにも関わらずかっこつけて下心丸出しじゃったからの」
確かに新たな物語が始まる予感とか心の中で叫んでいた気がする。
「え、じゃあハジメは生き返らないんですか……?」
「そういうことじゃ」
「そんな……! じゃあ、僕良いです。ハジメの居ない世界なんて……僕だけ生き返っても意味がない!」
本当に主人公みたいなことを言うユウト。女子ならこういうので落ちるんだろうな。
「ハァ……ハァ……ハァ」
「おい、ユウト。すげえ有難いんだけど、そこの神様(自称)喜ばせてるからやめてくれ」
なんだこの神様(自称)、やっぱ腐ってんじゃないのか。
「ふぅ……とは言ってものう、2人生き返らせると我も怒られるのじゃよ」
「神様(自称)なのに怒られるのかよ」
「そりゃそうじゃよ、お主の国じゃあ消しゴムにだって神様が宿るんじゃろ?そういう信仰のせいで 神様もいっぱいいるんじゃ、まあ我の場合使える天使が超怖いのじゃが」
神様(自称)も色々大変らしい。
「どうにかならないんですか? 僕、なんだったらその天使さんに直接説得を……」
「あーまてまて、ひとつ方法があるんじゃが……」
少し言いにくそうにミリオンは口をつぐんだ。
「なんだよ、どっちにしろ俺は生き返りたいんだ。危険でもなんでもいいから方法があるなら教えてくれ」
まだ新刊ラノベを読めていないのだ。このままでは死んでも死に切れない。
「ふむ……ようは功績があればいいのじゃ。我の知り合いの神が管理している世界での、最近魔王軍が活気付いておって手を焼いているらしい」
神様で手を焼くって相当なんじゃないだろうか。
「そこでお主ら2人にその魔王軍を撃退して欲しいのじゃ。そうすれば功績として生き返らせてやれるのう」
「キタキタ異世界転生物語! 王道だぜふー!!」
つまりこの俺が特殊な最強能力を貰って勇者となり、俺TUEEE街道まっしぐらのモテモテハーレム王となるわけだ。
これで今目の前でドン引きしてる神様(自称)に一杯食わすことができるというわけだ。
「その条件乗ったぜ!」
「大丈夫かなぁ……」
俺のあまりの決断の早さに、ユウトが心配そうにこっちを見る。
「ふむ、そうと決まればお主たちに能力を与えてやろう、ミューリア」
「はい、お呼びですかミリオン様」
ミリオンがパチンと指を鳴らすと、何もないところから翼の生えた人(?)が現れる。
ミューリアと呼ばれたその人は豊満な胸にスラっとした手足、モデルのような高身長を惜しげもなく晒していた。
「女神様だ!!」
「いえ、私天使です」
「え……………………」
ミリオンの一部をジーっと見る。断崖というレベルのあれを。
「嘘だ!!」
「な、なんじゃお主何が言いたいのじゃ!! ナニとナニを見比べておるのじゃあぁぁ!!」
ミリオンが喚くのも気にせず、ミューリアさんはアホ神の肩にそっと手を置く。
「ミリオン様、私言いましたよね」
「んえあ?」
「ポテトチップスは1日1袋って……アレはなんなんです?」
ミューリアさんの指差す方向には先ほどの白い机があった。よく見るとその上にはポテチの袋がいち、に、さん、し……
「……これはどういうことなんですか?」
「んえ、それは、あのじゃな……」
「はい」
「テヘペロ☆」
『ガンっ!!』
ミューリアさんの容赦のないゲンコツが、ミリオンの頭上に降り注ぐ。見た目に反してかなり力があるようだ。
「ミリオン様、こちらに書類がありますね?」
「うぅ……それ確かニッホンの人間のプロフィールじゃの」
「はい、これ全部に判子を押してください、明日までに」
「いやいやミューリアよ、これ何枚あると……」
「やってくださいね? 明日までに」
「……………………はい」
ドス黒い笑顔のミューリアさんに半泣きなミリオン。
ミューリアさんにだけは絶対逆らわないでおこうと心に誓った。
「あ、この者たちに神の能力を与えるからあれを用意して欲しいのじゃ」
「分かりました、ではミリオン様はお席へ」
「え、今からやるの?」
「当然です」
イヤじゃイヤじゃああぁぁ!と泣き叫ぶミリオンの襟首を掴んで、ミューリアさんは白い机にその神様(自称)を放り込んだ。
ついでに耳に栓をぶっ刺して。
「では、準備をしますので少しお待ちください」
「「あ、はい」」
何事もなかったように空中のタッチパネルらしいスクリーンを操作するミューリアさん。
「あの、ミューリアさん」
「なんでしょうユウト様」
さっきまでおどおどしてたはずのユウトは、もういつものホワホワした笑顔になっていた。
「神様っていっぱいいるって聞いたんですけど、じゃあミリオン様は何の神様なんですか?」
「……………………」
クールな顔つきでミューリアさんは顎に手を添える。何かを考えているようだ。
しばらく待つと思いついたように顎から手を離す。
「……ミリオン様はヒンヌーの神様ですね」
「のおミューリア! なんか急にすごく貶められた気分がするんじゃがの! これは病気じゃないかの!?」
「気のせいです」
何も聴こえていないはずのミリオンが叫ぶ。少しかわいそうになった。
「ヒンヌーの神様?」
純粋無垢なユウトがキョトンとした顔でヒンヌーについて掘り下げる。
もう、やめてあげてくれ。
「ヒンヌー教はあなたたちニッホンに多くいると聞きかじりました」
「いや確かに日本にはヒンヌーはステータスとかいう言葉もあるけれどさ!?」
ヒンヌーを崇める人は確かに多い。
「ミリオン様は、ヒンヌーへの信仰が大きくなればなるほどお胸が陥没していくのです」
ミリオン、お胸、カンボジアとミューリアさんは繰り返す。
まさかそんな負荷があるなんで。ちくしょう、なんて残酷なんだ。
「さあ、準備が出来ました。ミリオン様を呼んできます」
涙を拭って前を見ると、そこには巨大な、巨大な……
「なんだこれ?」
大小様々な歯車か噛み合って出来た巨大な装置があった。今は全く動いておらず、恐らくレバーを引くと動くのだろう。
「なんかスマホの課金ガチャみてえだな」
と、そこで肩をぐるぐる回すヒンヌー神が現れた。
「ふぅ……ようやく休憩かの、ざっと千人分は終わったのじゃ。流石じゃろ?」
「ええ、その調子で残り1億2499万9000人分頑張ってください」
いよいよ泣き出しそうになるミリオン。
俺はそっと肩に手を置いてやった。
「お前も大変なんだな、カンボジアに負けないよう牛乳いっぱい飲んどけよ」
「お主の労りはなんか別のことじゃないかの?」
ミリオンが物凄くジト目でこっちを見てくるが、とてもじゃないけど真実は伝えられない。かわいそうすぎて。
「さて、まずはユウトじゃ、このレバーを引けばランダムでお主にステータスや能力が割り振られるからの」
「は、はい」
ユウトが意を決してレバーを引くと、突然轟音が鳴り響き歯車が回り始める。蒸気が吹き上げ、バチバチと電気が走り、どんどん光を放つ。
――まあ王道的に俺が勇者とか聖騎士とか賢者を貰うだろうから、ユウトは良いとこハイプリーストかな。
そしてその光は白から徐々に銀、金、そして虹色になる。
「なに!? SSRじゃと!!?」
「やっぱり課金ガチャじゃねえか!」
どうやら確定SSRを出したらしい装置から、ポンっという間抜けな音と共に筒になった紙が出てきた。それはスッとユウトの手に乗ると、自然と開いてさらに光を放つ。
俺はそっとそれを覗くと読み上げた。
「うお、何々? あなたのステータスは最高ランクで能力は『勇者』になりましたうそおぉぉん!?」
状況が理解できてないユウトはホワホワと笑っている。
「こんなだらしない笑顔のやつが勇者なんて認めん!」
「うーむ、勇者なんて見るの何十年ぶりかの……まあハジメ、お主よりは100億倍似合っとるわい」
「んだとこの万年お胸カンボジアが!」
ぶふ! とミューリアさんがクールな顔のまま手で口を隠して吹いた。
――まあいい、ならば俺は賢者かパラディン辺りを……
「ほれ次はお主の番じゃ、この箱から引け」
「なんで俺の時だけ手作り感満載のクジボックスなんだよ!」
ミリオンがニマニマとヨレた段ボール箱を突き出してきた。
「うぬ、しーくれっとすーぱーRheaが出たからエネルギーが底をついてしまっての」
「なんでレアだけ流暢なんだよ」
レアの部分だけキメ顔をするミリオン。
「まあ中身は変わらぬ、さっさと引けい」
「ったくもう…………よっと。これだああぁぁぁぁあ!!」
勢いよく引き、ポーズをキメながら魂の雄叫びを鳴らす。
心なしかヨレタ紙が光り輝いているような気がする。大丈夫だ、俺だってきっと……
「ハズレじゃの」
「ハズレってなんだよ!!?」
なんの説明もなく、大きな文字でただハズレと書かれた紙を地面に叩きつける。
「ハズレってなんなの!? なんの能力もなしってこと!? それただの村人じゃねえか、村人がどうやって魔王撃退すんだよ!!」
「うぬ…………分からぬ」
地団駄を踏む俺をユウトがなだめる。
もうダメだ、生き返るどころかまた死ぬじゃん。
「ハズレなんて今まで見たことないの……」
「えっと、もしかして逆にすごいんじゃないの? ほらおみくじの凶って引くと逆に縁起が良いって言うじゃないか」
ユウトが俺にフォローを入れるが、正直凶って言われても虚しさが増えるだけだった。
「うーむ……逆によいとはならぬだろうが何かしらの能力はあると思うんじゃ。前例がないから分からぬが」
「ほら! 大丈夫だよハジメ、福引だってポケットティッシュくれるでしょ?」
「じゃあなにか、手からティッシュが出る力とかなんかかよ……」
便利っちゃ便利だが、どうやって魔王軍を撃破するのか。
ティッシュあげるから帰ってくれないかな。
「安心せい、このガチャ引き直しシステムがあるのじゃよ」
「なんだよそれを先に早く言えよ!」
なんだ……それならあんし
「ほれ、課金代1億円を寄越すのじゃ」
「……………………おい」
「たったの1億じゃよ、さっさとせい」
「そんな大金持ってるわけねえだろ!!」
ミリオンが信じられないという顔をするがこっちのセリフだ。
「この前来たなんじゃったっけ? ほれ、リンゴをかじったマークの創設者……」
「スティーバ・ジョバズですね」
「そうそれじゃ! スティーバは何十回も回しておったのじゃがの」
「ガチの金持ちと比べんじゃねえよ!!」
ばあちゃん、地獄の沙汰も金次第ってマジだったよ。
「……………………じゃあ、お主たちを異世界に送ろうかの」
「おいちょっと待てこのまま放り出す気!? え、いやスクリーンピッピしないでよちょっと考え直し……」
「じゃあの」
ピッと言う音と共に俺とユウトの身体が光に包まれる。
俺は忘れない、ミリオンのあの最大級の笑顔を。
「あ、たまに様子見に遊びに行くからのー」
「ぜってえくんじゃねえドチクショオォォォォオオアア!!?」
そして俺の視界は一瞬闇に包まれた。