表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/124

茜色の世界6


ユキは用事をヒカルに任せて、レオを手伝いに発明部屋を訪ねた。


「どう、できる?」


設計図を描いているレオをのぞきこんだ。


「ふふん。これぐらいならできるよ」


自信ありげな彼に、安心した。


「良かった。兄さんありがと。頼りにしてるよ」


癖のない短い黒髪が頬にかかるのをユキは耳にかけた。


「…………ユキ、ヒカルが好きなのか?」


目を設計図に向けたままレオはさりげなく聞いた。ドキリとしたユキが、しばらくしてぽつりと告げた。


「…多分」


多分?

ちらっと彼女を見る。


「ヒカルは人間だ。分かってんのか?」

「分かってるよ。でも私は…未来のことまで考えるほど器用じゃないから…今を大事にしたいから、その…」


未来に怯えて、今を見失ったらいけない。絶対に後悔する。見失わなければ…未来も後悔しないはず。


レオはユキの手に触れようとして止めた。


「ユキ…俺は長く生きるから、お前が一人の時はそばにいるから。寂しい思いはさせない」


辛うじて言った。


「…兄さん」


涙ぐんで見つめるユキに、ちらっと視線を送った。


「ありがとう。私、兄さんのこと本当にお兄さんのように思ってるよ。嬉しいな」


にこっと笑うユキに、違うと言えない。


「ユキ、う……」


がっくりと肩を落とすレオを見て、


「兄さんもいい歳だし、彼女できたらいいね」


と笑った。


「あ、でも、まずちゃんと毎日お風呂に入らないと、もてないよ。それに、たまに運動して少し痩せてね。寝癖も直して。抜けてる性格も気を付けてね。それから…」

「そんなふうに思ってたのか、ユキ…」


益々レオは落ち込んだ。


*************


夜に雨が降る。

こんな日は、尚更心が重くなる。

レオに、貴方がいると緊張するからと言われて、ルシウスは庭に面した渡り廊下の途中の階段に座り、酒を飲んでいた。

別れて半年が過ぎた。必要な道具の開発が遅れている。


気ばかりが焦る。じっとしていられないのに、何もできない現状が歯痒い。

もうとっくに子が産まれているはずだ。

きっと心細かったはずなのに、手を握ってやることも出来なかった。


「ミヤコ」


ふと思い出す。

こんな雨の夜は、よく二人で身体を寄せあって窓の外を眺めていた。

ミヤコは雨が好きだ。よく飽きもせず見ていた。

乱れた髪のまま、自分の胸に頭を預けて窓の方に顔を向けていた。


背中を撫で、髪を漉いて手を握ると、安らいだ顔で微笑んだ。

雨の音。あなたの鼓動。包まれているようで落ち着く、と言っていた。


ルシウスは雨は好きじゃない。だが、ミヤコとそうしている時は別。

雨を眺める彼女を見つめるのが好きだ。

彼女の温かさ。香り。肌の柔らかさ。息づかい。

愛しい者が、腕の中にあるという安心感。

熱の余韻。


時折名を呼び、口づけて、愛してると告げて、また雨を眺める。そして、いつしか眠りに落ちる。

そんな雨の日。幸福な時間。


あの日が戻ってくるなら、彼女のいない世界を耐える。


長くても…いつか触れることができるなら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ