茜色の世界6
ユキは用事をヒカルに任せて、レオを手伝いに発明部屋を訪ねた。
「どう、できる?」
設計図を描いているレオをのぞきこんだ。
「ふふん。これぐらいならできるよ」
自信ありげな彼に、安心した。
「良かった。兄さんありがと。頼りにしてるよ」
癖のない短い黒髪が頬にかかるのをユキは耳にかけた。
「…………ユキ、ヒカルが好きなのか?」
目を設計図に向けたままレオはさりげなく聞いた。ドキリとしたユキが、しばらくしてぽつりと告げた。
「…多分」
多分?
ちらっと彼女を見る。
「ヒカルは人間だ。分かってんのか?」
「分かってるよ。でも私は…未来のことまで考えるほど器用じゃないから…今を大事にしたいから、その…」
未来に怯えて、今を見失ったらいけない。絶対に後悔する。見失わなければ…未来も後悔しないはず。
レオはユキの手に触れようとして止めた。
「ユキ…俺は長く生きるから、お前が一人の時はそばにいるから。寂しい思いはさせない」
辛うじて言った。
「…兄さん」
涙ぐんで見つめるユキに、ちらっと視線を送った。
「ありがとう。私、兄さんのこと本当にお兄さんのように思ってるよ。嬉しいな」
にこっと笑うユキに、違うと言えない。
「ユキ、う……」
がっくりと肩を落とすレオを見て、
「兄さんもいい歳だし、彼女できたらいいね」
と笑った。
「あ、でも、まずちゃんと毎日お風呂に入らないと、もてないよ。それに、たまに運動して少し痩せてね。寝癖も直して。抜けてる性格も気を付けてね。それから…」
「そんなふうに思ってたのか、ユキ…」
益々レオは落ち込んだ。
*************
夜に雨が降る。
こんな日は、尚更心が重くなる。
レオに、貴方がいると緊張するからと言われて、ルシウスは庭に面した渡り廊下の途中の階段に座り、酒を飲んでいた。
別れて半年が過ぎた。必要な道具の開発が遅れている。
気ばかりが焦る。じっとしていられないのに、何もできない現状が歯痒い。
もうとっくに子が産まれているはずだ。
きっと心細かったはずなのに、手を握ってやることも出来なかった。
「ミヤコ」
ふと思い出す。
こんな雨の夜は、よく二人で身体を寄せあって窓の外を眺めていた。
ミヤコは雨が好きだ。よく飽きもせず見ていた。
乱れた髪のまま、自分の胸に頭を預けて窓の方に顔を向けていた。
背中を撫で、髪を漉いて手を握ると、安らいだ顔で微笑んだ。
雨の音。あなたの鼓動。包まれているようで落ち着く、と言っていた。
ルシウスは雨は好きじゃない。だが、ミヤコとそうしている時は別。
雨を眺める彼女を見つめるのが好きだ。
彼女の温かさ。香り。肌の柔らかさ。息づかい。
愛しい者が、腕の中にあるという安心感。
熱の余韻。
時折名を呼び、口づけて、愛してると告げて、また雨を眺める。そして、いつしか眠りに落ちる。
そんな雨の日。幸福な時間。
あの日が戻ってくるなら、彼女のいない世界を耐える。
長くても…いつか触れることができるなら。




