茜色の世界2
リュカは予知を視た。
目が覚めると寝台に身を起こし、すっと服を引っかけて身支度をした。
これは…
いや、黙っておこう。今は自分の胸に留めておこう。
長いこと生きてきた。いろんなことがあった。
これからの世界が更に面白くなりそうで、リュカは生きるのをやめられない。
扉をノックする音がした。
「リュカ様、起きていますか?」
ヒカルが小さな声で呼んだ。
そろそろ呼ばれる頃だと思った。
「ええ」
予定は立て込んでいる。だが、まあ少しなら付き合ってやってもいい。
しばらくしてリュカはヒカルの迎えで、レオの発明部屋を訪れた。
「貴様の知識を借りたい。召喚魔法について詳しく教えろ」
ルシウスの命令口調に、リュカは呆れた。
「それが人に頼む態度ですか?」
全く、前もローレン様に言われたばかりなのに。
「気が変わりました。ヒカル、あなたも歴史の授業が始まりますよ。行きましょう」
「いや、あの、僕、ユキとの未来がかかっていますので行けません!」
抵抗するヒカルに、リュカが首を傾げていると、目の前に籠が差し出された。
「これをやる」
ルシウスが、ムスッと遠くへ目を向けながら言った。
「何です?」
籠の中身をリュカが見た。ぎゅうぎゅうに詰まったサンドイッチとオムレツやサラダに果物があった。
「朝飯がまだだろう?」
「…………」
「俺は自分のできることをする。だから、手伝え」
籠に目一杯入れられた、美味しそうな朝食にリュカは衝撃を受けた。
まさか、この魔法使いの手作りご飯を食べるはめになるとは!
「…あ、あなたは…」
リュカに籠を押し付けて、ルシウスは側の椅子に座った。額に手を当てため息をついた。
「今の俺には、これぐらいしかできない。出来ることがあるなら、俺は何でもやる。」
全ては、俺自身のため。ミヤコがいない世界に何の意味がある?
「道…そうですねえ…」
リュカは、しばらく黙り込んだ。じいっとレオとヒカルとユキとルーが見ている。
「まず、召喚魔法は自分が知っている人物しか呼べません。道とはその人のみに開かれるもの。ミヤコの行き帰りの道が無くなったなら…違う道がいります」
「違う道を開けばいいのか?」
ルシウスが、身を乗り出して聞いた。
「手紙も送れなくなったし、ミヤコさんだけが知る向こうの世界の人宛てには、道は開けないよ。」
レオが首を振る。
手紙などごく小さな物は、一年ごとに送れたのだ。それは、ミヤコが家族に宛てたもので、彼女だけが彼らを知っていたからできた道だった。
「直接会ったことがなくても良いのです。相手の顔が判れば道は開けるはずです」
リュカがくすり、と微笑んだ。
「私が、最初にミヤコを召喚した時のことを思い出してごらんなさい」
「そうか…」
ルシウスは呟いた。
リュカは予知でミヤコを知っていただけで、召喚できたのだ。
「え、じゃあ、リュカ様が予知を視た人物が向こうにいたら、道は開ける?」
一人人間で、所在なく聞いていたヒカルが合点がいって聞いた。
「………………」
ルーのすがるような目を見て、リュカはやれやれと思った。
黙っていようと思ったのに。
「…実は今日視ました」
白状した。
「ただ、道を開くにはあと3ヶ月ほど待って下さい」
「どういうことだ?」
苛立つルーに、リュカはほくそ笑んだ。
「私が視た予知は、ミヤコの二人目の子の誕生だからです」
「…!」
ユキが口元を隠して聞いた。
「じゃ、じゃあ…、無事なのね?!」
「ええ。ミヤコは向こうで治療を受けたようですよ」
「良かった!」
ユキは涙ぐんで口許に手をやった。
「…そうか。無事か」
ルシウスがほっとして目を閉じ、息を吐いた。
まだ実感は湧かないが、少なくともミヤコが子を喪って泣いていることはない。そのことに安堵した。
「つまりその子のための道を開けばいいのか。誕生するまで待つしかないか」
レオが脱力して言った。
急ぐことないな、と思った。
「いえ、あなたたちにはそれまでにすることがあります。いいですか…」
リュカが、壁に立て掛けている黒板に図を描いた。
真摯に耳を傾ける彼らと、真面目に教えるリュカ。妙な構図だ。




