茜色の世界
この家は、もう自分の家ではない。
最初の頃、都にとって満たち家族との暮らしは居心地が良いものではなかった。
母は勿論、小学生の子どもたちとは、身構えず打ち解けることができた。
しかし祥子と一番上の子どもの壮は、都を腫れ物に触るように扱った。
当然だ。信じられる訳がない。
都が歳を取らない魔法使いで、違う世界から戻って来たなんて。これが普通の反応だ。
満は朝早くから夜遅くまで働いて忙しそうだった。
平日の日中は、祥子も働いているため、母と二人きりだった。
都はそんな時、必ず橋まで行った。空が茜色になるまで自分が現れた場所を見つめていた。
日増しに大きくなるお腹を抱えて土手に座り、僅かな期待と失望を噛み締め待った。
ある日、祥子が夕飯を作る時に、包丁で指を切った。
「痛っ!」
隣で一緒にいた都は、咄嗟に血の滴る彼女の指に手をかざした。
みるみる傷が塞がるのを目の当たりにして、祥子が目を見張った。
「…み、都さん、これは…手品でもできっこないわよね?」
祥子は怪我がきっかけで、都を信じるようになった。それから急に親しくなった。
壮は、自分と見た目があまり変わらない都に戸惑っているようだった。
妊婦なので、余計どう接していいかわからないようだった。
ただ、都の力には関心を向けた。下の妹たちが、都に魔法を見せてもらっていると必ず顔を出して、じっと興味深そうに眺めていた。
「私を疑ってる?」
突然現れた叔母に、戸惑いが強いだろう。
都は、壮に聞いてみた。
「ばあちゃんやお父さんが言うんだから、君は都さんなんだろう?魔法だって見たし…でも、なんかそういう世界があるっていうのが、信じられなくて…」
「うん、そうだね。私も妊婦じゃなきゃ、夢かと思うぐらいだもの。」
壮が、隣に座る都を見た。
「…都さん?」
縁側で、空を見上げて都はポロポロと涙を流した。
夢なわけない…
お腹をさすり、目をつぶった。
「都さん、帰りたいの?」
壮が聞く。
黙って頷いた。
それから、泣き笑いの顔をして都は言った。
「向こうの世界に夫と娘を置いてきちゃったの…逢いたいの…」
壮が遠慮がちに、都の背をさすった。
「夢なんかじゃないよ。私…逢いたいの。淋しいよ…」
いつもあまり喋らない無口な壮が、背をさすって慰めてくれている。
とても有り難かった。
都の産み月が近づいた。




