二人の世界3
手のひらに乗るぐらい小さな映像。
ボタンを押すと、その皿のような映写機の上にふわりと映し出される。
緋色のドレスを着て、髪を肩に流したミヤコが歌う。
一曲。
戦争の時に見た編集した映像とは違い、歌い終わると一礼してから口元に手を当て、照れ笑いをしている。
リプレイ。
更にリプレイ。
何度も繰り返し見た。
辛くなると、映写機を消した。
その繰り返し。
別れて何日たった?
開け放した窓から入る風は、夏の終わりを告げていた。季節が移り変わろうとしていた。
苦しい
以前別れた時よりも苦しいようだった。
あの頃は人だったから。少し耐えたら死ねると思ったから。
でも、今は違う。
自分はあと何百年耐えたらいい?
もう一人で生きるなど、とても無理だ。
自分の身体と心が、半分もがれたような喪失感。
もう何も考える気力が湧かない。身体を動かすことも、食べることも眠ることも、息をすることも、明日を迎えることすら苦痛でしかない。
それでもこの家に、彼女との想い出が溢れるほどに染み付いていて、ここにいる。
彼女の残した息吹を感じたいのだ。
娘のユキは、確かに彼女を感じさせるが、もう大人で自分達の手を離れて久しい。
娘は、自分の拠り所にはならない。彼女の存在した証として、ほんの少しだけ自分を救うのみだ。
ミヤコ…どうしてる?
もし、向こうの世界で子を喪っていたら…
帰れないのを知ったら…
「…くそっ」
もっと辛いのは彼女の方かもしれない。こうなることがわかっていたなら…
あんなにも悲しむミヤコを見るぐらいだったら…
俺は、彼女がいればそれで良かったのに。
「でも、お前は凄く嬉しそうだったな…」
子どもを授かって。
カチリ、と音がして映像が終った。
しばらくそのままにして、もう一度再生ボタンを押そうと指を向けた。
ところが押す前に、一度切れて終ったとばかり思っていた映像が再びついた。続きがあったのだ。
「はい、テスト映像です」
レオの声がした。
「ミヤコさん、ここ立って、そう、そこね」
別の日に撮ったのか、違う服装でミヤコが映った。はにかんで手を後ろにして立っている。
「試し撮りって、ここに立ってたらいいの?」
「うーん、せっかくなので何か一言…あ、アニキへのメッセージとか…」
「え?」
「普段言えないこととか」
「えー、どうしようかなあ」
少しだけ迷って、ミヤコが顔を上げた。
「……ルー、その、あなたはカッコいいから仕方ないけど…王宮の侍女たちの間の人気では、クールなイケメン1位に輝いているのが、本当は凄く嫌です!」
「………………はあ?」
映像を観ていたルシウスは、気が抜けた。
顔を赤くして、映像のミヤコが続ける。
「心の狭い女と思われたくないので、ぐっと我慢していたけど…本当は、私だって焼きもちぐらい妬きます!」
ミヤコ!
「なんか用事で侍女と話しているの見かけただけで、超ムカつくのでやめて下さい!こんな嫉妬深くて、私…恥ずかしい…」
後ろを向いて、パッとうずくまった。
「ダメだ、やっぱ無し!レオ君、消してよ!恥ずかしいよー!」
ミヤコの叫ぶ声で、映像が消えた。
「…何だったんだ?」
呆気にとられて、映写機を見た。
そうか、そうだったのか…
彼女が、焼きもちを妬くなんて知らなかったな。
思わず笑った。
つきり、と胸は痛んだけど。
これで終わりか?
そう思ったと同時に、また違う映像が流れた。
「ちゃんとさっきの消してよね」
「消す消す。じゃあ、代わりにまた撮るよ」
先程の続きのようだ。
レオの奴、うっかりして試し撮りの映像を消すのを忘れていたようだ。
「今度は何にしよっか?」
「じゃあ、セクシーポーズで」
は?!
ミヤコが顔を赤くして、顔を両手で隠す。
「もう、レオ君!調子乗りすぎ!」
「大丈夫だって、これ誰も観ないから、ね、遊びだって。」
「えー、そう?ふふー」
まさか…と言うか、いつの間に何撮ってんだ!
ミヤコが、少し曲げた膝に片手をつけて、かがみこんで、もう片方の手の指を自分の唇に持っていき…ちゅっ、と投げKISSをした。
「ひゅー!良いね!セクシー!」
背中を向けて、両手を重ねて上に伸ばして、ちらりと振り返る。
レオが、囃し立てる。
なんだ、これは!!
「はい、ミヤコさん、脱いで!」
は、はあ!?マジか?!嘘だろ!!
「えー、もう仕方ないなあ…」
ミヤコが悪戯っぽく笑った。




