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二人の世界


なんだかふわふわとした気持ちだった。

ここでの私は、娘で姉で叔母さんで、人間として過ごせる。

魔法使いであることを忘れてしまいそうだった。


お腹をそっと撫でる。

もうこの世界には、自分の居場所なんて無いと思っていた。

でも、あった。守ってくれる人がいた。

満が医者だと知り、これほど運命の計らいを感じたことはない。

自分は幸運だ。二つの世界で、私を覚えて、想ってくれている人がいる。

去り際のルシウスの言葉を思い出す。


「いつも想ってるよ。ルー」


私が必ず帰る場所。


一ヶ月が過ぎた。


「安定期だ。もう大丈夫だと思うけど、無理はしないように。翔んだりは禁止だから」


弟の医者らしい言葉に、都は笑った。


「ありがとう、満。元気でね」


軽く彼の肩を叩いた。


少し出てきたお腹で、都は橋までやって来た。母が見送ってくれる。


「困った時は、いつでも帰っておいで」


いつでもは無理だけど、母の気遣いがありがたかった。


「うん。ありがとう。会えてよかった、お母さん」


母から距離を置いて、指を軽く小刀で傷つける。

来た時と同じように紋様を描く。

召喚魔法。


「……あれ?」


光が降りない。発動はした。したのに、帰れない。

しばらく、待ってみた。

何も起きない。


「嘘…」


愕然とした。

帰れない。帰れない?


「なんで…」

「都」


異変を感じた母が、近づいて言った。


「とりあえず、家に帰ろう、ね?」


思考が停止していたのだろう。

何も言えず、母に連れられて歩いた。


懐かしい住み慣れた家は、増築がなされていた。


「都さん!」


満の家族が出迎えてくれた。

母が満の奥さん、祥子に事情を説明する。


「妊婦さんなんだし、無理しないで。ゆっくりしたらいいよ」


全てを信じたわけではないようだが、祥子は都にそう声を掛けた。


「…お世話になります」


硬い表情で都は、やっとそれだけ言った。

母が部屋に案内した。


「あなたの部屋、そのままなのよ」

「懐かしい…」


机もベッドもカーテンも、タンスの中の服さえそのまま。

部屋に立ち尽くす彼女に、母がそっと言った。


「ここにずっといてくれていいのよ。母さんは嬉しいから。ここは元々あなたの家でもあるのだから」

「お母さん」


自由に使って、そう言って母が部屋の戸を閉めた。


「…」


それを見届けるや、顔を覆った。


「ルー…」


ベッドに身を横たえて考える。


どうしたらいいの?

なぜ帰れないの?

母の温かい言葉とは裏腹に、胸に心細さが広がる。


「逢いたい、逢いたいわ、ルー」


もう召喚魔法が20年使えない。なぜ失敗したのかわからない。

帰る術がない。

もう一ヶ月以上。

今すぐ逢いたいのに。

去り際に見せたルシウスの瞳は、とても切なく寂しげだった。

彼が私を呼ばない訳がない。向こうでも呼べないのだろうか。

世界に取り残されたように、都は急に孤独を感じた。

この世界が、どんなに優しくても、ここはもう帰る場所じゃないんだ。


既に自分の帰る場所は、ルシウスの側しかない。

共に過ごした年月は、互いが互いの身体と心の一部と化してしまった。

生きるために必要なのに。


「必ず帰るから…ルー」


自分には、ルーとの間の子が一緒だ。だからまだ救われる。


だけど…あの人は…きっと孤独だ。

ルー、愛してるよ。

声さえ届かない。

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