再び3
静かな夜。
暗がりの中、ヒカルは足を止めた。
彼の自室の前のランプの灯りの元、ユキが佇んでいた。
「ユキ…大丈夫かい?」
近付いて声を掛けてみると、彼女はそっと顔を上げた。
「ヒカル。少し話がしたいのだけど…いい?」
沈んだ顔で、彼女は言った。
部屋に招くのは、さすがにまずいと思い、ヒカルはユキと食堂に行った。
遅い時間なので、鍵は開いていたが誰もいない。
調理場から、ヒカルはお茶と菓子を取ってきて、向かい合って座った。
「……………」
互いに無言でお茶を飲み、菓子をつまんだ。ユキは、どう話すか言いあぐねているようだった。
「…この間は、ごめんね」
だいぶ経ってから、ぽつりとユキが言った。
「僕も…その、君の気持ちもしっかり聞かず先走り過ぎたよ。ごめん」
そう言うと、ユキは小さく首を振った。
気まずくてヒカルは話題を変えた。
「それで…今ルシウス様はどうしてる?王宮では、もう一ヶ月ほど姿を見てないけれど。」
ユキが泣きそうになって顔を下に向けた。
しまった、地雷のようだ。
「…島に閉じこもって出てこない」
母が向こうの世界に姿を消した直後は、酷い有り様だった。
狂ったように笑うヘリアスにルシウスは容赦しなかった。
半分拘束されたままの無抵抗な彼を炙り殴った。
ユキたちが止めなければ、殺してしまっていたかもしれない。
無言で怒り狂うルシウスは恐ろしかった。
でも、それ以上に悲しかった。
ヘリアスは言っていた。
「もう世界を繋ぐ道は現れないだろう。俺の消えるの力は、俺の手を離れ、道と共に消えたのだから」
例えヘリアスが死んでも生きていても、彼女は帰ることができないのだ。
辛いけど、私は生きていける。
でも、父は?
ミヤコが消えてから、ルーは虚ろだ。
ユキは心配で、何度も島を訪れた。
彼は決まって寝室の窓辺に腰掛けて、ぼんやりと外を見ていた。
ろくに食事を取らず、眠らず、話さず、ただただ座っている。
「父さん、ご飯食べてね…」
ユキが、王宮で用意した食事を包んで持って行っても見ようともしなかった。
窓の外に視線を向けたまま動かない。
「父さん」
「……………ユキ」
娘に目を向けず、ルシウスが静かに口を開いた。
「もう帰れ。こんな不様な姿、お前には見られたくない…」
そう言って、目を閉じて眠ったように動かなかった。
もう心が、ここには無かった。
そんな父を見れなかった。
「道を、もう一度開くことはできないのかい?」
「もう試したわ」
二週間前、父に言われて、ユキは初めて召喚魔法を使った。
発動はできる。だが道は開かない。呼び戻せない。
おそらく、ミヤコ側からも無理だろう。
母はどうなったのだろう?
赤ちゃんは無事だろうか?
もしかしたら、一人で泣き続けているかもしれない。
父の名を呼んでいるかもしれない。
何もできない…
「………………」
ユキの暗い顔を見ていると、ヒカルはやりきれない気持ちになった。
自分になにかできないだろうか?
「ユキ、辛い時はいつでも話ぐらい聞くよ」
「うん。ありがとう」
「それから…うん、良いこと考えた」
ヒカルが独り言のように呟いた。
「え?」




