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再び2


耳元で犬の鳴き声がした。


「う……ん…」


うるさいほどに鳴いていて目を開けた。


夕暮れの空が広くて、綺麗だった。

すぐ横で、赤い首輪を付けた柴犬が吠えながら、うろうろとしている。


「…心配して、くれてるの?」


犬に手をやり撫でた。


肌寒い。

そうか、ここはまだ初春の季節。


「あ、あんた、大丈夫か!?」


声と共に足音が聴こえた。

犬の飼い主らしき老人が気づいて慌てて近付いてきた。

ミヤコは目を向けて、気力を振り絞り訴えた。


「助けて下さい。お腹に子どもがいるんです。様子が変なんです」

「え、ま、待ってな」


バサッと上着が彼女にかけられた。


「きゅ、救急車!おーい、誰か!」


幾人かの駆けてくる足音がした。

ざわざわと声がして、ミヤコはほっとして目を閉じた。


戻って来た。

距離も年月も、遥かに遠く感じていた元いた世界に。


「名前は?」


病院で医者に聞かれた。


「ミ…藤川、都です」


目をつむったまま、都は答えた。


「藤川?」


聞き直すような医者の声に、少しどきりとして目を開けた。だが、特に医者は気に止めてはいないようだった。


「どんな様子?」


戸を引いて、もう一人医者が入ってきた。

忙しそうにせかせか歩いて近付くと、都をちらりと見た。


それから、若い医者の方を見ようとして、もう一度都を二度見した。


「あ!」

「あっ…」


お互いに口をぱくぱくさせて、言葉がでない。


「あっ、と…君、患者は僕が診るから、ここはいいよ」


そう言って、若い医者を部屋から追いたてるようにして、その医者は彼女を振り返った。


「……………」


無言で都を信じられないように見つめていたが、やがてゆっくり笑って医者が言った。


「何?里帰り出産かな?姉さん」

「満…」


40代ぐらいの男。でも面影があって都にはすぐわかった。


私の弟。


ゆるゆると緊張が溶けて、また涙が溢れた。

満が、若いままの姉の手をそっと握った。


「大丈夫。お腹の子、僕が助けるから。任せて」

「満…」


笑顔の変わらない弟がいた。


都は検査を受け、手当てを施され、病室で静かに横になっていた。

点滴の薬液がぽとぽとと落ちるのを、ぼんやり見て年月に思いを馳せた。


ここは、満の診療所だった。

彼は医者になっていた。


外科が専門だけどね、と言いつつ、素性を怪しまれかねない姉が他の病院には行けないと判断し、治療をしてくれた。


「出血もあったし、もう少し遅かったら無理だったかもしれない」


満は、ふう、と息をついた。


「でも大丈夫。強い子だよ。日を待って、ちゃんと生まれてくるだろう」


そう言ってくれた。


良かった。

諦めないで良かった。


満にこんな風に再会したことが、不思議だった。

今はこの幸運が、とても有り難かった。



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