執念4
考えないようにしていた。
他人の病気などは敏感に察知するのに、どうして自分のことには鈍感なのだろう。
少しお腹が痛いだけだと感じていたのに。大丈夫だと思っていたかったのに。
王宮に戻されて、ミヤコは寝台に寝かされた。
医師の診察を受けている間に、衝立から出した手だけをルシウスが握っていた。
「ルー、早く言わなくてごめん」
「………もういい」
診察後に傍に寄り添う彼の顔に、ミヤコは目を見張った。不安げな表情。
自分も同じような顔をしているのだろうか。
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「おい…」
手を拘束され、魔法も封じられたヘリアスが連れて行くレオに声を掛けた。
「少しだけ、ミヤコの様子を見たい」
「え?」
レオが探るように見返した。
「何もしない。この状態では何もできない」
「……………」
「本当だ」
じっと彼の顔を見る。真摯な表情にウソはないように思えた。
「………遠くからなら」
そう言ってレオは、ヘリアスを部屋の前まで連れて行った。
廊下まで、悲鳴のような叫び声が聞こえた。
「いやあっ…ああっ」
医者の説明を聞いたミヤコが、ひどく取り乱している。
「ごめん!ごめんね、母さん!私が診た時には、赤ちゃんの心臓もうほとんど動いてなくて…」
ユキが泣きながら話し掛けている。
「ミヤコ、よく聞きなさい。流産しかけてるんです。魔法使いの胎児は、人間の胎児よりも驚くほど弱い。お腹を打ったのが、直接的な原因としても、自然に流れることは少なくない。ユキが無事に生まれただけでもよかったのですよ」
リュカがなだめるように諭すが、彼女はもう何も聞いていない。
「いやあっ」
お腹が痛いだけ。
それだけなのに!
ちょっと打ちつけた、それだけ…
「ミヤコ…ミヤコ」
嗚咽をもらして泣くミヤコをぐっと抱き締めルシウスはうつむいた。
「…ルー!ルー!」
自分にしがみついて身体を震わす彼女に言う。
「元々魔法使いは子ができにくい。一人できただけでも凄いことだった。だから二人も子を宿したのは奇跡だった…それだけでも十分…」
ルシウスの胸に顔を埋めたミヤコが首をゆるゆると振る。
ルシウスは、それ以上言葉に出来ない。
何を言っても彼女を傷付けるだけだ。
「………何か方法はないのか?」
リュカに問うルシウスの声に、ミヤコは泣き腫らした目をして顔を上げた。
「…リュカ、お願い…お腹に雷撃を放って…心臓にショックを与えてみて…もしかしたら、鼓動が戻るかも…」
「そんなこと…できません」
驚いくリュカにミヤコはすがる。
「お願い!やれるだけのことをしたいの」
お願い、とミヤコがあまりに必死なので、リュカはそっと彼女の腹に手をかざした。
「一度だけです」
ほんの少し。
ビリッと衝撃が走り、ミヤコは歯を食い縛った。
「ぐっ、うっ」
「ミヤコ!リュカ、やめろ!」
あまりに痛々しい姿に、ルシウスは耐えられない。
「か、母さん!」
ユキが心拍を確認するが、変わらない。
弱いままだ。
「リュカ、もう一度…」
懇願するミヤコを抱えてルシウスが叫んだ。
「もういい!もういいんだ!」
わかっているはずだ。
子だけの問題じゃない。
母体が妊娠を終えようとしている。
「お願い!もう一度…」
「ミヤコ!…俺は…お前が一番大事だ!だから苦しむお前を見るのが耐えられない!もう、やめろ…」
「うっ…」
声を絞り出すようにして、ミヤコはルシウスにしがみついたまま泣いている。
「赤ちゃん、そっとしといてあげようよ。まだ僅かに心臓が動いてるから、頑張って生きてるから、静かに最期を…」
ユキが言葉を詰まらせながら、それだけ言った。




