執念3
ミヤコが目をこらすと、自分達を取り囲む形で、四方に小さなビー玉のような物が浮いている。
サイレンを合図にしたように、その球体から封じていた魔法が発動した。
「何だ、これは?!」
驚くヘリアスの手足が、ビタッと拘束された。
「ミヤコ!」
自分を呼ぶ声に、はっとして声のした方を向く。
「来い!ミヤコ!」
ミヤコは笑顔を浮かべて翔んだ。
今度は翔べた。
ルシウスが妻をしっかり抱き止めた。
「捜した」
ほっとした表情で、ミヤコに顔を寄せた。
拘束されたヘリアスが、消えるの力を使おうとした。
だが四方を囲む球体が、それを吸収してしまい力が無効化される。
「無駄だよ。これは俺やユキや、あに…ルシウス様、それに王宮の人間たちで共同で製作した叡智の結晶だ。これに捕まったら、抵抗もできないぞ」
ふふん、とレオが得意気に鼻を鳴らした。
これは罠だ。
大体の居場所が特定できていたために、そこから翔ぶことを予想して至るところに設置した内の一つだ。
小さな球体は魔法を放出、吸収する。
ヘリアスの牢の応用だ。
それにユキの感知の力とルシウス達の拘束の力を込めていた。
球体の側を通ると、感知して魔法使いたちに報せる。
そして、囲んだ中からのヘリアスの魔法のみを吸収するという優れものだ。
「俺たちをなめんな!」
レオが偉そうに言った。
やばっ、俺って天才。
彼は内心、自分が世界一の魔法使い発明家だと自負しているのだった。
俺の評価、もっと上でもいいのにな。
リュカが首を振った。
「寝坊して、ヘリアスを逃がす失態を犯したのですから、これぐらいはしてもらわねば」
「ええ…?」
ユキがレオに呆れた顔を向けた。
「ほんと兄さんスゴい物作る癖に、肝心なところでぬけてるし、身だしなみ気にしないし、がさつだし…惜しいわ」
「ユキ、そんな風に思ってたのかよ!」
もっと俺を褒めろよ、とレオはがっくりした。
「ヘリアス、あなたは一応捕虜の身なので、勝手に自由にはできません。人妻に横恋慕してる余裕はありませんよ」
リュカが手をあげると、ヘリアスを囲んだ球体が近づき小さな牢のように彼を包んだ。
「ミヤコ!」
夫に抱えられる彼女に目をやり、へリアスは名を呼んだ。
「本当か?本当に腹に子が?」
ルシウスの頬に頬寄せたまま、ミヤコは目を閉じ頷いた。
「諦めるんだな。お前には、ミヤコをどうすることもできない」
彼女を抱いたまま、ルシウスはヘリアスに冷たく言い放った。
「………………」
「母さん?」
ユキが、お腹を押さえて顔をしかめるミヤコに気付いた。
「どうした?!」
驚いたルシウスがミヤコの顔色を確認する。
「…痛いの」
やっぱり変だ。
ユキが彼女のお腹に手を置いた。
「私…逃げようとして墜ちちゃって、お腹を打って…」
「それ、早く言え!」
ミヤコを降ろし、頭だけを支えてルシウスが慌てる。
ユキが目を閉じて、しばらく手を触れ感知の力で診ていたが、次第にこわばった顔をしてリュカを呼んだ。
「痛っ…」
寒気のするような、気味の悪い痛みだった。
少しずつ痛みが強くなっているようだ。
「だいぶ無茶をしましたね?ミヤコ」
リュカが、彼女を見下ろして言った。
「え?」
ユキがこわばった表情のまま言った。
「とにかく、早く帰らないと…医者にも診てもらいたいから」
ルシウスはユキの表情を読み取って、暗い表情で黙って頷いた。




