追跡5
「もったいぶるな、早く言え」
苛立つルシウスに、ローレンは顎をあげて尊大に言った。
「君さ、お願いの仕方を知らないのかい?私は忙しい中、今君のために時間を割いてるんだよ?その上、扉は破壊するし、偉そうだしさ。」
「……………」
玉座に座っているローレンは肘をついて、ルシウスを見据えた。
「本当にミヤコを助けたいなら、その気持ちを私に見せてみろ。」
「………………」
ルシウスは、天井を見上げて息を吐いた。
それから俯いて、ゆっくりと初めて膝を折った。
「グラディア王。俺に力を貸して欲しい」
真摯にルシウスは、ローレンを見上げて言った。
「俺は、ミヤコがいないと生きていけない。妻を取り戻すためなら膝ぐらい折る。何でもやる……だから力を貸して欲しい。頼む」
「………その言葉が聞きたかった」
ローレンが、打って変わって柔らかい表情で言った。
リュカは驚いて言葉もなくルシウスを見ている。
もういい、とローレンが立つよう促した。
「ルシウス、ミヤコはもうこの国になくてはならない女性だ。君には不本意かもしれないがね、もう君だけの彼女ではないんだよ。ミヤコはこの国の多くの者たちに愛されている。兵たちからも彼女を救ってくれと、陳情書が多く寄せられている。私たちが、ミヤコを放っておくわけがないだろう。リュカ、教えてあげておくれ」
ローレンはそう言って、しばし目をつむった。
「…アールラニが敗れた今、ヘリアスは国には帰れないはず。おそらく彼には行く当てもない。けれど、生きている以上腹も空くだろうから、お金が必要でしょう。 ミヤコは盗みなど許さないでしょうし、彼女に少しでも自由があるなら、特技を活かしてお金を稼ぐはず」
はっとしてルーが、リュカを見た。
「世界各地に散らばるグラディアの間者の一人が、連絡を寄越してきました。ここより北東のニグラ国の街の朝市に、最近、美しい歌姫が現れるとか」
「…何!」
笑みを浮かべ、リュカが話した。
「歌は、グラディアやルルカに伝わる歌だったりしますが、その中には言葉がわからない歌もあるそうですよ」
「…ミヤコ」
気持ちが早って、今にも翔んでいきそうなルシウスをローレンが引き留める。
「落ち着け。私は君の助けになりそうなことが二つあると言ったぞ。確実にミヤコを取り戻したいなら、話を最後まで聞け」
「何だ?!」
**********
レオの発明部屋。
ごちゃごちゃと物に溢れ、足の踏み場もないぐらいだ。
ルシウスは滅多にその部屋に行かない。
潔癖な彼は、こういう雑然とした所が嫌いだ。
たまにミヤコが、ユキとレオと三人で何かを開発していたようだが、そんな時は入口で見ていただけだった。
ざわざわ、がやがやと騒々しい。
今その部屋に大勢の人が集まっている。
王宮に仕える兵や侍女たちが、レオとユキを中心に発明の助手を買ってでているのだ。
「これがここに付くとダメだな。ユキ、これにも魔法入れて」
「うん、いくついるの?」
「そうだな…あ、そこの君、それを取って」
「レオ様、ユキ様、昼食をお持ちしました。あっ、ルシウス様!」
侍女の声に、皆が顔を上げた。
「…レオ」
反射的にびくっとしたレオが怯える。
「あ、アニキ」
「その呼び方やめろ…俺も手伝う」
「えっ」
ルシウスが、じろっとレオを睨む。
「お前が寝過ごしたおかげで、俺はミヤコから離れたんだ。きっちり責任をとってもらう。お前は抜けてるが、発明においては天才だからな」
袖をまくり、ルシウスはユキの隣で、設計図を見た。
「父さん、大丈夫?」
気遣うユキを見て、ルシウスは苦笑した。
「自分の顔見て言え。くまができてるぞ」
「ええっ」
ユキが、慌てて目元に手を当てる。
入口からひょこっとヒカルが顔を出した。
「あ、あの、僕にも手伝わせて」
「ひゃああ!ヒカル!」
顔を隠したユキが、ヒカルの横を逃げていく。
それを目の端で捉え、あいつミヤコに似てきたなと、ルシウスは思った。




