追跡4
「叔父上、大臣の職を罷免します」
ローレンは、実の母の弟である叔父を冷ややかに見下ろした。
戸惑った表情のヒカルが、側で成り行きを見守っている。
両脇を兵に掴まれた年老いた男が、ぎっと甥を睨んだ。
「ローレン、子どもだったお前を儂がどれだけ支えてきたか忘れたか?!その恩を忘れたか?!」
静かに叔父を見ると、ローレンは溜め息をついた。
「ええ、その恩のために我慢しすぎた。あなたは傲慢になりすぎた。王位を求めて私だけでなく、私の息子の命まで狙うとはね」
身内だからと大目にみすぎたようだ。
「さよなら、叔父上」
国外追放処分。本来なら終生牢で過ごす罪だが、王族ゆえの処置だ。
兵に連れていかれる叔父は何かを叫んでいた。それを無言で見送る。
「…嫌になるよね」
ローレンは玉座に座り、傍の息子を横目で見た。
「…辛いですね」
ヒカルが気遣って言うのを、ローレンは苦笑して言った。
「いや、清々したよ。ようやく嫌な奴を排除できた。身内は軽んじることもできないし、確かに小さい時は、支えてくれてたこともあったから、改心したら黙っとこうかとも思ったんだが。嫌になるのは、王位を欲しがる奴が湧いて出てくることだよ」
叔父も最初は良い支えだったのだ。
それが、いつからだろう?
野心を持ち、血の繋がる甥たちを殺してまで、王位を狙うようになってしまったのだ。
ヒカルが腕を組んで考える。
「王位を?そんなにいいものですか?僕だったら、そんなものいらな…」
「え、困るよ、それは。私も疲れたから、そろそろお前に譲りたいよ」
「ええ!勘弁してください!誰か他の人にあげてくださいよー。そうだ、ルシウス様とか」
額に手をあて、ローレンが呟く。
「そ、それ冗談にならないからやめておくれよ」
本当、世界征服しちゃうだろ?
「陛下」
リュカの声がふいにして、王の背後に佇んだ。
「ああ、どうだった?」
「予想が当たりました」
リュカが耳打ちして、ローレンに報告する。
「…そうか」
何だろうと見ているヒカルに、ローレンが話し掛ける。
「じつはね…」
ドゴォン!!
突然、謁見の間の、重い鉄扉が吹っ飛んだ。
「うわあっ!!」
ヒカルが驚いて叫んだ。
「噂をすれば…」
リュカが、無表情に呟く。
「い、いや、なんで?何も腹いせに扉壊さなくても!修理代だって君達の税金だよ?!」
さすがに青ざめてローレンが言う。
それを無視してルシウスが、つかつかと壊れた入口から入って来た。
「力を貸せ!」
一週間。
もう一週間経ってしまった。見つからない。
焦ってやみくもに捜していたが、ようやく一人で捜すことの限界に気付いた。
「そんな疲れた顔して、少し休みなよ。ろくに食べてもないようだし」
のんびりした王の言葉に、苛々する。
「のんびりしてられるか!」
「慌てなくても大丈夫ですよ。ヘリアスが本当にミヤコを好きなら、酷い扱いはしていないと思いますよ」
リュカが冷静に言う。
「だから余計に気が気じゃないんだろうが!なぜそんな、のほほんとしている!?」
「いえ、ヘリアスが逃げたのは困りましたが、彼女に熱をあげている間は、この国の害にはならないでしょうから…別に急ぐこともありません」
「貴様ら!」
頭に片手を置いて、ルシウスが苛立って言う。
「ミヤコのお腹に子がいるのに、じっとしていられるか?!」
「…………………」
沈黙が長くて、ルシウスが瞑った目を上げた。
「………ええっ!!」
驚く周りを見て、は?と思った。
「ユキに年の離れた兄弟が?!」
ヒカルが混乱して、両手で頭を押さえている。
「えっ、君、ついこの間もう無理だろうって言ったばかりだよね?!どういうこと?」
ローレンが首を傾げる。
「これは、凄いですね。魔法使いの歴史上、子どもが二人もできるなど初めてのことかもしれませんよ。おそらく魔法使いの減少に反比例して妊娠率が高くなったのでしょうね」
リュカが感心したように言った。
「…ユキから聞いていなかったのか?」
ルシウスが、意外そうに言った。
「ああ、あの子はあまりペラペラ言い触らすほうではないし、今は話す余裕がないのでしょう。」
リュカの言葉に、ユキをしばらく見ていないことに気付いた。
「あいつ何してるんだ?いや、今はそれよりもミヤコを捜すのに、この国の魔法使いたちの力を借りたい」
待ってましたとばかりにローレンが、にっこり笑って言った。
指を二本立て、ルシウスにつきだした。
「君の助けになりそうなことが二つある。それに頼ってみるかい?」




