逃亡4
「ヒカル、危ない!」
走ってきた父に突き飛ばされ、ヒカルは尻餅をついた。
飛んできた矢が父に当たる前に、横から現れたオルドが身を挺して庇った。
腹に矢が刺さりながらも、ヒカル達の前に出る彼を見て驚く。
「なんで…」
懐から剣を取り出し、ヒカルは構えた。
どうしてこうなった?
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朝からヒカルは町に繰り出し、一人自由を満喫していた。
雨が細々と降るなか、雨よけの軽いコートを着て、店を覗いていた。
ルルカに住んでいたので、この町はあまりまだよく知らない。
今日は、雨が降るせいで涼しい。 かき氷は今日は売れないだろう、そう思って苦笑した。
次に彼女と会う時、何を話せばいいんだろう。 このまま、帰らずにいたら…
ヒカルは首を振った。
そうしたら、彼女はまた僕を迎えに来るだろう。
濡れた石畳を歩き、 河のほとりで足を止める。
もう戻れないんだ、今までの暮らしには。
戦争があったりして、めまぐるしい展開に現実感が薄らいでいたのか、今急に戻れない日常を実感して、気持ちが押し潰されそうだ。
「いけない、いけない」
気が滅入ってる。
一軒の店に入り、昼食に麺類を注文する。 昼食を終えると店を出て、目的もなくふらりと歩いた。
歩いている内に方向がわからなくなり、ぐるぐると同じ所を歩いてしまい、狭い路地に入ってしまったのだ。
「 迷ったかな」
どのくらいたっただろう。
薄暗い空では、時間の感覚がいまいちだ。
にゃあ、とどこかで猫が鳴いた。
鳴き声のする方を向くと、軒先に猫がいる。
撫でてやろうと、ヒカルが屈みこんだ時だった。
ひゅっ、と音がして、ヒカルの耳元を矢がかすめた。
「うわっ!」
驚いて立ち上がった。
そこに、正面から名を呼びながら、フードを被った男が走りよってきた。
血相を変えた父だった。
そして、今。
「オルド!」
腹に矢が刺さったまま、オルドは剣を構えた。
「お逃げ下さい!」
ひゅっ、と再び矢が飛んでくるのを、今度はヒカルが父の手を引っ張りかわす。
次の矢を、他の闇の手が剣を薙いで防ぐ。
「…………全く」
ふっとルーが翔んで来て、彼らの前に降り立った。結界が出現し、矢が弾かれる。
「俺たちの…」
不機嫌に、家屋の屋根にいる刺客を睨む。
「食事の邪魔をするな!」
ボウッと火が刺客の身体にまとわりつき、熱さにたまらずに、もがきながらドサリと落ちてきた。
闇の手たちが、すかさず刺客を捕縛して、どこかへ連れて行く。
汗一つかかず涼しい顔でルシウスは、親子を見た。
「…皆に命張ってもらって、いい気分だな、ヒカル」
皮肉気なルーに、ヒカルは、ぐっと歯を噛み締めた。それから小さく礼を述べた。
「助けてもらいすまない。だが、そこまで言うことはない」
ローレンが息子の肩に手をおいて、ルシウスに言った。
「勝手なことをして、迷惑をかけてすみませんでした」
「……………」
礼を言うヒカルを一瞥し、ルシウスはオルドの腹から矢を無造作に抜いた。
「っ!」
血がほとばしるのを気にもとめず、傷口に手を当て癒していく。
「ごめんよ、オルド」
ヒカルが、血だまりを見つめうなだれた。
「ご無事で何より…」
傷が癒え、オルドが何でもないように微笑した。
「ここはいい…王宮の警備に戻れ」
ルシウスに言われ、オルドが姿を消す。
「お前ら、手を焼かすな。帰るぞ」
血のついた手を払い、ルシウスが二人を不機嫌に見た。
「は、はい。すみませんでした」
ヒカルがしょげて言う。
「待て」
息子の腕をつかみ、ローレンがにっこりする。
「ね、折角だし、ルシウスも…」
「は?」




