最高の魔法使いルシウス2
ローレンと目が合うとミヤコは頬を膨らませ、ぷいっと、そっぽを向いた。
「…嫌われてしまったかな」
少女のような可愛らしい仕草に笑いをこらえて、彼は言った。
もう、笑うしかない事情があった。
怒りを飛び越して、諦めにも似た気持ちだ。
「実はね、アールラニから入手した火薬を使う武器類だけど、あれ全部消えて無くなったんだ」
話が呑み込めず、怪訝そうにミヤコがゆっくりと王に顔を向けた。
「武器が消えただけじゃない。設計図や設計した者の記憶も消えた。もしかすると、他国でも同じことが起こっているかもしれない」
「………………」
「たまに思うのだけど、この世界は本当は、魔法使いが統べている気がするんだよね。私だって、グラディアの王は誰だったかなあ、なんて考えることもしばしばで…」
「ぷっ」
思わず、ミヤコは吹き出した。
テーブルに突っ伏して笑った。
またあの人の仕業。
なんとか笑いを治めて、
「陛下。私は、大好きなこの国が、ずっと平和であるように見守っていきます。どんな武器もいらなくなるぐらい平和を創りたい」
「やはり理想を説くかい?」
「ええ、私は魔法使いですから。もし、私の目に余る王がいたら、玉座から引きずり下ろしてやります」
苦笑するローレンを見て、ミヤコが微笑みながら凄んだ。
「いつも見守っています」
魔法使いを軽んじるな。
利用するな。忘れるな。
昔、ルシウスがローレンに約束させたこと。それを忘れた時、王の命運はルシウスの手のひらの中にある。
その気になれば、一瞬で王を殺めることができるのだ。
「まったく…敵わないね、君たち夫婦には。降参だ」
ローレンは、むしろ清々して天井を見上げた。
*************
腕を組んでヘリアスをじっと見るルシウスに、レオは冷や汗が出る思いだった。
「と、父さん…」
レオに代わるために、やって来たユキが気づいて戸口から覗いている。
レオはそうっとルシウスの後ろを通って、彼女の元へと逃げた。
「ちょっと、なんで父さんがいるの?」
こそこそとユキが、レオに聞く。
直接聞くには恐すぎて聞けない。
「荒れる気がするなあ、だってヘリアスはミヤコさんが…」
「え?何?」
ルシウスは、二人に目もくれずヘリアスに向かって問うた。
「ミヤコが好きなのか?」
「………………」
寝台に腰を下ろしたまま、ヘリアスは黙ってルシウスを見ている。
後ろでユキが、「えっ」と声を上げた。
「お前のその心は、俺の心の残りだ。本物じゃない」
「…何だと?」
ルシウスが嘲るように笑った。
「馬鹿め。俺など乗っ取るからだ。お前には過ぎた想いだ。…苦しいだろう?」
聞いていたユキは、驚いて目を見張った。
「ああ、やっぱ、やばいよ」
レオが青ざめて呟いた。
一歩ルシウスが、牢に近づいた。
反射的にヘリアスが彼を見た。
いきなり紅い瞳で、ルシウスが洗脳の魔法を行使した。
「っ、やめろ!」
目をぐっとつむり、ヘリアスが顔をそむけた。
「ちっ、だめか」
ルーの洗脳は、牢内には届かなかった。
外からの魔法もレオの道具が無効にしてしまう。
「おい、レオ!どうやったら魔法が効くようになる?」
ぎっと睨まれ、レオが焦る。
「無理無理、俺の作った道具は、そこまで器用じゃないっす!」
道具?
ヘリアスが、ちらっと牢内を見渡した。
「………………」
そうか。
「忘れさせてやろうと思ったのに」
ヘリアスを見下ろしたまま、ルーは呟いた。
「哀れな奴」
「……………」
ヘリアスがルーを睨んだ。
「お前の想いは、報われない。わかっているはずだ。ミヤコの心が誰のものかを。俺の妻は、俺しか愛せない。俺にしか悦ばない」
ユキは、レオにこそこそと小声で言った。
「ねえ、これって娘が聞いてていいのかな?なんか、いけない気がするんだけど」
唾を呑み込んで、レオが彼らを見ながら言った。
「俺たちは、大人だからいいんじゃない。でも…刺激が強すぎるな」
大人しいヘリアスを一瞥し、ルシウスは、さっと踵を返した。
「一生苦しめ!」
それだけの言葉を投げて、ユキとレオの側を通り階段を上っていった。
「こわっ…」
レオが袖で汗を拭った。
「兄さん、汗臭っ。代わるからお風呂行ってきて」
ヘリアスをちらりと見てから、ユキは椅子に座った。
父のああいう性格には馴れているユキは、切り替えが早い。
「大丈夫か?ユキ」
心配するレオに頷く。
「平気。でも、呼んだら来てよ」
「ああ」
レオの背中を見送り、ユキは息を吐いた。
なんだか、ヘリアスに同情してしまったのか、可哀想に思ってしまった。
しばらくはここに缶詰か。
このまま、ずっと監視しているわけにもいかないだろう。
リュカはヘリアスをどうする気だろう。
もしかしたら、殺すのか。
少なくとも、消えるの能力を殺した魔法使いは手に入れる。
………やめよう。考えると怖い。
この世界では、魔法使いはとても少ない。
叶うことなら、全ての魔法使いが仲良くできたらいいと思う。
いや、無理か。さっきの状況では。
ヒカル、どうしているだろう。
謝る機会がなかなか作れない。困ったな。
持ってきた本を広げた。
気を紛らわすしかない。




