最高の魔法使いルシウス
王宮の塔の上で、ユキは膝をかかえた。
今日は曇っていて、あまり景色がよく見えない。
島を出てここで暮らし始めた時、レオが教えてくれたこの場所。晴れた日は遠い景色も一望でき、
あまり人も来ないので、一人になりたい時はここによく来る。
朝、王宮の食堂で一度ヒカルを見た。
王子が家来たちと混じって朝食を食べるなんて珍しい光景だが、彼は普通に紛れていて気付かなかった人もいたようだ。
視線に気づいて、ユキを見たが先に目を逸らしたのは、ヒカルの方だった。
ショックだった。
人懐こくてユキの後ろばかり付いてきていた彼が、急によそよそしくなったことが。
母に言われた通り、自分は子どもだった。
最初は、両親に店で出くわさなければ、こんな事には、なんて思った。
でも、あとになって恥じた。
ヒカルを傷つけたのは、誰のせいでもなく自分なのだ。幼稚な自分のせい。
とても大切な話をヒカルはしていたのに、私は聞こうともしなかった。
なんであんな事を言ってしまったのか。
好きかと聞かれたら、嫌いじゃない。 にこにこして明るい性格の彼は、周りも明るくさせるようだった。
戦争中、彼だけは自分を人と同じように心配してくれていたのに。
魔法使いではなく、一人の女の子として見てくれたのは、彼ぐらいなのに。
「…謝ろう」
好きかはよく分からないが、これきりなのは嫌だ。
「ユキ」
背後から呼ばれて振り向くと、リュカが立っていた。
「リュカ」
「どうしました?何か悩み事ですか?」
ユキが落ち込んだりした時、ここに来ることをリュカは知っている。
「…何でもないです」
「王子と喧嘩でもしましたか?」
「ぐっ…」
なんて正直で不器用な子だろうとリュカは思っている。
ユキの隣に立ったまま、景色を見る。
「まあいいです。それより、そろそろレオと交代しておあげなさい」
「ええー…」
「私は政府の立ち上げのために、これからアールラニへ行かねばなりません。その間の国にも顔を出しに行くので、しばらく帰れません。ヘリアスの監視はあなたたちに任せます」
嫌だな。
でも、両親には頼めないしなあ。母さんをあいつに会わせたりなんかしたらダメだ!父さんは……うん、血を見るね。
「わかりました。あ、でも私、お風呂と眠る時は、兄さんに代わりますから」
「まあ、当然ですね、女性ですからね」
それから少しだけ黙って、リュカがユキをじっと見た。
「リュカ?」
「いえ……」
「何ですか?予知ですか?」
訝しむユキに微かにリュカは笑った。さりげなく話題を変える。
「私はどうもあなたの父上を少し誤解していたのかもしれませんね。へリアスが言ってました。ルシウスは甘い男だと…」
ユキには、ほんの少しリュカが優しい顔を見せた気がした。




