新たな時代3
「ふああ」
レオは腕を上げて伸びをした。
もう何日間ここにいるっけ?
つい開発に熱中しすぎた。
レオは、あまり身だしなみに気を使うほうでないので、髪がぼさぼさで、服も着替えてないことがあってよくユキに叱られる。
今日はリュカか誰かが交替してくれるから、さすがに風呂に入ろう。
「レオ様、お食事をお持ちしました」
侍女が階段を降りた所で、声を掛ける。
「お、ありがと」
歩いて行って、二つの盆に乗った食事を受け取る。
レオのいでたちに微かに眉をひそめ、侍女が一礼をして戻って行った。
しまったな。
そんなにひどい顔になってるかな。臭い、のか?
ふいにヒカルの姿を思い出した。
王に似て、さらさらの金髪。淡い青い瞳。
まだ少年らしさが残るが、背も高くてなかなかの……
考えたら、むかついてきた。
ユキから、デートに行くと聞いた時は驚いた。
ユキは、あまり彼に興味なさそうに感じていたから。
その後、どうなったのだろう。
少し前に、ヒカルと話した時、彼女が好きなのかと聞かれた。
どちらかと言うなら、勿論好きだ。
小さい時から見ていた。幼馴染みのような大事な存在だ。
彼女には幸せになってもらいたいと思う。
だから、ヒカルに忠告したのだ。
ユキが、いずれ悲しむのが分かっているから。
悲しませないようにするには、自分と生きたら良いのにと思う。
先が長いから、今じゃなくても、何十年後か何百年後でも、いつか一緒に生きられたらいいと。
レオには、むやみに今の兄弟子の自分と妹弟子のユキの関係を壊す気はない。
当分このままでいいと思っている。
居心地のよい関係。
だから、ユキには自分の気持ちを言ったりはしていない。
そこに突如現れたヒカルは、その関係を壊しかねない危うさがあった。
どうしても気に食わない。
盆の一つをごちゃついた机に置いてから、もう一つを手に牢に近付く。
鉄格子の床に近い場所に、横に長い穴がある。
そこから盆のまま、食事を押して中に入れこむ。
「ほい、飯だよ」
ヘリアスは、背中をこちらに見せて簡易な寝台に横になっている。
リュカは一生出さないつもりだろうか。
牢は広い。
中にはトイレや洗面所も付いている。
着替えだって用意してるし、本ぐらいなら渡してあげることも許されている。
牢内で魔法が使えないのは、実はレオの開発した道具のせいだ。
天井と床に埋め込まれた道具が、魔法を発動しようとしたら、それを吸収してしまう。
「…寝てるのか?」
様子をチェックしてから、レオは椅子に座った。
黙々と食事を取る。
大人しい。
ヘリアスは暴れるかと思ったが、予想外に静かだった。
レオがあんまりガチャガチャと物音を立てすぎると、うるさいと怒鳴りはしたけれど。
「…なあ」
寝ているかと思ったヘリアスが、身体を起こした。
ちらりと食べながら見る。
「ミヤコは来ないのか?」
「来ないでしょ」
なるべく淡々と返事をする。
「……………」
ぼんやりと鉄格子を見つめるヘリアスに眉をひそめる。彼が、昨日の彼女をそこに見ているようだったから。
「来るわけないだろ。ミヤコさん、あんたが嫌いだし、昨日あんたにあんなこと言われたんだから」
「逢いたい」
胸に手をやり、掻き毟るような仕草をした。
「…あ、あんた」
本気か?
「なあ、教えてくれ。この苦しみは、どうしたら消えるんだ?どうしたら、ミヤコに逢える?触れることができる?」
「…さあな、俺が知るわけないだろ」
何だか、この男が可哀想に思えてきた。
ずっと見てきたからわかる。
ミヤコとルシウスの間には、誰も入れない。
ルシウスを取り戻そうとしたミヤコは、恐ろしいほどの執念で、とても強かった。
それだけ愛し合ってるんだ。
太刀打ちできようはずがない。
「早く忘れろよ、そんな気持ち」
レオは憐れんで言った。




