新たな時代
グラディアの人々は逞しい。
まだ戦争が終わって間もないというのに、元のように店を出し、仕事を再開し、普段通り賑わっている。
直接的な被害が、あまり出なかったこともあるだろうが、当たり前のような日常を取り戻すのは努力のいることだ。
「うん、美味しいね」
丼物をスプーンで食べて、ヒカルがにっこりと笑う。
「ご機嫌ね…」
ユキが同じ物を食べ終わり、ヒカルを見た。
アールラニとの戦いの最中、ヒカルと交わしたデートをする約束のためユキはここにいる。
「ようやくもらった休みだからね」
町に行くと言っただけで、護衛をつけろと騒がれて大変だった。
「ヒカル、君はパッと出の王子だよ。よく思ってない奴もいる。気を付けないと」
ローレンに言われて、口ごもって、
「…ユキとデートなんで、あまり付いて来られるのは、ちょっと…」
とぼそぼそ言った。
「それは…野暮はできないねえ」
父がにっこりと笑い、ようやく解放されたのだ。
ユキならヒカルを守れるだろうとも思ったのだろう。
「王子様は大変ね。リュカが言ってたわよ、落ち着いたら、みっちり帝王学を学ばせるって」
「え…」
ヒカルの顔をちらりと見て、ユキは少し笑った。
「あなたは、自分の置かれた状況を素直に受け入れるのね。これから一生狭苦しい生活が待ってるのに」
「ユキだって」
かき氷を追加して、ヒカルが呟いた。
「魔法使いも、なかなか大変だろ?」
「まあ、そうね」
ふと感知の力が働いて、ユキは店の入り口を見た。
あ、やばい!
黒髪を金髪に変えた父とショールを目深に被った母が入って来た。
ユキたちから離れた席に座って、何か注文している。
何だって、こんな所に…
偶然?
「ユキ…。君はもしかして、自分が魔法使いだから、今まで男と付き合わなかったのかい?」
どうしよう、絶対向こうも気づいてる。
「そ、そうよ。私は気持ちがすぐ折れるから、いつか別れる時が怖いから」
「……………」
ヒカルは、レオの言葉を思い出した。
先に逝く人間の男を見送るのは、辛いだろうな。
「ね、ねえ、ヒカル。もう店を出ようか」
ユキがかき氷もそっちのけで、店を出ようと立ち上がった。
ヒカルは、ユキの腕を掴んだ。
「わわっ」
「ユキ」
ヒカルは真剣に見上げて言った。
「僕は長生きするよ。僕は君にたくさんの楽しい思い出をあげるから、別れも辛くないように…」
ユキは上の空だった。
親にこんなところ見られて、恥ずかしいとしか思っていなかった。
「やめてよ。私、あなたのこと好きだなんて一言も言ってないんだけど」
「…え?」
彼女は、ヒカルに目も合わせず、両親の方ばかり見ていた。
「それより、ここ出ようよ。うちのりょ…」
「そうだね。ユキ…僕は馬鹿みたいだね」
うつむいて、ヒカルはユキの側を通ってとぼとぼと一人出ていってしまった。
「あ………」
ユキは、ようやく失言に気付きヒカルの背を見送って佇んでいた。
「あいつは馬鹿か?」
ルシウスは一部始終を見て、額に手をやり呟いた。
「なんて不器用な子」
ミヤコはため息をついた。
仕方ないので、店を出たユキに二人は声をかけた。
「母さん、目が覚めたのね。良かった」
何食わぬように誤魔化す彼女に、ミヤコは次の言葉が出てこない。
「笑ってていいのか?」
娘をじっと見て、ルシウスが言った。
ユキが俯く。
「お前は、あいつが好きなのか嫌いなのか?」
「まだ出会って一ヵ月も経ってない」
「だから?」
むっとして、ユキが父を睨んだ。
「ほっといてよ!もう子供じゃないんだから、私」
「子どもだわ。ヒカルよりもあなたは幼く見える」
ミヤコがはっきり言った。
「…っ」
「後悔した時には、ヒカルはいないかもしれないぞ」
そう言い残し、二人は並んで帰って行った。




