ヘリアスの想い7
反射的に手を伸ばしかけ、ミヤコは止めた。
自分も鉄格子に触れれば、傷つく。
幸い、牢内は魔法が使えないが、ヘリアスの治癒力には干渉しないので、彼の手は少しづつ治っていった。
「お前と話したかった」
ヘリアスが格子越しに、ミヤコを見つめた。
「私は話したくなかった」
動揺を抑え、できるだけ冷たく言った。
女物の、白地に朱色の模様の入った服を着て、髪をゆるく一つに三つ編みしているミヤコを、ヘリアスが嬉しそうに眺めた。
「お前は、美しいな…」
「………な、な?」
ミヤコは驚いて口をぱくぱくさせた。
レオも驚いて、手を止め見ている。
「ルシウスには、勿体無い…」
つっと、ヘリアスが指でミヤコをなぞるような仕草をした。
思わず後ずさった。
「……何?」
「ミヤコ、お前にひどいことを言ったことを謝る。もう…お前を道具扱いしない」
人が変わったような彼に驚いた。
「え?」
ヘリアスの瞳を見て、愕然とした。
熱っぽい瞳。覚えのある眼差し。
「ミヤコ、俺はお前が好きだ。…愛している」
「……………………」
後ろでレオが、ミヤコの代わりに「ええーっ」と叫んだ。
いや、いやいや、おかしい。
ミヤコはぐるぐると考えた。
だって私、ヘリアスを蹴るわ、拘束するわ、平手打ちにするわで、好きになる要素何もないはずだし。
この人、もしやそういう趣向が好みとか?
「……………冗談を言って、私の反応を見て、楽しんでるのね」
警戒してミヤコは言った。
「違う!俺は、本気だ!」
鉄格子に触れそうな距離に身を乗り出して、ヘリアスが叫んだ。
「やめて。あなたの言葉は信じられない」
後ろへ下がり、ミヤコは部屋を出ようとした。
「ミヤコ、会いに来てくれ!お前が、恋しいんだ!」
追いかけてくる声に、口元を覆った。
階段を上がりきり、幾つかの部屋の前を通り、中庭に出て芝生に座り込んだ。
青い空。
白い雲を眺めて、ようやくほっとして息を吐いた。
もしも…ヘリアスの言うことが本気なら、哀れ、だった。
その想いは、絶対に報われないから。
「ミヤコ」
背後からルシウスが呼んだ。
息を吸い込んで立ち上がって、彼に近づいた。
「どこかで食べて帰るか?」
指でミヤコの耳を飾る銀のイヤリングに触れ、ルシウスが言った。
「うん」
微笑んで、彼に抱きついた。
当たり前のように抱き締められて、その腕の力に安心する。
私は、ルシウスのもの…ルシウスだけの私、私だけのルシウス。
本当は縛られていたい。
私は、彼が思うより貪欲だ。
もっと愛されたい!
もっと求められたい!
そう思ってしまう。
いつか彼が、俺に溺れていろと言ったように、自分も彼に溺れていて欲しい。
だからヘリアスの想いは哀れなのだ。
私とルシウスは、互いしか見ていないから。
未だに夢中で、恋をしあっている途中だから。




