ヘリアスの想い7
ミヤコは王妃に挨拶をしてから、ユキの部屋に顔を出そうと思った。
ルシウスは、用事を思い出したと言ってどこかに行ってしまった。
やはり先程のローレンとのやりとりを引きずって、気が重かった。
こういう時は、娘に会いたい。
他愛ない話をするだけで、気が落ち着くのは血が繋がっているからか。
「うーん、いない?」
部屋は誰もいない。
ばたばたしている今の王宮では、リュカの魔法の講義もないだろうし。
どこかなあ。
「ミ、ミヤコ様…」
「はい」
様子を見ていた何人かの侍女たちが、おずおずと彼女に近付いてきた。
「あの、ユキを見ました?」
「い、いえ、あ、もしかするとレオ様とご一緒では?よくあの方の発明の手伝いをされているから」
「ああ、そうね。レオ君は、どこに?」
侍女たちが、顔を合わせる。
「それが…地下に…」
その後の言葉を魔法で拾い、ミヤコは微かに顔を曇らせた。
「…わかったわ。ありがとう」
ミヤコが歩きだそうとすると、侍女たちが赤い顔で引き留める。
「ミヤコ様!あ、あのこれ、受け取って下さい」
背中に隠していた手紙やら贈り物やらを、それぞれ彼女に手渡し、きゃあきゃあ叫びながら走って逃げて行ってしまった。
「…え?」
訳がわからず、手に持った手紙を一枚読んでみた。
『ミヤコ様!男装姿、超凛々しくて素敵でした。あの時から、あなたが忘れられません!ぜひまたお見せ下さい。愛しています!』
「…え、えぇえー」
呆然とした。
私が………
この私が、女子にモテるとは!
「きゃあ、なんかうれしいかも!」
地下へと続く階段を降りながら、ミヤコはにやついた。
そうか、ああいう姿もありなんだ。
降りて、足を止めた。
薄暗い。
奥で、灯がともり、カチャカチャと頻繁に音がする。
そして、それをうるさいと怒鳴る声が聴こえた。
怖いな…
でも、気取られたくない。
ルシウスは、ああ言ったけれど避けて逃げるのは癪だな。
あっちが悪いのに。
足音を立てずに近付いて、そっとのぞいてみた。
レオは一人、冷蔵庫の改良をしていた。
机やら椅子やら、布団まで床にしかれっぱなしで、ここにずっといることが分かる。
彼は集中し出すと、一日中ずっと開発に取り組み続ける。
時間さえ忘れてしまう。
レオのいる部屋は広いが、その半分は牢で占められていた。
そこにヘリアスを捕らえている。
侍女の話では、どうやらリュカに言われて、ずっとヘリアスの監視をしているようだった。
開発をしながら。
「レオ君」
部屋に顔だけのぞかしたまま、声をかけてみた。
「お、ミヤコさん!元気になったみたいで良かったっす」
レオが、気付いてにこっと笑いかけた。
「ねえ、ユキを見なかった?」
牢を見ないように、何でもないふうに努めて明るくミヤコが聞いた。
「ユキは…デートです。ヒカルと」
「えええっ」
思わず部屋に入ってしまった。
「ちょっ!もっと詳しく!」
レオに詰め寄る。
「知りませんって!ユキに聞いてくださいよ!」
無愛想なレオを見て、ミヤコには分かった。
「レオ君…」
こ、これは…まさかの、《三角関係》!?
うわ、どうしよ!
ルーに教えてあげなきゃ…
「ミヤコ…」
牢からの声に、さっと緊張が走った。
背中に視線を感じる。
「あ、ねえ、ミヤコさん。冷蔵庫のここなんだけど、こんな感じで改良を加えてみました。」
「あ、いいね。」
ミヤコは椅子に座り、レオと向かい合った。
二人で無視する。
「…おい、ミヤコ!」
聞かない、聞かない。
「ところでレオ君は、好きな人はいないの?」
「…いないっす!」
ひじをついて、問い詰める。
「本当に?」
「しつこいっす!」
「おい、こっち向けよ!」
ヘリアスの声を無視して、ミヤコは立ち上がった。
「帰るね、また新しいの今度開発しようね」
レオが、顔を上げた。
「え?次は何を?」
「次は、扇風機かな」
そう言って、手を振り部屋を出ていこうとした。
「待て!」
ヘリアスの呼び止める声と共に、牢の鉄格子がカッと光った。驚いてミヤコは振り向いた。
「きゃああ!」
魔法の流れる格子の間に手を外に向けて伸ばしたのだ。
「があああっ!!」
雷と冷気と風が、ヘリアスの手を同時に襲う。
手が血まみれになる。
肉が削がれる。
「何してんだ!早く手を引っ込めろ!」
レオが慌てて叫んだ。
ミヤコがとっさに手当てしようと駆け寄ったら、
それを見てヘリアスは手を引っ込めた。
「なんてことを」
驚きと衝撃で、自分を格子越しに見る彼女に、ヘリアスがふっと笑った。
「ミヤコ、ようやく俺を見たな」




