ヘリアスの想い5
戦争終結から、十日後。
王宮にやって来たミヤコは驚いた。
「ミヤコ様!」
「ミヤコ様、良かったですね!ルシウス様が戻られて」
城内の片付けに追われていた兵達が、ミヤコに気付くとわらわらと駆け寄り、頭を垂れた。
中には、ひざまずく兵もいてミヤコは慌てた。
「ミヤコ様、誰も死なずにすみました。あなたのお陰です。」
彼女の手を取り、口づけしようとした者が、ルシウスによって妨害される。
ミヤコは兵たちに深くお辞儀をした。
「私の方こそ、ありがとうございました。それに、私が死者を出さないと言ったばかりに皆さんにまで、気を使わせてしまい申し訳ありません」
一人の兵が泣きそうな顔で言った。
「私たちはただ、あなたが本心をさらけ出して話して下さったことが心に沁みたまでです」
「なんのことだ?」
ルシウスは、知らない。ミヤコと兵達のやり取りを唖然として見守る。
ユキから聞いた話しか知らない為、 近くの兵を掴まえ、事情を聞いた。
「ルシウス様、あなたの奥方は、こんなしがない人間たちに頭を下げたんですよ。どうか夫を助けてくださいってな、涙を流していらした」
「…あいつ」
「あなたを取り戻して、この国も守るとおっしゃっていましたよ。あなたの気配がする、この国が愛しいからと」
そこまで聞くと、ルーはぱっと首を巡らせた。
兵一人一人に礼を言うミヤコを目で捉え、早足で近づいた。
「ミヤコ」
振り向いた妻を引き寄せ、いきなり口づけた。
兵たちから歓声が上がった。
「ルシウス様。あなたの奥方は、最高の奥方ですよ!」
「知ってる」
唇を離し、それだけ言うと固まったままのミヤコに再び口づけをした。
言葉にならない。
彼女の自分に向ける強い想いが、たまらなく愛しい。
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「ミヤコ、疲れはとれたかい?」
そう聞くローレンの顔を見て、彼女は笑った。
「ええ、あなたよりは」
謁見の間には、ローレンとミヤコ。
それに王の傍にリュカ。
ミヤコの少し後ろにルシウスが立っていた。
「ああ、疲れた顔をしているかい。戦後処理が忙しくてね」
アールラニには、グラディアの介入により、暫定的な自治政府が置かれた。
表向きは独立した国として認められている。ローレンは自国とアールラニ両方の政治的な処理に追われているのだ。
「…雰囲気が戻ったね。」
彼女の顔をじっと見た王が言った。
「戦ってる時は、必死だったから…恐い顔をしてたでしょう?」
自分の頬に手を当て、少し恥じらった。
「いいや、むしろかっこ良かった。将軍として、ふさわしい気迫でもって皆をよく導いた。」
斜め下を見ながら、複雑な表情でミヤコは呟いた。
「…柄じゃないわ。それに、もうあんなことはできない」
苦笑する彼女に、ローレンは目を伏せた。
「そう言うと思った。君は、ルシウスに関することでしか戦わないだろうからね」
「……………」
背中で感じる夫の視線が、恥ずかしかった。
「だが、今回一人も死者を出さなかったのは、君のお陰だ」
そばにいたリュカが、彼女に目録を手渡した。
そこには貴族の地位の保障。
領地。
金銭の授与等が記載されていた。
「…………ふうん」
ルシウスが、後ろからのぞいて目で読んだ。
ミヤコとちらりと目を合わすと、彼女の耳元で、
「任す」
とだけ言った。
リュカとローレンも黙っている。
ミヤコは来る前から、こうしようと決めていたことをした。
目録をすっと返した。
「陛下」
ひざまずこうとして、スカートなのに気づき、床に正座した。
「全ていりません。その代わり一つ私の願いをお聞き下さい」
ルシウスは、顎に指を当てミヤコを見ていた。
彼女は他人の思い通りには動かない。
「なんだい?」
「…まず先に、願いを聞き届けると約束を」
首を振って、王が言った。
「内容による」
ミヤコは微かに唇を噛んだ。
「…アールラニから入手した大砲などの火薬による武器の廃棄と今後の武器開発の取り止めを…約束して下さい。」
「…………」
ローレンが、玉座に身体を預け、笑みを消した。
「それは、約束できない」
「陛下!」
お互いに予想していた返事だった。
「他国では、武器開発が更に加速している。我が国が、これ以上遅れを取れば、再び侵略に脅かされる時がくるかもしれない」
「…聞いてください、陛下!」
勢いのまま、ミヤコは立ち上がり王を見据えた。




