ヘリアスの想い3
「お前は、たいした奴だよ。」
ルシウスが昔作った露天風呂は、結構な広さを誇る。
ミヤコは湯に顎まで浸かって、そういう彼を見上げた。
「…恥ずかしい…」
「何がだ?」
にやにやするルシウスを睨む。
言っても聞かないだろうな。
こんなに見られていたら、ゆっくりお風呂に入れない。
「なんだか…ルーといるのが、久しぶりで、なんかこう…」
新鮮?
うーん、違うなあ
ああ、そっか、新婚さん気分。
ふふ、と照れて笑った。
私、寂しかったんだな。甘えたいんだ。
「何だ?」
風呂のふちを囲う岩に腰掛け、ルシウスは問うた。
「なんでもない」
にこにこする彼女を見ていたが、まあいいかとルシウスは話を戻した。
「グラディア王が、お前が起きたら王宮に来るように言ってた。」
「ん?」
「お前に恩賞が出るそうだ。」
ミヤコの濡れた手を取り、指でなぞってルシウスが言った。
「ふうん…」
興味なさそうな返事のミヤコを見た。
「お前…、アールラニとの戦いのほぼ全ての軍事作戦を考えたんだってな。その上、どちらの兵も一人の死者も出さないよう皆を守ったと聞いた」
はっとして聞いた。
「死者は?!出たの?」
「いいや、一人も。」
ミヤコの手に唇をつけて、ルシウスは答えてくれた。
良かった!
不思議な気持ちで、微笑むミヤコを見つめた。
白い肌。
優しく美しい顔立ち。
若い娘のようで、花のように微笑むのに、彼女のどこにそんな力があるんだろう。
「ミヤコ…お前、そんなに俺を愛しているのか?」
自分を変えるほどに。
「……………」
ミヤコは、照れたりはしなかった。
でも、代わりにルーの手をぐいっと引っ張った。
驚いたまま、ルシウスはバランスを崩し湯船に落ちた。
「な、な…」
ミヤコは、白い腕で彼を抱き締めた。
「うん、そうだよ…あの時言った言葉は、全部本当よ。」
ルシウスを取り戻すために、呼び掛けた言葉。
「…またこうしていられて嬉しいよ、ルシウス。」
何も言えなくなって、ルーは彼女を抱き締めた。
そして、一つ言わねばならない言葉を思い出した。
「ミヤコ…感謝してる。…ありがとう」
彼女の額に口づけた。
ふふっ、と笑う裸の彼女に、自分の服が邪魔だなと思った。
「愛してる」
もう挨拶のように染み付いて、言いなれた言葉を吐露し、彼女の唇に唇を重ねた。
そのまま首筋に口づけした。
「あの…ルー…」
指で肩をなぞった。
「ちょっ…ルー…」
「だめ…俺は餓えてる。」
鎖骨に手を這わせた。
切なげに彼女が告げた。
「私も餓えてる…」
「!…ミヤコ」
ミヤコのお腹が鳴った。
「お腹空いた…本当に餓えてる、私…」
「……………」
ああ、ああ、そうだろうとも。
なんせ一週間食べてないんだからな。
「ルー、あのう、ご飯は…。」
「用意してる…もう起きるかと思ったから…」
力なく答えた。
「わあ、ありがとう!」
「…アイスも食べさせてやる。」
ミヤコの目がぱっと輝いた。
「アイス!アイス!」
ああ、くそっ!
いい雰囲気だったのに、食べ物でこんなに喜んで。
にらみつけると、急に恥ずかしくなったミヤコは、手で身体を隠した。
「………アイス食べたい」
「………………」
ますます色っぽくなった彼女を恨んだ。




