二人で最高4
ヘリアスは首に巻き付く手を強く掴み、翔ぶのを振り払うために、そのまま大地へと墜ちて行った。
結界を張って、落下の衝撃を弾く。
「…ったく、何しやがる。」
仰向けに倒れたヘリアスは、自分に馬乗りになっているミヤコを見上げた。
荒く呼吸し、翔ぶことで力を使い果たした彼女は、意識を保つだけでやっとだった。ふらりと身体が傾きそうになるのを懸命に堪えている。
それなのに。
「……船は全て破壊した。あなたの本当の身体も、封じた。そして、あなたも私が捕まえた。」
がっと、ヘリアスの襟首を彼女は掴んだ。
「負けを、認めなさい!」
強く睨み付けた。
髪がほどけてしまい、彼の頬にかかった。
「負け?」
彼女を見上げて、ヘリアスは薄く笑った。
「いいだろう…負けを認めてやる。」
ほっとしてミヤコが気を緩めるのを見計らい、彼女の手を掴んで倒し、今度はヘリアスが馬乗りになった。
ミヤコを見下ろし、顔を近付ける。
「なあ、ミヤコ。俺が負けたからと言って、お前を諦めると本当に」
ぱんっ、とミヤコがヘリアスの頬をいきなり平手打ちにした。
「なっ…」
唇をぐっと噛み締めてから、ミヤコが強い口調で言った。
「約束した!ルーを私に返して!」
抗う彼女の手首を地面に乱暴に押し付けた。
「そんなにも…あの男を!」
怒りのような感情が湧いた。
ヘリアスの首に細い鎖状の紐が掛かっているのが、ミヤコの目に映った。
その紐に通された銀のイヤリングを見た。
涙が溢れた。
あの時ユキは、ミヤコをヘリアスの元に翔ばすことを拒まなかった。
「母さん。父さんはきっと、戻って来てくれるよ。」
そう言った。
彼女は、自分やミヤコを、父が助けてくれたことを話した。
ルー、見てるの?
聞こえてるの?
私を、想ってくれてるの?
今の魔法を使い果たした私にできることは……
手首を掴む男の手を、指を動かして握った。
もう片方の手で、男の肩を抱き締めた。
驚く彼を引き寄せ、その顔に必死で頬を寄せた。
なんだ、私。
昔、人間だった時に同じことをしていたじゃない。
ぽろぽろと涙が流れる瞳を閉じて、少し笑った。
「ルー…帰って来て…」
動きを止めた男の頬に唇を寄せた。
彼は、ぴくっと身体を揺らした。
「私、あなたがいないと…生きていけないから…死んじゃいそうに辛いから。」
彼女の夫に向けた言葉を、耳元でヘリアスは聞いていた。
手を握られた所から、深い想いが伝わって彼に流れていく。
「ルシウス…あなたが恋しい!…あなたがいないと、私が餓えて死ぬのよ…」
一言一言に想いが込もって、心が揺さぶられるようだった。
ミヤコの言葉は、あの男への想いだというのに…
まるで、自分に向けられた想いかと錯覚しそうで…
「あなたが愛しい…」
告げられた途端、ヘリアスの瞳から一筋涙が伝った。
なんだ、これは…
驚いた。
「ルー…ルシウス…ルシウス!」
胸が熱い…
泣きながら呼び掛ける彼女を、ヘリアスは顔を動かして間近で見つめた。
胸が焦げ付く…
ああ、こんなに愛されたらどんなに幸せだろうと思った。
想って、しまった。
「愛してるわ。あなたがどこにいたって、これから先の年月が、どんなに長くても…ずっとずっと愛してる!」
自分の肩を抱く彼女の手が暖かい。安らぐようだった。
目を閉じている彼女の目から流れる涙が、自分の頬を濡らした。
ああ、暖かい。
そっと手を伸ばし、ミヤコの震える肩を抱いてみた。
柔らかい身体に触れ、ヘリアスは目を閉じた。
「ルシウス、愛してる…愛してる…愛してる!」
ああ、奇妙な感覚は、そうだったんだ。
俺が…
俺が…
ミヤコをいとおしいと感じる気持ち
ヘリアスの心が、ルシウスの心と同調する。
「愛してる…」
ミヤコの声に、ルシウスはようやく目を開いた。




