最高の魔法使いミヤコ5
グラディアの結界が、最初に張られたのは、80年以上前のこと。
まだ幼かったルシウスが、リリアに言われるがまま張ったもの。
他の魔法使いたちは、戦いに備えてその結界を下地に幾重にも強化させていたのだが、それが仇になった。
ヘリアスは彼の力を使い、下地の結界を解いたのだ。
一番強固なそれが失われたら、あとは彼の身体に宿る力で破るのは、難しいことではなかった。
魔法使いたちが、戦いに集中している間に、ヘリアスがしていたことだ。
氷を溶かすように、結界がすうっと消えていく。
そして…
「船だと?!」
ユキが伝えた内容に、ローレンは愕然とした。
アールラニから一週間以上かかるグラディアまでの航路に、わずか数日でたどり着いたということは…
「つまり、書簡を送ってくるより前に、船を出していたんだね。最初から、この国を占領する気で」
感知の力を持つユキでさえ、真逆方向の海はまさか考えていなかった。
想定外だった。へリアスに騙されて気付けなかった。
考えられるのは、船が主力部隊。
あとの軍は、陽動だということだ。
「リュカ!私を王宮に連れて行け!」
ローレンが、怒りのままに叫んだ。
頷いたリュカが、王と、限界までの人数の兵を連れて翔ぼうとした。だが、ふと気配に振り返った。
「…ミヤコ?」
戦場跡にミヤコが佇んで、剣を掲げていた。
足元には、洗脳が解けないために拘束したままのアールラニ兵と、負傷した自国の兵が倒れていた。
ミヤコは、ふらつく身体をなんとか保ち、紅い瞳で再び剣先から力を放出した。
「何を…何をしてるんです!ミヤコ!」
リュカが咎めるように呼び掛けるが、彼女は止めなかった。
剣を手から離し、ミヤコはふらりと力なく座り込んだ。
「さ、先に、行って…あとから、いく、から。」
途切れそうになる意識の中、ミヤコが言った。
負傷していた兵たちが、身を起こした。
皆一様に、不思議そうな顔だった。
全ての兵の傷を癒し、ミヤコは自分の言った言葉を曲げなかった。




