最高の魔法使いミヤコ3
「一度に、2万人以上の人間を拘束するとは、並みの魔法使いじゃあ、なかなかできない。」
ヘリアスが周りを見ながら、ゆっくりとミヤコに近付いてきた。
息を乱したまま、足元の兵の剣を何とか取ろうと、彼女は腕を伸ばした。
ヘリアスが、その剣を簡単に魔法で弾いた。
「なるほど、お前は剣を媒体にすると魔法の力を引き出しやすいのか。」
「……く………」
ミヤコは片手を後ろに隠して、ローレンを守るように彼の所まで、じりじりと後退した。
拘束は、拘束をかけた魔法使いが解くしかない。または、かけた魔法使いより更に上の力を持つ魔法使いだけが解ける。
アールラニ兵が身動きできないのを、ヘリアスは横目で見ただけで、拘束を解くのを試すこともしなかった。
代わりにミヤコが、ヘリアスに拘束を試した。
同じ力を続けて5回放った。
僅かに動きを止めただけで、ヘリアスはその全部を弾いた。
「自惚れんな、ミヤコ。この身体にはもう、お前の拘束は効かないぜ」
「え?」
彼は、あきれたように笑って言った。
「耐性ができたんだよ。お前、こいつに何度その力を使った?お前の拘束には慣れっこなんだよ。」
言われて思い出して、顔を赤くする彼女を観察して、ヘリアスは純粋にもっとこの女の色んな表情を見てみたい欲求に駆られた。
力の消耗に、ふらつくミヤコを見て、咄嗟に彼女の腕をつかんだ。
細い手首に驚き、掴んだ手の力を緩めた。
なんだ…?
奇妙な感覚を覚えた。
以前、彼女に触れた時は平気だったのに
ミヤコは抵抗しなかった。
ヘリアスの瞳の更に奥まで見透かすように、強く瞳に力を込めて彼を見つめた。
「…ミ…」
間近で、ミヤコの顔を見ていたヘリアスは、胸がドキンと貫かれたように苦しくなった。
雨で濡れたままの、頬にかかる黒い髪。
強い光を失わない漆黒の瞳。
白い肌。
紅い唇。
彼女の姿を吸い寄せられるように見つめ、動けなくなった。
「夫を返して。」
艶やかな唇を動かし、ミヤコが言葉を紡いだ。
「…………」
へリアスは黙ったまま、その苦しさの理由を探していた。
わからない
これは何だ?
俺の感情か?
それともこの身体のか?
ひどく生々しくて、切なくて、甘くて…
これは…なんて言ったらいいのか…
ミヤコを掴んでいた手を、ヘリアスは、すっと放した。
彼女を傷つけることが、できなかった。
「あなたの負けよ!」
ミヤコの強い口調に、はっと我に返った。
「…負けだと?」
ヘリアスの後ろにリュカが立っていた。
手には雷撃がはぜている。
グラディアの兵たちが、剣を向けて更に周りを取り囲んでいる。
彼女は、後ろ手に隠した片手で、ぼんやりしているヘリアスをよそに、彼らの拘束を解いていたのだ。
「それはどうかな。……後ろを見てみろよ。まだ勝負はわからないからな」
ここまで来ても、まだ余裕な様子でヘリアスが言った。
リュカが遠くを見て驚いた顔をしたので、言葉で騙すつもりかと警戒していたミヤコも、思わず振り返った。
「あ!」
グラディアとルルカを覆っていた巨大な結界に破れ目が出来ていた。
皆が、そちらに注目している隙にヘリアスは翔んだ。
ちらりとミヤコの後ろ姿を見つめてから。




