最高の魔法使いミヤコ2
アールラニ軍が、大砲を構える。
だが、雨に濡れ火薬に火が付きにくく時間を取っている。
後ろから矢をつがえた隊が、前へ出る。
手慣れたこなしで、一斉に矢をグラディア軍に向けて放った。
飛んでくる矢が放物線を描き、ゆっくりと見えた。
多くの矢が兵たちの身体を貫くかと思われた。
一瞬のち、カキィンと金属音が続けて起こり、矢は全て結界に阻まれ落下していった。その有り様を、ローレンは落ち着いて見守っていた。
グラディア軍全てを覆う結界を、リュカとミヤコは作り上げていた。
リュカが、すっと手を上げ前へ払った。
雷撃が大地に炸裂し、地面を伝い、足元から敵にダメージを与えた。
前方にいた兵たちがひきつけたように倒れる。
「死んではいません…今のところは」
「ええ」
ミヤコが、剣を両手で持つ。
「全軍、進め!!」
ローレンが叫んだ。
横手に剣を持ったまま、ミヤコが近くなる敵を睨んだ。
「ところでミヤコ、剣が使えるのかい?」
「いいえ、全く」
言ってるそばから彼女は剣を振り上げ、さっと下ろした。
剣から魔法が発動し、次々と兵たちが拘束され倒れた。
「違う使い方ならできる!」
ミヤコが艶やかに笑った。
「ミヤコ!」
リュカの声を合図に、雷撃が彼女の剣に落とされた。
再び剣を下ろし、それを風の力と混ぜて放つ。
風圧で、兵たちが吹っ飛び、雷撃が更に周りの兵たちを倒して行く。
「ヘリアスを捕らえろ!奴だけを狙え!」
ローレンが命じる。
アールラニの兵達の間から、ふいにレオが現れた。
「レオ君!」
ミヤコの声に反応しない。
ぼんやりと無表情なレオが、片手を上げる。
真夏の暑さが嘘のようだった。
ぶわっと冷気が地を伝い、雨で濡れた地表を凍らす。
「なんだ、これは?!」
地に足がくっついて離れない。
馬が身動きが取れず倒れ込む。
足が凍る。
ミヤコが慌てて、雨を止めた。
そして、風をおこして冷気を跳ね返した。
跳ね返った冷気は、アールラニ軍を今度は凍らした。
両軍で動ける者たちの斬り合いが始まった。馬を下りてぬかるんだ草地を踏みしめ、泥だらけになる。
「いけない!」
敵兵たちが、ローレンの首を狙い次々と寄って来た。
王を守ろうとする兵達と敵兵達で戦いになる。
ローレンに強く結界を張り、ミヤコが周りの敵の動きを縛った。
リュカは、その間にレオの前に翔んだ。
紅い瞳でレオが睨む。
「無駄ですよ。私に退化は効きません。」
魔法の力では、レオより上のリュカは、涼しい顔でレオを拘束した。
動けない代わりに彼が冷気を放つ。
気づいたミヤコが、風を吹き上げ冷気を散らす。
「じっとしてなさい。」
リュカが、手加減して雷撃をレオに落とし、がくりと気絶した彼を確認する。
それから、王の方を見たリュカは苦い顔をした。
「何をしている!ミヤコ。」
ローレンの声を無視して、ミヤコは馬を飛び降りた。
傷の深い兵を見つけたのだ。
手をかざすし、傷を癒やしていく。
アールラニ兵が、ミヤコに気づき剣を降り下ろしたが、彼女の結界がそれを弾いた。
「私は、死なせないって言った!」
きっとミヤコがローレンを見て叫んだ。
「誰も死なずに終わる戦争があるか!」
剣で敵を薙ぎながら、王が怒鳴った。
「ある!私がそうする!」
長引けば、それだけ死者が出る。
それは避けなければ。
ミヤコは戦いの中心にいながら、目を閉じた。
両手で魔法使いの杖代わりの剣を持つ。
敵も味方も入り交じっている。
だから、全て…
つっと剣を高く掲げて、ありったけの力を注いだ。
息を吸い込む。
「全員、拘束!!」
ミヤコの叫びと同時に剣から放出された最大級の拘束の力が全てに行き渡る。
その平原にいた敵も味方も…
人々は、全員地に倒れた。
力の放出に耐えきれず、粉々になった剣を放し、ふらつきながらミヤコは一人立っていた。
前から近づいて来る、もう一人を見つめる。
「やはり最高の魔法使いはお前か、ミヤコ」
同じだけの力を分けあった、愛しい夫の姿をした男が笑った。




