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最高の魔法使いミヤコ


グラディア軍がいる場所は、国全体を覆う結界の外。国境に近い平原だ。


ここを通らねばアールラニ軍はグラディアに侵入できない。

ここが第一にして、最後の防衛。


「ローレン様、遅くなりました」


リュカが翔んで来ると、ローレンは彼の表情をさっと確認するかのように見た。


「ヘリアスの身体を捕らえることに成功しました。」

「ユキ、ユキは!?」


ミヤコが王の隣から身を乗り出した。


「皆無事です。」


リュカは、ミヤコの為に余計なことは言わなかった。


「良かった!」


ミヤコが、ほっとしてわずかに微笑んだ。


「あとで、誉めてやらないとな。」


そう言うや、ローレンが馬に乗る。

前方にアールラニの軍が遠く見えた。

グラディアの兵たちが、緊張して静かだ。


「大丈夫。勝てる。」


ローレンが、呟いた。

日が昇る。


「私を乗せて、陛下…いえ、ローレン。」


ミヤコが久しぶりに王の名を呼んだ。


「私の後ろに乗れ。でも、あとでルシウスには、君から断りをいれてくれよ。」


焼きもちを妬かれて、本当に焼かれたら、たまったもんじゃない。


冗談めかして言う王に、彼女は緊張した顔を和らげた。

王が手を引っ張ると、ミヤコは彼の後ろに乗り、呟いた。


「ああ、馬、高い…怖い。」

「え?」

「何でもないわ。」


ミヤコは王の腰に、遠慮がちに、振り落とされないように手を回した。


********


「くそっ!」


ヘリアスは、苛立たしげに舌打ちした。

身体を盗られるとは!

仕方ない、取り返すまでだ。取り合えず、遊んでから。

こちらにグラディア軍が集中しているのは、都合がいい。


馬に乗ったヘリアスは前を見た。

グラディアの魔法使いたちの小細工で、ちらほら脱走者は出たものの、この主力軍に比べ、グラディア軍は3分の1程度の数でしかない。


横に長く並んだグラディア軍の騎馬の中に、ローレン王の姿が見える。

彼の後ろにミヤコが乗っているのが、ヘリアスには、はっきり見えた。

男装し、長い髪を一つにまとめ、腰には剣まで提げている。


「似合わぬ格好だな…」


胸がざわざわと落ち着かない。


「大人しくしていろ、出てくるんじゃねえ…」


一人呟き、自分の胸を叩いた。


「怖いかい?」


ローレンが前方を向いたまま、ミヤコに聞いた。

彼女の目にも、夫の姿がはっきり見えた。


「…いいえ、嬉しいわ。もうすぐ逢えるのだから…」


ミヤコは、彼を見据えたまま言った。


「聞け!アールラニの兵たち!」


ローレンが魔法の力を借りて、声を響き渡らせる。

「お前たちの国の王はどうした?お前たちは、いつからその姿を見ていない?声を聞いていない?」


リュカから、アールラニの逃亡した兵たちを調べた報告を受け取った。


「お前たちの王は、もういない!そこにいる魔法使いヘリアスが、王を殺した!」


その言葉に、明らかに兵たちが動揺するのが見えた。

本当に奴が殺したかは、証拠がないので、わからない。

だが、カマかけでいい。


「我々と戦う大義名分は、もはやお前たちにはない!寛容な処遇をするから、投降しろ!」


ざわつき列を乱した兵たちが、ヘリアスを見た。


「ほ、本当ですか?!ヘリア…!」

「うるせえ!」


真相を聞こうとした一人の若い兵が、ヘリアスの火を受け、馬から落ちた。


「ぎゃあぎゃあと、うるさい奴等が!」


苛立つままに額に手をあて、もう片方の手をゆっくりと薙いだ。紅い瞳で、ヘリアスは洗脳の言葉を言った。


「アールラニの兵よ、戦え!グラディア軍をぶっ潰せ!」


ミヤコは、冷静に成り行きを見守った。

ざわついていたアールラニの兵たちが、急に静かになったのを見てとった。


「やはり洗脳しましたね。」


リュカの声に、ローレンが溜め息をついた。


「ダメか…」


やはり戦わねばならないか。


ミヤコは黙って、空を見上げた。

すらりと腰の鞘から剣を抜き、空に高く掲げた。

目を閉じる。


朝の光が差していたのに、みるみるうちに日が翳り、黒い雲が垂れこめた。

雷鳴が轟いた。

ぽつぽつと天から滴が降ってきた。

それが大粒になりザアザアと雨が降りだす。


頬を流れる滴を払い、ミヤコは前を見た。


「ローレン、リュカ、私は誰も死なせない。あなたたちにも殺させない…」

「……………」


二人は何も言わなかったが、ミヤコには決意があった。


「禍根は遺さない。この国を大国に導くなら…」

「ミヤコ。」


ローレンが、その言葉に目を見開いた。

君は、先を見ているのか?



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