決戦5
ヘリアスが、手の平に炎を揺らめかせる。
顔を背け目をつむっていたユキは、再び目を開き、男を紅い瞳で見た。
「父さん!…父さん!」
悲しむ。
自分が死んだら、父さん…
炎がユキを炙る。
結界を張って耐える。
逃げなきゃ、この人から!
必死で立ち上がり、ヒカルたちの元へ翔ぼうとした。
その隙をついて、炎がユキの肩を焼いた。
「ああっ!」
肩を押さえて、またしても転がった。
ヒカルが後ろから、ヘリアスに体当たりをかました。
「ユキ!」
彼女に駆け寄り、ヒカルは息を呑んだ。
肩に深く火傷を負い、ユキは痛みで呻いている。
彼女を抱き起こし、ヒカルは近付くヘリアスを振り向いた。
「急ぐからな。さっさと殺してやる。」
二人を見下ろして、焼き殺そうと、炎を叩きつけようとした。
「ヒ、ヒカ…!」
ヒカルは立ち向かおうとするユキを押さえて庇い、彼女をぎゅっと抱き締めた。どうしていいかわからず、ユキもヒカルを庇おうと抱き付く。
「ぐ、うっ!!」
呻いたのは、ヘリアスだった。
その苦しげな声に二人が驚いて、目を開けた。
ヘリアスは、自分の炎を自分の身体に向けて放った。
胸と腹に広く火傷を負い、彼は地面に手をついた。
痛みで荒く息をして、声を振り絞った。
「…行け、早くっ。」
痛みを堪えて、薄く目を開けて自分を見る彼に、ユキは茫然とした。
「…と、父さん?」
「逃げ、ろ…」
俯いて、再び言った。
「ユキ!今のうちだ!」
ヒカルと闇の手たちが、ユキを支えた。
ヘリアスの本体を一人が背負った。
「待って、父さんが…」
「いけません。ルシウス様が作ってくれた機会です。お早く!」
彼のあの状態を察するに、恐らく一時的にルシウスの意識が現れたに過ぎない。そう判断したオルドは、ユキを引っ張った。
目を瞑り、唇を噛みしめユキは翔んだ。一度振り返り、父に叫んだ。
「取り戻すから!」
待っていて、父さん。
母さんと共に、貴方を助け出すから。
「………く」
焼ける痛みに、呼吸を乱し倒れ込んだルシウスの身体は、しばらくして地面の砂を握りしめた。
「…ルシウス!お前!」
ヘリアスが怒りで、拳を大地に叩きつけた。
王宮に着き、ユキは倒れこんだ。
「うっ…痛い。」
火傷を負った肩を押さえて、痛みを堪える。
闇の手たちは、ヘリアスの身体を用意された場所まで運んで行った。
そこでリュカが待っていて、彼の身体を奪われないように封印する。
「ユキ!大丈夫かい?」
そう言いながら、ヒカルが水で濡らした布を当てた。
「…ヒカル、私はいいから自分のことを…」
魔法使いだから、傷はすぐに治るのだから。
「でも、痛いだろう?…心も…痛むだろう?」
ヒカルは、ユキの首についた締め付けられた手の跡を見た。
俯いて、ユキは泣いた。
「…痛い。」
座り込んで泣くユキを、しばらく見つめ、ヒカルはそうっと彼女の頭を片手で抱いてやった。
不思議だったが、ヒカルにはユキが普通の、ちょっぴり不器用な女の子にしか見えなかった。
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「…それで、王子様は、ユキのことを本当はどう思ってるの?」
少し前、レオはヒカルを庭に連れだし聞いてきた。
「どうって…」
ヒカルが、どう答えようか迷っていると、レオは不満そうに言った。
「あのさ普通、会って数日で王妃にするなんて言わないでしょ?もし、冗談でそういうこと言うならやめてくれない。彼女繊細だからさ。」
「僕は…ユキのこと好きです。」
ヒカルは、レオを真っ直ぐに見て言った。
「その言葉に責任持てるの?」
レオは、だるそうに芝生に座り言った。
「責任?」
意味がわからないヒカルに、レオは冷たく言った。
「あんた、人間だろ?ユキは魔法使いだから、あんたより遥かに長く生きる。わかるだろ?あんたは結局、好きだと勝手に言って、勝手に先に死ぬんだよ。ユキを勝手に一人残して…」
ヒカルは地面を見た。
そこまで考えが及ばなかった。
「…もしかして、レオさんは、ユキのこと…」
レオは溜め息をついて、頭を掻いた。
「少なくとも…俺は、あいつを一人にはしないよ。」
ヒカルは黙って、レオを見た。
本当に本気で添い遂げる気なら、ユキにはレオしかいない。
ただ、それは寿命の話で。
自分がどこまで本気なのか。
ヒカルはまだ、そこから考えなければならない。




