決戦3
王宮内は、意外なほど手薄だった。城壁を器用に登る闇の手達に、ヒカルは四苦八苦しながら付いていった。
回廊を歩いて来た兵を、暗がりに潜んでいたオルドが手を伸ばし、捕らえた。
「なっ…!」
喉元に、闇の手の一人の男が剣をぴたりと突きつけた。
「ヘリアスの身体は、どこだ?どこにある?」
黙ったままの兵に、剣を更にあてがう。
「し、知らない…本当だ。」
「嘘をつくな。」
ヒカルたちは、警戒して辺りに目を配っている。
「ほ、本当だ。ヘリアス様は、誰も信用されてはいない。あの方の身体は、あの方しか居場所を知らない。」
そこまで聞くと、オルドが兵のみぞおちを殴り、気絶させた。
「本当に知らないようだ。やはりユキ様に頼らざる得ない。」
部下が手際よく、気絶した兵を引きずり、死角になる物陰に隠す。
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ユキは、目を閉じ、一人集中していた。
「…感じない、どうしよう。」
ヘリアスの身体はあるはず。だが、隠された場所がわからない。
気配がない。
消すの力のせいか。
王宮にいるヒカルたちの気配は感知できる。
アールラニの兵たちの気配もわかる。
こめかみに手をあて、力を振り絞る。
「わからない…」
あせる気持ちがつのる。
「みんな、ごめん。気配を消していて、感知できない!」
オルドたちは、ユキの泣きそうな声を手のひらサイズの道具を通して聞いた。
「どうする?」
闇の手の女がオルドを見る。
「じき夜が明ける。急いでそれらしい所を手分けして探すか?」
もう一人の男が言う。
オルドはヒカルをちらっと見やった。
「殿下がおられる、無理はできない。見つからなければ、明るくなる前に撤収する。」
一点を見つめ、ヒカルは考える。
「…ユキ、教えて欲しいんだけど…」
ふと顔を上げたヒカルは、道具に顔を寄せた。
「…何?早く言って」
「ああ、落ち着いて。君は気配を感知できないって言ったよね。」
「だから?」
苛立つユキの声に構わず、ヒカルが聞く。
「…じゃあさ、王宮内で気配を一番感じない所を教えてよ。」
「あ!」
ユキが声を上げた。
闇の手たちが、ヒカルを一斉に見る。
「気配を消してるなら、そこでしょ?」
「なるほどね」
ユキは探ってみた。
王宮内の間取りも大体わかる。
「…地下、そう、地下だわ!」
「行こう!」
ヒカルが、皆を促し駆け出した。
ユキの声が誘導する。
幾つかの部屋の前を通り、奥へ奥へ進む。途中、出くわした兵たちを、オルドたちは慣れた様子で剣の柄や拳で気絶させた。
「殺さないんだ…」
ヒカルがほっとして言った。
「ミヤコ様に、命の危機を感じる時以外は、殺すなと命じられていますから。」
淡々とオルドが言った。
「つまり、まだ余裕ってことだ、ね!」
出くわした兵の急所を蹴り、ヒカルが言った。
最奥の王の間にたどり着いた。
扉の鍵を闇の手の一人が針金のようなものでこじ開けた。
ぎいっ、と扉が開く。
想像していたより殺風景な部屋だった。飾り気のない部屋。
壁際に玉座がぽつんとあるだけだ。
「このどこか下に、地下室があるのかい、ユキ?」
ヒカルが聞いたが、返事がない。
「ユキ?」
「何者だ?」
ユキは剣を突きつけられていた。
兵が三人彼女を取り囲んでいる。
「ここで何をしている。」
「……………」
暗がりの中で、ユキの髪に目を凝らした兵が気づいた。
「お前、まほぅ…!」
ユキが、ばっと兵たちを拘束する。
どさりと三人が倒れる。
「ぐう…」
あまりに拘束が強く、身体の内部にまで力が沁みる。
肺が…心臓が…止まり…
「あー!ごめん。」
ユキが慌てて、慎重に力を緩めた。
兵たちが汗を流して、荒く呼吸する。
「ごめん、苦しかったよね!私拘束苦手で…」
頻繁に使う力じゃないので、まだ加減がわからない。
「つい、殺しかけちゃうの、ごめんね。」
ユキは本当に困ったように、謝った。
母はかなり拘束が上手い。
ユキは知っている。
父が頻繁に、母に拘束を掛けられていることを。
いつでもどこでも愛情表現し過ぎて…堪えられないと判断した母は、その度に父を止めていた。
ヒカルたちは、床を調べた。
地下の扉のようなものは見当たらない。皆で剣の柄などで、床を叩いて音を確かめる。
冷たい石床を、コツコツと叩く音が響く。
勿論、玉座の真下も調べた。
でも、違うようだ。
まずいな。
時間が経っていく。
「ごめん、聞こえる?みんな。」
ユキの声が再びした。
「ユキ様?ご無事ですか?」
「はい。」
倒れた兵を見ながら、オルドに答える。
「ユキ、場所はここでいいのかい?」
焦りを隠してヒカルは聞いた。
「ええ、確かよ。」
「確かめたけど、わからないんだ。入り口の位置。」
「どこを確めたの?」
「どこって?床全部さ。」
壁に背を付け、ヒカルが答える。
「違う!壁よ、壁を探すの!」
「へ?」




