ゲーム2
「…ルー、ルシウス。」
微笑んだミヤコが、見上げて首に腕を絡ませてきた。
少しうつむくと、彼女の髪から、ふわりと優しい香りがした。
そっと彼女の背に手を回し、抱き締めた。
柔らかく暖かい身体。
愛しい温もり。
ダメだな、と思った。
彼女を抱き締めるために、この手はもう穢せない。
綺麗なミヤコが穢れないように。
赤ん坊のユキが泣く。
自分が取り上げたばかりの、産声をあげる娘を抱いて茫然とした。
小さくて…あまりに小さくて、手が震えた。
つん、と血の匂いがする娘の臍の緒を切り、産湯に入れた。
まさか、自分がこんなことをするとは誰が予想できた?
「ユキ…生まれてきてくれて、ありがとう。」
疲れた顔なのに、目を輝かせて、ミヤコが娘を見つめた。
タオルにくるんで、娘を彼女に抱かせてやった。
「ルー、ありがとう。」
ミヤコが、片手を伸ばし、自分の顔に触れた。
「ありがとう…」
涙ぐんで、ミヤコが微笑んだ。
「ミヤコ。」
彼女の手に手を重ねた。
それは、俺が言わねばならぬ言葉。
ミヤコ…
俺を見つけてくれた。
俺を救ってくれた。
俺を愛してくれた。
俺と、ずっと一緒にいると誓ってくれた。
俺の子を、産んでくれた。
「ルー、幸せ?」
ふふっ、と笑って、ミヤコが聞いた。
幸せ?
俺は幸せになっていいのか?
この俺が?
「ああ…」
「それなら、私も幸せ。」
「え?」
「あなたが幸せなら、私も幸せ。」
娘を抱いて微笑むミヤコが、眩しい。
ああ、なんて明るい光。
もう闇は見えない。
俺は幸せだから…
娘の頭を恐る恐る撫でた。
妻の頬に口づけた。
この光を絶対に穢してはいけない。守らねば。
俺がここにいるために…
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ぴくり、とヘリアスは目を開けた。
また何か、心理的な攻撃を受けたのだろう。
山のルートを通っていた軍は、もう使い物にならないようだ。
急に気配がばらばらになり、まとまりがなくなっている。
戦う前から尻尾を丸めて逃げるとは。
「所詮は囮…」
別にいい。
胸を押さえる。
眠りの中で、ルシウスの想いを感じていた。
じんわりと温かい想い。
「…愛する者がいるのは、難儀だな。だが、悪いな、ルシウス。」
額の髪を手でかき上げて、目を閉じた。
「俺は、この手を穢せるぞ。」




