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開戦4

暗い夜だ。

月が細くて消えそうだ。

一つ目の国を抜ける手前で野営をしている。


ヘリアスは部下と酒を飲んでいた。


「あ、なんだ?お前ら、もうへたってんのか?」


酔わない魔法使いは、笑った。

部下たちが、酔い潰れているのを愉快に見ている。


どいつもこいつも、弱い人間。

移動するのも、馬など使わなければならない。

あまりに遅くていらいらするぐらいだ。

酒を口に含み、気を落ち着かす。


こいつら人間を引き連れて動かすゲームの途中なのだ。

面倒でも、仕方ない。ゆっくりと楽しむぐらいでないと。


かがり火が、はぜる。

その火に照らされたヘリアスは、器に入った酒の揺れるのを見つめた。


早くこの身体を捨てなければ…

乗っ取りで分かった。


この男の、内に秘める激しい感情は厄介だ。

自分が何者か、解らなくなりそうだった。

こいつの感情に、逆に乗っ取られかねないほどに。

もう少しの辛抱だ。

自分自身の『消える』の力も大変役に立つが、こいつの洗脳も利用価値がある。

それに…。

本気で力を出すと、こいつかなり強い。

例え半分の力でも。


「いつから手を汚すのをためらうようになった?弱くなったルシウス…」


ふと顔を上げた。

また、この身体の持ち主が求める幻でも見たのかと思った。


静かだった闇に歌声が響いた。

伸びやかに柔らかく歌い上げる。


気付いた兵たちが次々と目を覚まし、歌声のする上空を見上げた。


すぐに実体ではないとわかった。

女の姿が透けて、向こうの闇が見える。

ヘリアスには、ルシウスの記憶で、これが道具を使った映像だと分かっている。


「ミヤコ…」


長い髪をまとめずに、艶やかな紅い衣装を着てミヤコが歌う。


微笑みながら、異世界の歌を異世界の言葉で歌う。

銀のイヤリングを両耳に揺らめかせている。


これは、過去に写し取った映像。

ふわりと、彼女の肩を流れる髪が揺れる。


とても神秘的で美しい光景だった。

兵たちが、吸い込まれるように見とれている。


ドキドキと鼓動が速くなり、ヘリアスは、苦しくなって長く息を吐いた。


「ヘリアス様!」


兵が指示を仰ぐ。


「…落ち着け、これは幻のようなものだ。」


何をする気だ?

特にどうこうする気にもなれず、聞き入る。


映像は山道を迂回する軍の前にも、同時に流れていた。

映像のミヤコが、あまりに楽しそうに歌っているので、兵たちは弓を手にしたまま、矢を放てないでいた。


一つの歌を歌い終った。

ミヤコは、軽くお辞儀をし、すうっと映像が消えた。


「なんだ?」


これで終わりか?訳がわからない。

茫然と兵たちが空を見ていると、再び映像が流れた。

先ほどと同じ格好のミヤコが、兵たちを見下ろすように顔を下に向けている。

実際には見ているわけではない。

同時に二ヶ所で流れる映像は、やはり過去に写したものだろう。


「アールラニの兵たちに告ぐ。」


歌を歌っていた時とは違う。

打って変わった固い声だった。


「私は、この世界最高の魔法使いミヤコ。」


表情も厳しく、冷ややかな話し方。


「グラディア=ルルカの代表として、そなたたちに勧告します。」


片方のイヤリングだけが光る。


「今すぐ武器を捨て、自国へ帰りなさい。さもなければ…」


わざと冷たく唇を歪めて言った。


「私達魔法使いが、あなたたちを皆殺しにしてあげます…」


ヘリアスが、ははっ、と笑った。


「誰が、何だって?」

「投降する者は、命を保障して、家族の元へ帰ることを許します。私達は無駄な殺生は好みません…」


少し目を伏せ、ミヤコが言葉を継いだ。


「ただし、我が国を脅かそうとする者には、私達は容赦しません。これは最初にして最後の警告です。」


すっと紅く瞳を光らせ、ミヤコがよく通る声で、高らかに言った。


「刃向かう者には、死を!」


言うが否や、映像の彼女の後ろに、稲妻が走った。

ドオン!!

と地鳴りがして雷が落ちた。

兵たちが悲鳴を上げた。


「ただの脅しだ!落ち着け!」


ヘリアスのいる、アールラニの主要な部隊で編成された軍は、さすがに魔法使いの力に慣れていた。

動揺したものの、しばらくすると落ち着きを取り戻したように見えた。


雷が落ちたところで、映像は途絶えた。


「余興で、俺たちをもてなしているのか?」


眉を寄せたヘリアスは、ふと気になって山道を通る方の軍の野営地に翔んだ。


「…なるほど、ね。」


一万いた兵士の数が、減っている。

残っているのは、四千人ほどか。

足元に弓が転がる。

余程驚いたのか、かがり火が一部倒れ、焼けた薪と灰が散らばる。


「ヘリアス様…も、申し訳ありませぬ。逃げたのは、ほとんど他国から徴集した兵でして…」


隊長らしき男が、震えながら言うのを突き飛ばす。


侵略して支配下に置いた他国の兵たちは、精神的にも弱い。

戦う意欲が少ない。

強制的に、戦うよう強いているだけだから。

稲妻が合図。

彼らの帰りたいという気持ちを後押ししたまでだった。


バキッと、足元の弓を踏みつけて、ヘリアスは唇を歪めた。



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