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開戦

「母さん、元の世界にいたら…普通に暮らせたのかもね。」


どこか悲しげな母の寝顔。

まとめた長い髪を、指で軽く梳いてあげた。


「ここにいることを後悔してたら、自分で戻るだろう?今こんな大変な仕事を自分から引き受けたのは、ここにいたいからじゃないのかい?この世界で、君のお父さんといたいからじゃないのかい?」


ヒカルはいつも的を得た答えを引き出す。


「うん、うん…そうだね。」


ユキは母の顔を見ていたが、ふとヒカルに向き直った。


「そうだ、あなたの名前って母が付けたんだってね。」

「変わった名前だって自分で思っていたけど、もしかして向こうの世界の言葉かい?」

「意味聞いてない?」


ヒカルは首を振って、代わりに聞いた。


「君の名前の意味は?」


ユキは少し笑った。

意味を聞いてから、この名前が好きだった。


「ユキは、幸せの意味。私が長く生きる魔法使いだから、辛いことがたくさんあっても、最後には幸せになれるようにって願いがこもってるの。」

「いい名じゃないか。」


ヒカルが感心したように言った。

今はその願い、国中で叶えばいい。


************


レオの作ったピストル型の道具を、斥候が空に向けて打った。進軍が確認されたのだ。


肉眼では何も見えない。

空気を振動させる魔法が発動した。


王宮内にいた魔法使いたちが、一斉に気付く。


「アールラニが、進軍を開始しました。」


リュカから伝えられたローレンが、グラディア王の名の元、開戦を宣言した。

手はず通りに兵が動き出す。


「ユキ、わかるか?」


レオに言われ、ユキが感知の力を使う。

地図を前に集中する。


南のアールラニはグラディアとの間に2つほど他国を挟んだ距離にある。


その2つの国は、グラディアの友好国だが、アールラニと対立することを恐れ、兵が通ることを黙認するだろう。


グラディアとルルカの北は海。

船で遠回りしたら2週間はかかるから、疲弊せずに短距離で進軍するなら、陸を行くだろう。


ユキがつっと指を動かす。


「ここと、ここ。数は両方でおよそ3万。」

「3万!」


軍の隊長たちが、動揺する。

こちらは正規の兵士で6千人ほどだ。


「……………」

ローレンが地図を見つめて考える。


戦いは、数ではない。

だが、戦いの経験の無い者たちには、数の多さだけでも不利を感じて動揺するだろう。


「……………」


ミヤコが、周りをちらりと見てから、再びユキの指先を追う。


軍が一つめの国に入ったところだ。

街道沿いを真っ直ぐ次の国まで進むルートを通る軍と、迂回して山道を進む軍の2つがあるようだ。


「予想通りのルートですね。」


今までのアールラニの他国への侵略の記録では、下手に遠回りをしたりなどの、面倒なことは一切していない。

強力な武器とおそらく魔法に物を言わせて、真っ向勝負を仕掛けてきている。

ヘリアスが3万もの兵を一気に翔ばすのは、記録からするとやはり無理なようだ。


基本的に馬に頼って進んできている。

問題は、彼がどちらのルートにいるかだ。


「ユキ、ヘリアスがどちらにいるかはっきり分かる?」

「多分、こっちの2万の軍のほうね。」


地図の街道沿いのルートを指差しユキが言った。


「そう。」


ミヤコがふっ、と笑った。


「ミヤコ、この状況が笑えるのかい?」


ローレンがいぶかしんで聞いた。


「いえ、良かったと思って。ヘリアスは姑息な真似をしないようだから。」


これなら、私たちのすることが通用するかもしれない。


ユキは冷たい笑みを浮かべるミヤコに驚いた。

氷のように、美しくも恐い笑み。

ルシウスといる時は、こんな顔したことなどないのに。

このまま変わってしまうのではと、不安になった。

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