裏切りと誓い6
グラディア王宮の回廊に、リュカと共にミヤコは降り立った。
「ローレン様に報告して来ます。ミヤコ、あなたは…」
「母さん!」
元の姿に戻ったユキが、気配に気付いて駆けてきた。
「リュカ、あとで必ず行くわ。」
憔悴した顔で小さく告げると、近付いてきたユキを見た。
「ユキ…」
ぎゅっと娘を抱き締める。
「か、母さん?」
「…………」
泣いてはいない。
じっと目を開けたまま、ユキの肩に額を当て、ミヤコは無言で娘を抱き締めている。
「父さんに、なにかあったの?」
「身体を乗っ取られたわ。」
「え!」
娘の短い髪を撫でる。
「大丈夫…すぐに帰ってくるわ。」
感情を殺してミヤコは呟いた。
*************
王宮内の慌ただしさに、ヒカルは戸惑った。
「ついに、戦争になるのか?」
急遽、国中の兵の召集がかかり、鎧に身を固めた者たちが行き交う。2日前から待機命令が出ていた為、迅速に行動が為されていた。
「ヒカル、来なさい。」
ローレンが多くの者を引き連れて、こちらを見た。
「こんなことになってすまないが、私の息子としてお前も軍議に顔を出しておくれ。」
緊張で、どきんどきんと心臓が鳴る。
平民として育った自分に何ができるというのだろう。ほんの数日で、まさかこんなことになるなんて。でも……
「…はい。父上。」
険しい顔のローレンが、ふっと笑った。
Γ大丈夫だ。お前には、必要最低限の学は学ばせている。王立学園で政治経済学を三位の成績で修めたのは誰だ?」
Γあ、え?!知って…」
Γ特別メニューを学ばせて、すまないね。」
微かにイタズラっぽい目を向けて、直ぐにローレンは歩き出した。呆気に取られていたヒカルだったが、一つ瞬きをすると父の後ろに従った。
自分が平民でも、王族でも今は関係ない。身の上を嘆いている暇はない。自分はこの国が好きだ。だから、守らなければ。
**********
「ルシウスが、ヘリアスに乗っ取られているなら、洗脳の力が厄介だ。これに対処しなければならない。」
ローレンが呟く。
リュカが調査書類を見ながら話す。
「全軍に結界を張る必要があります。それに、アールラニの得意とする火薬を使う武器は、魔法と同じような威力があります。それをどう防ぐか…」
「陛下。」
リュカの声に割って入り、やって来たミヤコがさっとローレンの前でひざまづく。
「私に考えがあります。どうかお聞き下さい。」
「ミヤコ」
すっとローレンを見据え、ミヤコは静かに?はっきりと告げた。
「グラディアもルルカもアールラニの人たちも、みんなが死ぬことのない戦争を仕掛けます。そして必ず、この国を勝たせます…絶対に!」
その場にいた者全てが、彼女の気迫に圧された。
「ミヤコ様、だよね…」
ヒカルが小さく聞いた。
優しげな雰囲気が消え、強く光る瞳。
長い黒髪を一つにくくり背中に垂らしている。
紅も差さないのに紅い唇が動く。
「………今は女を捨てる。だから…」
再び男装したミヤコが黒い瞳で、リュカを見た。
「リュカ、まだ私を最高の魔法使いとして認めてくれる?」
目を伏せ、リュカは静かに答えた。彼女の思惑に乗ってやっても損はない。
「ええ、偉大なる魔法使いミヤコ。」
それを聞き、ミヤコが立ち上がり、挑戦的に微笑んだ。
「ありがとう…では、その位にふさわしいよう、この最高の魔法使いミヤコが、目にものみせて差し上げましょう!」
Γ………ミヤコ」
痛々しげに目を細める王に、ミヤコは願い出た。
Γ私に軍を動かす権限をお与え下さい、陛下。」
有無を言わさない気迫に、ローレンはしばし黙った。考えを巡らせるように、一度目を落としてから口を開いた。
Γ魔法使いミヤコ、そなたを将軍として軍の全権を任す!」
Γはい。お任せ下さい、陛下。」
静まる部屋で、ミヤコは顔を上げて周りを見渡した。
演じてやる。
向うの世界の知識を活かし、最高の魔法使いらしく振る舞って、そして絶対に勝つ。
全ては、ルシウスを取り戻すために。
「アールラニに、ヘリアスに一泡吹かせてやります。」
何でもないように言う彼女に、ローレンとリュカは、胸が震えるのを感じた。その言葉が、声音に反して本気だと知っているから。
ミヤコの気迫に、この場の人びとの目の色が変わる。
これは、他国の侵略からの防衛ではない。天下を取る一歩だと、胸の高鳴りが知らせた。
異世界から来た女が、世界を変える。




