裏切りと誓い5
アールラニの王宮には、既に兵が集結していた。
「今帰った。」
ヘリアスが本体の身体を担いで、石畳に降り立つ。
乗っ取りの力で、姿が違うことを理解しているらしく、一斉に兵が頭を垂れた。
本体の身体を兵の一人に預けると、ずらりと並んだ彼らに声高に宣言した。
「交渉は決裂した。グラディア及びルルカに進軍する!」
どよめきが起こる。戸惑いではない。血気盛んな兵達の嬉々とした声がほとんどだった。
戦慣れした彼らは、雰囲気に呑まれて、既に興奮状態だった。
「なに、たいしたことない。最高の魔法使いの片割れは今や俺だ。格下の魔法使いなど及ばぬ。」
「ヘリアス様!」
幾多の国々を攻め陥としたヘリアスは、この国の将軍で戦神だ。戦いの中、魔法を使うこともあったが、今までヘリアスが魔法使いだと気付かれなかったのは、誰も逃さず、或いは殺して、脅して、情報を操作していたからにすぎない。あくまで王の背後を隠れ蓑にしていたのもあるが。
恐れ敬われる気分はいいものだ。
「武器の用意と輸送ラインが整い次第進軍する。急げよ。」
言い置いて、宮殿を足音高く歩いて行く。すれ違う者は、皆怯えたように端に寄り縮こまる。それを鼻で嗤い、奥へと進む。
最奥の王の間の扉に手をかける。
ギイッと軋んだ音と共に開いた扉の先には、誰もいない。
豪奢な玉座があるのみだ。
ヘリアスは迷うことなく、どかっと玉座に座り俯いた。
今や王はいない。
継ぐものもいない。
正体を明かしたヘリアスには、彼らは不要だった。
俺が、<消した>
誰もそれに気付かない。王の間は、不可侵。人間不信だった王は、もともと人を寄せ付けなかったし、姿を人前にさらすことを嫌っていたからだ。
そんな王は、突如現れた魔法使いのヘリアスを、人間ではないということで重用し、挙げ句に政務も任せてしまった。
ヘリアスだけが、王の代弁者だと思われている。それに皆、馴れてしまっていた。
俯いていたヘリアスは、笑いが堪えられなくなり、一人くつくつと喉を鳴らした。
「…………ああ、胸がじりじりと焦げ付くようだ。愛しいミヤコ、お前を早く俺のものにしたい。」
ルシウスの身体のヘリアスは、胸を押さえた。
「どうだ、ルシウス?苦しいだろう?愛しい女が傷つくのは、辛いだろ?もっともっと苦しめよ。そこで見ていろ。まだまだ苦しませ足りないんだからな!」
ずきずきと痛みを伴う胸を押さえたまま、ヘリアスは笑い続けた。




