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裏切りと誓い3

時間にして、ほんの数分。途方に暮れていたミヤコは、自分の両頬をぺしっと叩いた。深呼吸をして落ち着こうとした。

ルシウスの身体が、本人の意思と関係なく勝手に使われているのを見るのは辛かった。


なんとかしなければ…


ショックから抜け出せず、鈍い思考の中、必死に考えを巡らす。


足元にヘリアスの本体の身体が倒れている。

その上空でリュカと、ルシウスの身体のヘリアスが闘っている。

リュカの攻撃をかわし、両手を広げたヘリアスが数多の炎を一斉にぶつける。

リュカの結界が炎を弾く。


「やっぱり…」


それを見ていたミヤコは気付いた。

乗っ取ったヘリアスは、ルシウスの本来持つ魔法しか使えないみたいだ。


すっとミヤコは両手を二人に向けた。目を閉じて集中し、最大の力を込める。

手をくっと拳に変える。


「拘束!!」


ガクン、と二人が同時に人形のように力を失い空から墜ちてきた。


「…ぐっ」


ヘリアスが、地面にうつ伏せになって呻いた。


「…なぜ、わ、たしまで」


同じように倒れたリュカが、不満を述べる。


「ごめんなさい、ルーを傷つけて欲しくないから。」


ヘリアスが、くくっと低く笑った。


「参ったな。女にこんなふうにされたのは、初めてだ。」


鳥肌を立てて、ミヤコは肩を抱いた。

気を取り直し、ヘリアスの脱け殻を浮かせて、彼自身の目の前に運んだ。


「なんだ?」

「ルーの身体を今すぐ返して。さもないとあなたの身体を破壊する。」


感情を押さえて、冷たく言う。


「はあ?何言って…」


ミヤコの風に、ヘリアスの脱け殻の腕に細く切り傷ができる。


「はったりじゃない。」

「おいおい!」


足を切り裂く。

血を流す自分の身体に、痛そうに顔をしかめて、ヘリアスは口を開いた。


「そのへんにしとけ!俺の身体が死ねば、俺はずっとお前の夫の身体を手放せないぞ。」

「…っ!」


特殊な力を持つヘリアスは、その力を使うためには、自分の身体でなければそれを行使できないはず。だから、自身の身体が惜しいはずだと思ったのだが……


「やめとけ、お前が困るぞ。」


ミヤコが、脱け殻に向けて手を振りかざす。

だが、そのまま動きを止めて、やがてがくりと手を下ろした。

ポロポロと涙を流し、吐き捨てるように叫んだ。


「…悔しい!」

「ミヤコ!破壊しなさい!」


リュカが苛立って鋭く叫ぶ。

苦しそうな顔で首を振るミヤコに、ヘリアスが嗤った。


「そうだ。いい女だ、ミヤコ。」


唇を噛みしめ、きっと睨み、ミヤコは食い下がった。


「ルーを返して。さもないと、このままあなたを拘束し続けるわ!」


「それは…無理な話だなあっ!」


言うが否や、突然ヘリアスが拘束を解いた。


「きゃあっ!」


驚くミヤコが、防御する間はなかった。ヘリアスは、小柄な彼女の肩を捕まえると、強引に引き寄せた。

そして、無理矢理口づけをした。


「うっ…!」


拳で男の胸を叩く。でも、びくともしない。噛みついて抗おうとすれば、逆に噛みつくように唇を奪われた。必死に抵抗するばするほどに、むしろ、それを楽しんでいるかのように、ヘリアスはミヤコの唇を弄んだ。


Γんっ…!んんー!」


こんな…こんなキス、嫌だ!嫌だ!

イヤだ……ルー


手加減しない強い力でミヤコを抱いて、ヘリアスがようやく唇を離した。


「気に入った。力をもらうのは、二の次でもいい。なあ、ミヤコ…」

「い、いや、離し…!」

「ルシウスを返してやってもいい。」


痣ができるほどに、ミヤコの抵抗する手首を片手で強く纏め上げて、ヘリアスが彼女に顔を近付けたまま話す。


「え?!」

「その代わり、俺の本体の子を産め。」


悪寒がした。


Γい、や、イヤだ!」


自分の手首を掴む、馴染んだルシウスの手が悲しかった。


「俺は、この特殊な力を受け継ぐにふさわしい、自分の器が欲しい。勿論、そのためには魔法使いの女との間にできた子でないと困る。そして、乗っ取りの力で子の身体を自分のものとして生きる。寿命が尽きたら、その子の子の身体を繰り返し乗っ取りながら、永久に時代を渡り歩く。そして、多くの魔法使いの力を取り込みながら、自分の自由になる世界を創る。壮大だろ?だから、お前が必要だ。」


「………………」


抵抗していたミヤコは、それを聞くと力を抜いた。

黙って俯いていたが、しばらくするとゆっくりと顔を上げた。

ヘリアスである、ルシウスの瞳を見つめた。


「ルー、愛してるわ。あなたがいないと寂しい…恋しいわ。」


そう言って、辛そうに微笑んだ。


「誰に言ってんだ?」


ヘリアスの瞳が揺れた。急に息が詰まり、彼が思わず胸を押さえるのを、ミヤコは見つめた。


「…………ヘリアス、勝負しましょう。」


銀のイヤリングを片方だけ外しながら、彼女が言った。


「粘るな…」

「アールラニとグラディアとの戦いは、避けられないのかもしれない。私は専属魔法使いとして、前線に出る。そして、もし私の国が勝ったら、ルーを解放して。私たち全ての魔法使いをあきらめて。」


耐えるように小さく震えるミヤコを見ながら、ヘリアスは彼女の髪を引っ張って、顔を近付け笑って聞いた。


「もし、アールラニが勝ったら?」

「好きにしたらいい。こ、子でも、力でも与えてやるわ!ただし、その時はルーの身体は要らないはずだから、乗っ取りをやめたら彼を解放して!」


「そんな甘いわけないだろ?その時は、ルシウスをぶっ殺して、洗脳の力をいただく。それでいいだろ?」

「つっ…!」


ミヤコをぐっと抱き締め、ヘリアスが声を出して笑った。


「ははっ!楽しそうじゃないか?その勝負乗ってやるよ!」

「う…くるしっ…」


抱き締め殺されるかと思う力に、ミヤコが呻いた。


「おっと…」


気付いて、力を弱めたヘリアスの腕からなんとか抜け出し距離を取ったミヤコは、イヤリングを彼に差し出した。


「約束の証よ。持っていて。」


睨むミヤコに、ヘリアスがにっと笑って手を出した。

彼女からイヤリングを受け取ると、ちらっとそれを見てから後ろ手に遠くへ放り投げた。

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