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裏切りと誓い2

Γルー!ルー!」


えぐれた山肌。

炎の欠片が燻り、緑が失われた地表。

気配を追って来たミヤコは闘いの跡に降り立った。


不気味に静かだった。

風に舞い散る砂煙に目をこらす。

少し前方にリュカが倒れているのに気付いた。


「リュカ!」


近くに寄って、気絶しているだけなのを確認する。

ミヤコの一つにくくった長い髪が風に波打つ。

見渡して、遠くに人影を見つける。


「ルー!」


ルシウスとヘリアスが、並ぶようにして倒れている。

どちらも傷だらけだが、二人の傷は、だいぶ回復してきている。

倒れてから少し時間が経っているのか。

ミヤコは座り込んで、ルシウスの腹の火傷を治すため手をかざした。


ルシウスが呻いた。

ゆっくりと目を開ける。


「良かった」


ミヤコが、彼の顔に手を伸ばし、ぴたっと途中でその手を止めた。夫の顔を食い入るように見つめた。


「ああ…ミヤコか…」


にっと笑う彼を見て、衝撃が走った。

彼がミヤコの腕を掴んで、自分の方に強く引っ張る。

ミヤコはバランスを崩し、彼の胸に倒れ込んだ。


「あっ…!」

「なあ…ミヤコ。」


彼女を両腕に捕らえて、口の端を上げ、ルシウスだった男が見下ろす。


「俺は力が足りない。お前が、お前の力が欲しい…」

「……あ…………」


ミヤコの顎を持って上向かせ、彼女の首筋に顔を近付ける。

ぞくり、とした。

冷たい唇を首に感じた。


「やめてっ!」


思いっきり突っぱねたら、ミヤコの方が後ろに尻餅をついた。そのままの状態で後退る。


「あ、あなた、ルーじゃない。ルーじゃ、ないわ…」


言葉と共に、心にゆっくりと重りがのし掛かった。

男がふいにうつむいて、低く笑った。


「やっぱ、ばれたか…」


手を伸ばし、ミヤコの足をガシッと掴んだ。


「きゃ!」

「逃がさねえよ。」


そのままゆっくり這って、ミヤコを追い詰める。

手が、彼女のふくらはぎを這い、膝を伝うのにミヤコは息を呑んだ。


「…やっ!」


彼女が結界を張る。

片手ですぐにそれを破り、男がミヤコに顔を近付けた。


「ふうん、男装もいいが…この格好のほうがそそられる。」


品定めのように自分を見る彼の表情に、深い悲しみを覚えた。


「ヘリアス、あの人を…夫を、返して」

「無理だね、ルシウスの意識は、俺がねじ伏せて寝かせてやってる。」


掴まれた足を振りほどこうとするが、強い力で動けない。

抵抗できない。

魔法が使えない。

ルーの身体を傷つけられない。


「返して!…お願いだから…」

「はっ!お願い?」


腕を掴まれ、押し倒された。


「離して!」

「お願いか…それはいい。ルシウスを返して欲しければ、俺のものになれ。俺に力を与えろ。」


見下ろす彼は見慣れた姿なのに、その表情は、初めて見たような得体の知れない恐さがあった。

ルーの姿なのに…


涙が溢れた。


私を見る眼差しが違う。

私に向ける言葉が違う。

私に触れる手の力が違う。

私に注ぐ唇が違う。

私を包む熱が、ない。


「……ルー、起きて」


泣いているミヤコを見下ろしていたヘリアスは、胸をさすった。

チクチクする。

乗っ取りのせいだろう。しばらく馴染むまで、よくあることだ。


「そうだ。なあ、面白いことを教えてやるよ。この『乗っ取り』の力は、身体を乗っ取るだけじゃなく…記憶や、その時に心が感じたことなんかも分かってしまうんだぜ。」

「え…」


ははっとヘリアスが笑う。


「こいつ、相当重症だな。お前のことで頭がいっぱいでやんの。ったく、いつまで青春してんだ。何百年も生きる魔法使いが。」

「………ルー」


ヘリアスがミヤコに息が届く距離に顔を寄せる。

思わず顔を逸らした彼女の耳元に囁く。


「なあ、ミヤコ、お前のこともよく知ってるぞ。お前が何が好きか、何が嫌いか、いつもこいつに言ってる言葉も…」

「やめて」


彼女の耳に冷たい唇を当てて、ヘリアスが重ねて告げる。


「…お前が、ルシウスにどんなに愛されてるかも…」


こんな奴に…!

まるで二人だけの記憶を汚されたようで、怒りと屈辱で身体が震えた。


「…やめて!」


ヘリアスがミヤコの唇を奪おうとした。


「いやっ」


ミヤコの叫びに反応するように、ヘリアスが動きを止めた。


「ちっ…」


舌打ちして、胸を押さえる。

ずきりと何かが刺さったように痛んだ。


「こいつ…抵抗しやがって…」


彼から離れたミヤコは、その様子に気付いた。

彼は、完全に眠ってるわけじゃない。

ヘリアスの意識の下から、今の状況を見ているのかもしれない。


その時、上空の影にヘリアスが気づいて、顔を上げた。

瞬時に雷撃の攻撃を避ける。

意識を取り戻したリュカが、容赦なく攻撃を仕掛けるのを、ヘリアスは身軽に避けた。


「リュカ、やめて!」


ルシウスの身体を案じるミヤコにリュカは冷たく言った。


「私は、あなたと違って彼がルシウスの身体でも殺せます。」


ミヤコは口元を手で隠し、彼らを茫然と見守るしかなかった。

ルーが、いない。


その事実で、頭が真っ白だった。

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