魔法使いの使者6
「…あ、なるほどね。」
ヒカルが気づいたように頷く。
そして、ユキに声を潜めて言った。
「君がなぜその歳まで独身なのかわかった。理想が高すぎるんだよ。」
突然の発言にユキが咳き込んだ。
「な、なに、突然…」
ヒカルがミヤコとルシウスに背中を向けて、ユキの肩にとん、と手を置いた。
「きゃっ」
驚くユキに、ヒカルがにっこりした。
「君…男の人と付き合ったこともないでしょ?」
「な、な…」
真っ赤になるユキをヒカルが観察する。
「やっぱりね。」
「あ、会って2日目のあなたに、何がわかるの?」
「わかるさ。君は自分が思うより、単純な女の子だよ。すぐ顔に出る。」
ぼそぼそと聞かれないように小声で話す。
「な、な…」
「いいかい、君はあのラブラブなご両親をずっと見て育ったわけだよ。その上二人とも、イケメンと美女ときたら、君の理想も高くなるってもんだろ。君は自然、男に高い理想を求めすぎているんだよ。」
こそこそと話すユキとヒカルに聞き耳を立てていたミヤコがにやけた。
「うふふ、美女って…ヒカル君ったら、照れるー」
「…論点はそこじゃないだろ。」
「ルー、聞き耳立てすぎ。」
ぱっとユキが二人を振り返った。
ミヤコとルーは素知らぬ顔でお茶を飲む。
き、聴こえてる、やっぱり…
「ちょっと、その話もうやめてよう。」
気付かず、ヒカルはいたって真面目にユキを諭す。
「お、逃げるのかい?僕より年上の大人な君が?ね、君は今まで好きな人とかいなかったの?」
ミヤコとルシウスの肩がぴくりと動いた。
「な、なんで、あなたにそこまで話さないといけないのようー」
「これでも僕は相談に乗ってあげてるんだよ。」
Γも、もお!」
ユキはヒカルの手を掴むと、だっと逃げ出した。
「あ、ユキー!」
ミヤコの悔しそうな声を背に、ユキは手を振った。
「ご、ご馳走さまー、また作ってねー。」
「あー、行っちゃった。」
ユキも魔法使いだ。遠くだと、聞こえないようにガードする。
「なるほどな。あのガキの言うことは一理ある。ただこればかりは、どうしようもないな。」
「何が?」
首を傾げるミヤコに、ルシウスが素早く口づけする。
「…こういうこと。」
「う、うん。」
頬染める妻を抱き寄せて、ルシウスは呟いた。
「それに問題は、相手が人か魔法使いかにもよるだろ。」
「魔法使いも人間も、好きになるのに関係ないよ。」
Γまあな。」
過去に思いを馳せるミヤコを見つめ、ルシウスはふっと笑った。
Γところでルー、ヒカルと面と向かって話したの初めてじゃない?良かったね、ずっと隠れて守ってきたんだから、嬉し…んっ」
顔を覗き込んで、楽しそうに言う妻の顎を掴んだ。真ん丸く目を見開く彼女の唇に唇を寄せて囁く。
Γ……その口、封じてやる。」
*************
「す、好きな人ぐらいいたもの。」
「え、誰?」
王宮内の広い螺旋階段に座り込んで、ユキは結局ヒカルの尋問に乗せられていた。
「…リュカ」
「ぶっ、えらい年の差だね。なんで好きだった?」
頬に手を当て、ユキはぼそぼそと言った。
「だ、だって、理知的で、大人で、いつも冷静だし、もの静かで、いつもなんだかさりげなく守ってくれているようで…」
「今は?」
首を振る。
「ただの憧れだったの。それに、リュカは私の先生だけど、その、昔私の両親を殺しかけた人だと聞いて…。」
「ふ、複雑なんだね…」
「…」
お互い沈黙して、手元を見ている。
「…ちち、陛下が明日君の縁談断るそうだよ。」
「そうみたいね。でも断って大丈夫かな…」
不安な顔のユキを、ヒカルがじっと見る。
「ねえ、ユキ。僕の妃にならないかい?」
「はいーー!?」
驚き過ぎて、立ち上がった拍子に、階段を三段転げ落ちた。
「ユ、ユキー!」
「痛い…」
慌てて、ヒカルがユキを抱き起こす。
「ごめんよ、大丈夫かい!」
「ひっ!」
警戒するユキに、両手をあげる。
「いや、あのね、縁談断るには、それなりの理由があったほうがいいかなあ、と思ってさ。」
「私、あなた好きじゃない。年下だし…」
ヒカルが挨拶でもするようにさらりと答えた。
「僕は、君が好きだよ。年上でもね。」
「なな、な、なー」
言葉にならずに、鯉のようにぱくぱくするユキを見て言った。
「妃は、別に芝居でいいんだよ。」
「な、なんで…」
じりじりと後ずさりする彼女に、ヒカルが驚かさないようにゆっくり近づく。
「君は多分自分が思っているより、ずっと美人だよ。それに、その…可愛いなあ、と思って…」
ぱっとユキは、走って逃げ出した。
もう無理ー!!
ユキの背後から、ヒカルの声だけが追いかけた。
「もしかして、人間じゃダメなのかいー!?」
ダメも何も…知り合って2日じゃないのー!馬鹿ー!
と、ユキは思った。




