解放2
王宮には幾つか門がある。南の正門、西門、東門。
そのうちの西門を出た所に国営の医療施設がある。病院と言ってもいいだろう。二階建ての大きな建物だ。
ミヤコはそこに久しぶりに顔を出した。
「これは、ミヤコ様」
親しげに医者や看護士が声を掛けて、丁寧に挨拶をする。
施設を建てたのは国だが、建てることを進言したのはミヤコだ。創設当時は、頻繁に見に来ていた。もう20年ほどになるだろうか。
ミヤコには、病気の予防や衛生管理といった基礎的な知識しかなかったが、それでも役立つほど、この世界は医療が遅れていた。
だが、 昔と比べて随分進んだ。薬学は特に独自に進み、専門医が増えた。
国が資金を出し後ろ楯になり、設備と医療体制を整えたことが大きな進歩になった。
勿論それでもミヤコは、あちらの世界にはおよびもつかないことを知っている。
レントゲン、CTなどの医療機器がないのだから。
それはつまり、向こうの世界では助かる命が、ここでは救えないことを意味する。
マナがそうだったかもしれないように。
「こんにちは。苦しくはないですか?」
入院患者を見て回り、声をかける。
驚いたり、喜んでくれたり、娘の誕生を祝福してくれる人々に応えながら、自分はずるいと思った。
ミヤコは自覚している。自分は善人ではない。
追い詰められたら、どんな手も使う。
夫を取り返すためなら、民衆を鼓舞して戦いに誘うこともした。死者を出さなかったのは、自らの罪滅ぼしだ。
マナがお腹で死にかけた時は、向こうの世界にまで行った。ここでは手に負えないとわかっていたから。
自分の愛する者のためなら、どんな手段も使う。独善的でもいいと思っている。
なぜルーは…こんな私を愛してくれるのか。
実はミヤコは、今でも不思議なのだ。
病院内がざわついた。
「ル、ルシウス様?!」
ミヤコの時とはまた違う、医師たちの驚いた声がした。
気配を感じてやって来たのだろう。
院内をスタスタと歩くルシウスは、なんだか場違いな雰囲気だ。
「ルー?今戻ろうと思ってたのに」
「ミヤコ、手伝え」
ルシウスが、いきなりミヤコの手を引いた。
「なあに?」
強引に翔んで、ルシウスに連れられてやって来た場所にミヤコは戸惑った。
ここは…
ヘリアスの囚われる結界牢の前だった。
「ミヤコ」
驚いたヘリアスが立ち上がる。
ちらっとそれを横目で見て、ルシウスが言った。
「ミヤコ、俺に一旦力を返して欲しい。こいつを洗脳する」
「な、何だと…」
ヘリアスが動揺する。
「…………………」
黙ったままのミヤコに、ルシウスが怪訝な顔をした。
「どうした?」
じりっと後ずさった。
私…やっぱりずるい…
ひどい人なのは、多分私の方だ。




