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現代かぐや姫

作者: 条小 生牙

 今となっては昔のこと。

 竹取の翁というものがいた。

 名をさぬきの造という。

 毎日、野山に入って竹を取る。

 ある日、根元が光る竹がひとつ。

 不思議に思って近づく翁。

 そこには三寸ぐらいの人がとてもかわいらしい様子で座っていた。


―――


 これは竹取物語の冒頭である。

 古典文学が好きな私が最も面白いと思う物語である。

 あの奇妙奇天烈なファンタジー感が好きだ。

 文章でもわかる、幼少期のかぐや姫の可愛さ、大人になってからの美しさ。

 毎日というわけでもないが、一週間に一回はかぐや姫ってどんな容姿だったんだろう? と考えている。

 そんな私だから、今目の前にいる少女に出会ったのだろう。

 三寸とは言わないが、百センチくらいで、とてもかわいらしく、私のベッドに座っていた。



―――



 私の子になるはずだったの人だ、と翁は思う。

 翁は家に持ち帰る、妻に預け育てさせはます。

 かぐや姫はかわいらしいこと、この上ありません。

 とても小さいので、かごに入れて育てます。

 竹取の翁はかぐや姫を見つけて以来、竹を取ると黄金が入っている。

 このようにして、翁は次第に裕福になっていきます。


―――


 私は数秒間呆然と部屋の出入り口に立っていた。

 一瞬の沈黙を破ったのはその少女である。

「ママ?」

 もちろん私の他には誰もいない。では、誰のことだろう?

 一旦確認のため部屋を見渡すが、やはり誰もいない。もし居たら怖い。

 いや、その状況はもう生まれている。

 また数秒間の沈黙が生まれる。

 今なおベッドに座っている少女は、数秒不思議そうな顔をしたあと、なにかを感じ取ったのか、はっとした顔でこちらに指を指した。

 あー、私ね。私がママか。…っ!

 瞬間、脳の思考回路が爆発的に作動する。

 なぜ私がママに? いや、それよりこの少女はどこから家に入ってきた? 両親は仕事で遅くなり、家に人は居ないし。

 そんなことよりも、もっと重要なこと、この少女は誰?


 そのあとは私が質問攻めをしても、なにも答えてくれず。

 両親が帰ってきて、その少女を見ても、そこに今まで住んでいたかのように振る舞っていた。

 一週間が経ち、私は家庭の変化に気付く。

 お父さんは課長から部長に昇格し、給料が上がったことに。

 なぜいきなり昇格したのか分からないと、お父さんが言っていた。だが私はなにか私が知っている物語に似ていると思っていた。



―――



 かぐや姫は約三ヶ月で人並みの大きさの人になります。ですので、髪上げなどして、裳を着せます。

 翁はかぐや姫を寝所から外に出さずに、大切に育てます。

 かぐや姫の容姿はこの世の誰よりも清らかで美しく、家の中は暗いところがなく光で満ち溢れていました。

 翁は気分が悪く、苦しいときも、かぐや姫を見ると、苦しいことも、腹立たしいことも気がまぎれました。


―――


 少女が家に来てから約三ヶ月経ったある日、少女の身長は高校生くらいの大きさ、約一五五センチになっていた。

 成長につれて髪も長くなり、腰くらいの長さになったので、少女の意思で髪を結いました。新しい服も買いました。

 両親は、我が子以上に可愛がりました。私自身もあの時の混乱が嘘のように記憶から消えていて、妹のように、時に喧嘩したり、時に一緒に遊んだり、そして可愛がりました。

 少女の容姿はモデルのように美しく、アイドルのように可愛く陽気で、家庭が笑顔で満ち溢れていました。

 お父さんは仕事で疲れが溜まっていても、その少女を見ているだけで、心に温もりを感じました。



―――



 翁は黄金の入った竹を取ることが長く続きました。

 そして翁の権力はますます大きくなっていきます。

 かぐや姫が立派な大人になったので、御室戸斎部の秋田を招き、名前を付けさせました。

 秋田はなよ竹のかぐや姫と名付けました。

 このとき三日間宴会をし、男は誰でも構わずに呼び集め、あらゆる音楽の遊びをしました。

 世の中の男たちは身分は関係なく、どうにかしてかぐや姫を手に入れたいと思いました。


―――


 お父さんはたちまち出世し、とうとう部長にまで出世した。

 少女は自然と姫野香夜と呼ばれていきました。

 香夜の誕生日が最近あったのでその日は部長である父の部下とその息子、娘を呼び集め、とある飲食店で盛大に開きました。

 部下の娘たちは香夜の美しさに嫉妬し、息子たちはその可愛いさに惚れました。



―――



 たちまちかぐや姫の美しさの噂は日本中に広がっていきます。

 日本中の男たちはチャンスを伺い、翁の家の周りで朝から晩まで居座っていました。

 それが長く続き、諦めて帰るものが出始め、結局残ったのはたった五人でした。

 彼らはかぐや姫に無理難題を言われ、嘘をつくもの、病にかかるもの、怪我をするものなど、結局かぐや姫と結婚をするものは出なかった。

 とうとうその噂は帝の耳にも入り、帝は狩りをしに行くふりをして、かぐや姫の姿を見に行った。

 ちらっと覗いただけでもかぐや姫と分かる存在感があり、それに興奮した帝はかぐや姫の近くに行き、捕まえようとするが逃げる、捕まえても顔だけは見せない。そして、ふと消えた。

 帝は頭が冷めたのか、かぐや姫に姿を一目見たら帰ると言い、かぐや姫は姿を現した。

 そして帝は帰った。かぐや姫は帝の周りにいる女性たいよりも美しかった。


―――


 香夜の美しさ、可愛いさはお父さんの会社でも噂が広がります。

 香夜は会社の中でも役職が高い人の息子にお見合いをさせられました。

 しかし、どれも断りました。

 私は聞きました。

「どうして断ったの?」

 香夜は思い詰めた顔で言いました。

「ママにはわからない」

 ママ?

 私はお母さんのことだと思った。

 とうとうその噂は社長の耳にも入り、是非息子をと、お父さんと話しを裏で進めていました。

 しかし、香夜はそれさえも断りました。

 お父さんは一目だけでもと言って、香夜を社長の息子に対面させました。しかし、香夜は顔を上げません。

 社長の息子はとうとう業を煮やしたのか、「顔を上げてくれたら帰る」と言いました。

 香夜は顔を上げます。

 そのとき、社長の息子はどんなお見合いをさせられた女性よりも、綺麗で可愛いと思いました。



―――



 かぐや姫と帝が最初に会ってから三年経ち、その間文通をしていました。

 その頃からかぐや姫は月を眺め始めました。

 かぐや姫がただ月を眺めているのではなく、深刻な顔で見ているときもありました。涙を流すときもありました。

 翁は聞きました。

「なぜ月をじっと眺めているのだ、生活に不満でもあるのか」

 かぐや姫は言い訳をするように言いました。

「ただ、自然と月が目に入ってしまうものですから」

 それから数ヶ月経ち、秋の十五夜という夜が近づいてきました。

 かぐや姫は外に出て、思う存分泣いています。

 かぐや姫はとうとう口を開きました。

「前から言おうと思っていましたが、私はこの国のものではありません。前世であることをしてしまったからです。そしてその迎えが十五夜に訪れます」

 翁は許せません。かぐや姫と抱き合い泣きました。

 噂は帝にも伝わります。十五夜に軍隊を二千ほど送りました。

 しかしそれは意味を成しませんでした。

 天からきた人たちに迎えられ、手紙を残し、天の羽衣を着た、記憶を失ったかぐや姫が天に帰っていきました。

 翁は泣きました。


―――


 香夜は最近月を見ることが多くなってきた気がする。たまに泣いているときもある。

 十五夜の夜が近づいてきました。

 香夜は人目を気にせず、朝から泣きました。

 流石に両親は異変に気付きます。

 お父さんが聞きます。

「なぜ泣いているんだい?」

「お迎えが近いから」

 両親はその返答の意図がわからず、困りました。

 私はその言葉になにか、引っかかっていることに気付きます。

 そして夜に何が引っかかっていたのかわかったのです。

「竹取物語っ…」

 つい口に出してしまいます。その瞬間、最初に会った出来事が頭に浮かんできました。

 そして私は迷わず香夜がいるはずの部屋に駆け出しました。

 しかし香夜は部屋にいませんでした。

 私はめげずに探し続けます。

 数分探して、庭に香夜が何かを待っているかのように呆然と立っていました。

「香夜!」

 香夜はこっちを振り返ります。その顔は泣きはらしたような感じでした。

「ごめんね。ママ。もう迎えがきたみたい」

 私は思わず、香夜に抱きつきました。

「香夜、行かないで! 私思い出したの、私は香夜…いえ、かぐや姫を産んだ母親の生まれ変わりだって」

「ママっ。ありがとう、思い出してくれて!」

「私はもうあなたに月の都にいた様なつらい思いはさせない」

「でももう…」

「大丈夫! 私に任せて!」


 そういって私のお姉ちゃん、いやママは月の使徒たちを追い返し、現代で他の家族と同様に暮らせましたとさ。

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