第八話「鰹節ときどきお仕置き」
僕は夕日に照らされる窓ガラスを見ながら、腕を机に肘掛けながら見ていた。未だ桜の花びらが舞っているのは、この教室からでも確認できる存在感のある木のせいだ。
だた、夕焼け色に染まる桜の木が色づいていて、いつも見る桜とは一風変わった印象だった。夕焼け桜もなかなか良いものだ。
「なにやってるニャン。悲壮感が出ているニャン」
そうふけっていた所に、猫川が手の甲で頭をかきながらこっちに向かって来た。
「ああ、桜が綺麗だなって」
「そうなの。……、ちなみに机の上にあるものはなんなのニャン」
猫川が僕の机をずっと見ている。
「今日のお昼のだよ。この鰹節、お好み焼きを食べてたけど使わなかったんだよ」
僕は目を見ながら言った。猫川は目を逸らした。
「ふ、ふーんだ。私が鰹節の存在に興味を示すわけないじゃないニャン」
猫川はそう言っていたが、鰹節の袋を手で触りながら、年頃の女子高校生には見えないほどに、よだれを垂らしていた。
「ただ、あんたがいらないのなら、貰ってあげてもいいニャンよ」
そう言いながらも、鰹節が入った袋をガン見していた。
「欲しいのか?」
僕は猫川にだけ聞こえるほどの声量で言った。
「欲しいニャン」
コクリと首を縦に振り、そう大きな声で言った。
「欲しい?くださいだろ?」
僕は鼻で笑いながら猫川を見つめた。
「くっ、……ください」
猫川の声が小さくなっていく。さすがにプライドが邪魔をしているのだろうか。
「よく聞こえんな。ください?僕の名前に様をつけて、このいやしい猫娘にそこにある鰹節を恵んでくださいませ。だろ」
猫川は身体を震えながらも、僕の目をチラチラ見ていた。
「じょ……ジョン様、このいやらしい猫……」
「ちょっと待て、それはニックネームだ。僕の名前は……」
僕は猫川の言葉を遮り、突っ込みを入れたところで限界が来たようだ。
「もういいニャン。ジョンのあほー」
そう言い残し、猫川は手をにぎにぎしながら僕の顔をひっかいた。そして、机に置いてあった自分の鞄を手に取るとこの教室から飛び出した。
「やりすぎたか」
ひっかかれた顔の部分を押さえていると、頭をコツンと誰かに叩かれた。
「なにをやっとるのじゃ。お前様は」
今日も着物姿で、サラサラの金髪が美しい、エリザ校長だった。
「遊びすぎました」
僕は頭をかきながら、僕は決め顔を見せた。
「これもコミュニケーションです」
「肝心の生徒が逃げてはだめじゃろ。お前様、少しはお仕置きが必要かもしれんの。酌量の余地なしじゃの」
「は?お仕置きってなんで……」
話の途中で、エリザ校長が僕の首筋をトンと叩いた。
その瞬間、目がくらくらして、倒れてしまった。それからの記憶があいまいだ。僕が目覚めると、椅子に座らされていて手首や手足には手錠がされて身動きが出来なくなっていた。
「ようやくお目覚めかの」
目の前にはエリザ校長の姿が見えた。しかし、先ほどの和風着物姿ではなく、ワンピースの姿で背中には黒い翼が付いていた。
僕は周りを見渡すと、コンクリートで出来ている壁、机と椅子がぽつんと1つだけあり、この部屋には窓もなく、殺風景な雰囲気が広がっていた。春だというのにこの部屋だけは冬の冷たさが未だに感じられた。
「お前様には生徒に酷いことをやったからお仕置きじゃ」
校長が口を開けると牙のような八重歯を見せつけた。
「痛いのは一瞬じゃよ。あとは次第に馴染んで気持ちよくなる」
僕はその言葉に、ただならぬ気配を感じた。やばい。犯される。
「やめてくれぇぇぇぇええええええええ」
僕は手足を動かすが手錠で繋がれているので身動きができない。
「無駄じゃ、それにしても久しいのこの感じは、ゴクリ、猫娘同様、よだれが止まらぬ」
僕の首筋をなめると、八重歯で首筋を噛み、全体の血が吸われているような感覚に陥った。まるで注射器で血を吸われている感覚に近かった。
「くっやめろ。僕が僕で無くなる」
僕はそう叫んだ。叫びたくなったのだ。ただエリザ校長は引いていた。
「何を言っておるのじゃ。意味が分からない中二病発言は止めておくれ、せっかくのお前様の血が不味くなる」
今、なにが起こっているかが理解出来ないまま、僕は再度気を失っていた。目覚めた時には家のベットで目が覚めた。これは夢だったのか?思い出そうとすると頭痛がする。
だけど、身体全体がすっきりしている感覚だ。不思議と身体が軽くなっていた。
「仕方ない。猫川には鰹節買ってやるか」
僕はそうつぶやき、朝の陽ざしと共に学校に向かった。